現在27歳の井上尚弥のプライムタイムがいつなのか?

今なのか。それとも、もう少し先なのか。 

いずれにしても、キャリアのピークに差し掛かっているのは間違いないでしょう。

2018年から3年間で4試合、今年9月にジョンリール・カシメロ戦をこなして5試合というのは物足りない数字ですが、 軽量級としては十分すぎる報酬と評価を手にした井上のステイタスを考えると、年2試合は絶対的に少ないわけではありません。
スクリーンショット 2020-06-14 14.24.38
現状のバンタム級で井上の脅威となりうるのはカシメロとギレルモ・リゴンドーくらいです。ドネア戦でPFPランクが上がった一方で、カシメロとのオッズや専門家予想が接近するなど、現実の実力評価は液状化している井上ですが、バンタム級でハイリターンの相手は見当たりません。

ただ、問題はその「中身」です。

この5試合の相手はジェイミー・マクドネル、ファン・カルロス・パヤノ、エマヌエル・ロドリゲス、ノニト・ドネア、そしてカシメロ。 

ロドリゲスとドネア、カシメロは現役王者、マクドネルはセカンド王者、パヤノも元王者と5人ともバンタム級の強豪でした。 

これで「中身がない」とすると「現状のバンタム級が中身がない」というのと同じことになります。

しかし…残念ながらそういうことです。

井上のパフォーマンスがウェルターやミドル、ヘビー級で繰り広げられていたなら、とんでもないことになりますが…悲しいかなバンタム級です。

なぜウェルター級ではWBSSをやらないのかを考えればわかりますね…そういうことです。

PFP3位評価のファイターが戦うには、バンタム級はあまりにも薄っぺらい相手ばかりです。

もちろん、カシメロに勝てば3つのタイトルをコレクションすることになり、Udisputed Championに王手がかかります。

4団体を自力で完全統一してUdisputed Champion に就いたのは歴史上、バーナード・ホプキンスとテレンス・クロフォード、オレクサンダー・ウシクの3人だけ。日本人ではもちろん初の快挙。

ホプキンスら3人は、その圧倒的な実力に人気がついてこない地味なボクサーでしたが、団体乱立の時代に Udisputed Champion が特別な価値を持っていることは言うまでもありません。

ただ、これに拘り過ぎて試合枯れに陥るほどの価値が今のバンタム級にあるかとなると疑問符がいくつも湧いてきます。


そもそも、軽量級にウェルター級やヘビー級など人気階級でいう「ビッグネーム」なんて存在しません。もし存在したら、不人気階級ではありません。

ドネアは軽量級では〝ビッグネーム〟ですが欧米ではほとんど無名。

トップランクから契約満了を待たずに「不良債権」と放り出された不人気ボクサーで、敵地で戦うしかないドサ回りファイター、ロードウォリアーです。

軽量級ファンからしたらドネアの待遇はおかしいと思いますが、それが世界の現実です。

そこから目を背けて「ドネアは米国でも大人気で高額報酬を得ている」と何の根拠もなく思い込むと、真実は見えてきません。

ドネアと同じロードウォリアーのカシメロに至っては、3階級制覇しながらもキャリアハイの報酬が入札効果で得た7万5000ドルという有様です。

人気階級と比べて「報酬」「名前」が絶望的に小さくなるのは仕方がないにしても、バンタム級には井上を例外にして「評価」が高いタレントすらいません。

一つ下のジュニアバンタムもバンタムよりはマシとはいえ「報酬」「名前」のあるボクサーは皆無です。

ただし「評価」ではリング誌王者ファン・フランシスコ・エストラーダやシーサケット・ソールンビサイのPFPファイターに、元PFP1位のローマン・ゴンザレス、PFP予備軍の井岡一翔、ジェルウィン・アンカハスと軽量級には珍しい看板のあるファイターが名を連ねます。

しかし、井上が減量苦で脱出した115ポンド級に舞い戻ることは考えられません。

あるとしたら、彼らが階級を上げて来ることです。



今度は、一つ上のジュニアフェザー級シーンを見てみましょう。
スクリーンショット 2020-06-14 14.23.36
122ポンドもPFPファイターは見当たらないものの、1年足らずで5連続KO防衛に成功しているWBO王者エマヌエル・ナバレッテ、無敗のIBF/WBA王者ムロジョン・アフマダリエフは、評価の高いファイターです。

それだけに、オッズと予想はかなり接近するでしょうし、ナバレッテなら井上に不利予想が立ってもおかしくありません。

このクラスにはIBF暫定王者・岩佐亮佑に亀田和毅、勅使河原弘晶がリング誌ランクに食い込んでおり、和毅は先日「井上君との試合はみんな見たいでしょう」と発言、日本人対決の期待も膨らみます。

ただ、井上にとってメリットのある唯一の相手、ナバレッテはフェザー級転向を口にしており、6月20日にメキシコシチーのアステカTV内でウリエル・ロペスとフェザー級10回戦のリングに上がるため、ジュニアフェザー級に戻る可能性は薄くなっています。



そうなると…。「米国で注目されるには最低でもフェザー」(井上)のフェザー級、126ポンドです。
スクリーンショット 2020-06-14 14.24.10
ドネアが破壊された126ポンドですら「報酬」「名前」「評価」とも際立った選手はいません。

しかし、ボクシングファンがちょっと眺めればわかるように、ジュニアフェザー以下の不毛な砂漠階級とは明らかに異なる景色が見て取れます。

井上がこの10人と戦うとなれば「圧倒的有利」のフラグは、誰に対しても立ちません。

ジョシュ・ウォリントン、ゲイリー・ラッセルJr.、シャクール・スティーブンソン相手なら完全不利予想間違いなしです。

逆に言うと、この3人をぶっ倒せば井上が希望する「パッキャオが見た風景」の一端を拝めるはずです。

特に、ボブ・アラムとESPNが「メイウェザー2世」と売り出し中のスティーブンソンはいいですね。井上がコールしたらすぐにでもまとまりそうです。

カシメロ戦をクリアしたら、井上も口にしていいと思います。

井上が身長165㎝/リーチ171㎝、スティーブンソン173㎝/173㎝、ウォリントン170㎝/170㎝、ラッセルJr.164㎝/163㎝。

数字上はラッセルJr.より上というのは意外ですが…。

フレームで劣り、得意のリバウンド効果が激減してしまう126ポンドで井上がどこまで戦えるのかは未知数ですが「最低でもフェザー」と口にしたのは思いつきや他人事ではなく、覚悟の表れだったはずです。 

まずは、9月のカシメロ戦。ここは軽く突破しましょう。