プロボクシングに巣食う悪の象徴、承認団体。

20世紀初めまで、BBBofC(英国ボクシング統括委員会)に繋がる英国貴族の道楽グループや、ニューヨーク州やオーストラリアなど強力な自治体・国家が好き勝手に世界チャンピオンを認定、特に世界中からボクサーが集まるニューヨーク州は強力なポジションを確立していました。

当時、ボクシングが人気の州は多く、1920年にニューヨークと対抗する13の州が「連邦承認団体」NBAを発足させます。

しかし、ファーストエントリーで地理的な優位性もあるニューヨーク州の優位性を崩すのは容易ではなく、1948年に設立された欧州ボクシング連合(EBU)もBBBofC とニューヨーク州との提携を選択、この時点で世界から孤立したNBAは消滅してもおかしくないはずでしたが…。

1940年代、ボクシングに大きな転機が訪れます。テレビの普及です。

試合をどこでやろうがスポンサー付きのテレビ放映が、ビジネスとして成立する時代が幕を開けたのです。

よほどのビッグファイトでなければ、ヤンキースタジアムやポログラウンズに何万人も集める必要は無くなりました。

ニューヨークの地理的優位性は完全に瓦解したのです。その一方で、地理的優位性の全くなかった西の果ての砂漠の街がボクシング産業の一大拠点になりました。ラスベガスです。

ニューヨークの地理的優位性の前に致命的な欠点に見えたNBAが全米に展開する「連邦型」スタイルでしたが、テレビの普及によって欠点どころか大逆転の武器になったのです。

こうして、長らくボクシング界で圧倒的な地位を築いてきたニューヨークでしたが、今では〝東のメッカ〟に過ぎません。

ラスベガスやカリフォルニア、テキサスなど大きな市場と多くのファンを抱える〝西〟が太陽だとしたら、〝東〟のニューヨークは月になってしまったのです。

前置きが長くなってしまいました。

今日のテーマは「タイトル」。現状のボクシング界は団体と階級の増殖だけでなく、腐敗団体が同一階級にいくつも世界王者を乱立させる異常事態に陥っています。

しかし、この団体同士の浅ましいパイの食い合いは、100年前から受け継がれた醜い遺伝子です。

100年前も反目し合うニューヨーク州とNBAは同一階級で別の世界王者を擁立することがあり、ボクシングファンは「世界王者は一人だけにしろ!」と怒っていたのです。

【TITLE タイトルとWBC、その腐敗の流儀】

WBCほど仕事熱心な承認団体はいません。

階級が10しかなかった1963年の発足当時では、10階級の世界タイトルマッチしか承認することができませんでした。

「階級を増やせばもっと儲かるぞ!」というのは普通の人の発想です。

WBCはもっと賢いのです。

「世界チャンピオンが一つの階級に一人だけなんて既成概念は捨てよう!」とWBCにとって大きな一歩が踏み出され、ボクシングファンは恐るべき混乱をもたらす谷底に突き落とされたのです。

「メキシコ人にも名誉ある世界タイトルマッチのチャンスを!」とマテオス大統領が祈願したのは「メキシコ人のチャンスを増やそう」ということであって「世界タイトルの数を増やそう」ではありませんでした。

もし、マテオスが21世紀に大統領になっていたら「メキシコ人にチャンスを!」などという寝言を吐くことはなかったでしょう。そもそも、ボクシングに興味をもつことはなく、サッカーや野球でメキシコ人が世界と戦える道筋を整備していたはずです。

WBCのベルト量産工場は年々グレードアップしています。

最新の「フランチャイズベルト」は非常によく考えられた商品です。

マウリシオ・スライマン会長が誇る「最上仕様のベルト」は、指名試合を免除し 、引退後には「名誉王者」として永遠にWBCが付きまとうことになります。

金払いの良い人気選手を囲い込むためには、格好のベルトです。

理事会の2/3の承認を得ることで、あらゆる階級に適応できることから井上尚弥や井岡一翔らも間違いなくターゲットに入っているでしょう。

「暫定王者」はもはやその言葉の意味を失っています。

「王者が怪我などの理由で試合ができない場合、世界戦を維持するために設ける王座」。こんな王者が認められるわけがありません。

指名試合を拒否したり、防衛戦を一定期間行わない王者はタイトルを剥奪すればいいだけです。

 WBCの業務は「階級と王者を量産すること」に加えて「1試合でも多くの世界戦を承認すること」です。

最近では、2月にタイソン・フューリーがデオンティ・ワイルダーからWBCヘビー級タイトルを奪うと、すぐにディリアン・ホワイトとアレクサンデル・ポベトキンが争う暫定王者決定戦がスケジュールされました。

「王者が長らく試合から遠ざかるために作られた」という名目の暫定王者は、王者が健康で活発な状態であっても作られるのです。

スライマンは9ヶ月で5試合も承認させてくれるエマヌエル・ナバレッテを抱えるWBOが羨ましいとは思っていません。あんな王者がいたら暫定王者を作る隙もないからです。

「運が悪いな、ご愁傷様」と笑っているはずです。

シルバー王者も謎です。

指名挑戦者決定戦の勝者に贈られるということですが、承認料を課金する以外に、何の意味があるのでしょうか?

さらに、YouTuber対決で用意される「 YouTube世界チャンピオン ベルト」に至ってはもう言葉も出ません。
マネー
そしてWBCで最も高価なベルトはフロイド・メイウェザーvsコナー・マクレガーの勝者に贈るために製作されたマネー・ベルトです。

ベルトはグリーンのクロコダイルレザーを使用し、パックルには3360個のダイヤと600個のサファイア、300個のエメラルド、そして1.5キロの24金が散りばめられており、一説には制作費100万ドルとも言われていますが、その制作費は日本人が世界戦で支払った承認料などが原資となっています。


「世界チャンピオンは各階級に1人だけである必要はない」。言語を破壊する禁断の領域に深く潜行しているWBCにとって、言葉など意味を持ちません。

彼らにとって意味があるのはベルトをとにかく量産すること、それだけなのですから。