Boxing is dying industry. ボクシングは滅びゆく産業である。


2018年にボクシング事業から撤退したHBOの幹部はこう言い放ちました。


ライバルの Showtime と〝共催〟した史上最大のメガファイト「パッキャオvsメイウェザー」(メイウェザーと契約していたShowtimeでは「メイウェザーvsパッキャオ」)からわずか3年で、皮肉にもHBOのボクシング事業は清算されてしてしまいました。
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普通ならその年一番のイベント(メガファイト)が選ばれる「EVENT OF THE YEAR」。昨2019年は「アンソニー・ジョシュアvsアンディ・ルイスJr.」の「Crash of the Dunes」(砂漠の決闘)が選ばれましたが、次点には我らが「世界中の軽量級選手に夢と希望を与えた『さいたまスーパーアリーナ』」が肉薄していました。

しかし…。2018年一番のイベント(出来事)は試合ではなく「HBO LEAVES BOXING」(HBOのボクシング事業撤退)が選ばれてしまいました。


「HBOとボクシングはイコール」(リング誌)という大きな存在が事業破綻したわけです。

米国でのボクシングの社会的地位は1960年代後半から下り坂、全体市場も少なくとも1980年代後半から縮小を余儀なくされ、このまま減退していくと2050年までにボクシング産業は消滅するという試算もあります。

そして、太平洋を挟んだ日本のボクシングに目を向けても「社会的地位」は米国同様に低落傾向が続いています。

しかし、最後のボクシングヒーロー・具志堅用高のあとにも辰吉丈一郎、亀田興毅という国民的な関心を呼ぶタレントが間歇的に登場していることからも、滅びゆく産業には見えません。

また、ロンドン五輪金メダリストの村田諒太や、日本人で初めてリング誌を単独カバーした井上尚弥は純粋なアスリートとしてスポーツファンから高く評価されています。

多くの産業で「米国の10年遅れ」と言われるように、ボクシングでも10年遅れで衰退の道を辿っている日本ですが、シュガー・レイ・レナード以来、国民的英雄が生まれていない米国と日本を単純に同一視することは出来ません。

もちろん、この論を待たずとも日本の未来は衰退する米国の中心地ラスベガスにあるなんて妄想は、馬鹿げた白昼夢です。

ラスベガスを最も「正しく沸かせた日本のスポーツ」は大相撲興行でした。奇しくも、それはマンダレイ・ベイのイベンツセンターで開催されました。

「井上vsカシメロ」とは比較にならない関心を集め、上階席封鎖なんて悲しいことはせず、高額のチケットがほぼ完売して3日間も連日フルハウスにした2005年10月7〜9日で行われた〝ラスベガス場所〟。

また、ボクシングでは米国での軽量級への関心・需要の低さからコネクトすることがないままの日米市場ですが、プロレスでは半世紀以上も前から意外なほど濃密なギブ&テイクの関係を築いてきました。

日本のプロレスは米国市場でも一定の需要があるのです。

昨日の日経産業新聞で新日本プロレスのハロルド・ジョージ・メイ社長は、ボクシングとは比較にならない絶望的な危機を何度も乗り越えてきたプロレス経営について語っています。

「スポーツとして否定」「最強として否定」とプロレスが直面した存在意義に関わる致命的な危機と比べ、ボクシングの危機は「団体と階級の増殖で王者の権威が低下」「他のスポーツが台頭して相対的な地位が下落」という生温いものでした。

しかし、それは逆に言うと「茹でガエル」「ゆるやかな自殺」に他なりません。 

いきなり、熱湯をぶっかけられたプロレスというカエルは既成概念という湯船から飛び出さざるをえませんでした。

しかし、徐々に温度を上げられるぬるい湯船に浸かったボクシングという名のカエルは進行している危機の大きさを理解できずに、最後は茹で上がって死んでしまうのです。

大相撲の「ラスベガスへのアプローチ」と、プロレスが成功している「日米関係」。

軽量級ボクシングには大相撲が持つ異国情緒や迫力がない、プロレスのような〝共通語〟といえる実質同一階級のエンターテインメントではない。


…だから、ボクシングには、特に軽量級のボクシングには応用できない。

そう考えるのが、常識かもしれません。

しかし、大相撲もプロレスも、何の工夫もなく、日本でやってきたことと同じようにやって大成功を収めたわけではありません。

このブログをスポナビで始めた3年前、最初の頃に書いたテーマ「二匹のカエル」の焼き直し、続編です。

すでにここでも書きかけの「井上尚弥のムーンショット」が目指す着地点とも完全にかぶっちゃう内容になりますが、そういうブログなのでご勘弁。

出来ることなら、あらゆるスポーツやら赤煉瓦やら、ワンタン麺やらカレーライスやら…全ての話を一点に帰結できるなら、そかに落とし込みたいのですが…。

ではでは、日経産業新聞のジョージ・メイの記事にインスパイアされちゃったので、少し深掘りしてゆきます。