ボクシングの階級には貴賎があります。

ヘビー級やウェルター級のメガファイトは、ニューヨークやラスベガスの大会場で大きな注目を浴びて挙行されますが、軽量級ではそんなイベントは逆立ちしても打てません。

日本では軽量級が評価されています。

しかし、村田諒太をみるまでもなく、もしウェルター級やヘビー級で世界に通用するボクサーが現れたら話は別です。

身も蓋もない言い方ですが、日本で軽量級が人気なのは「それしかない」からというのが最大の理由かもしれません。

それでも、欧米で関心の低いフェザー級以下の軽量級はメキシコや英国のスーパースター、レオ・サンタクルスやカール・フランプトン、アブネル・マレスの3人が絡まなければ、日本で戦うしかビッグマネーを手にすることが難しい階級なのです。

その日本でも、報酬とリスクが高い王者や挑戦者は呼ばれません。

軽量級でいうビッグマネーはせいぜい30〜50万ドル。その金額を安定して手に出来るのは日本のスター選手に限られます。

バンタム級以下ではPFPファイターでマニアから圧倒的に支持されているファン・フランシスコ・エストラーダですら、20万ドルがキャリアハイというのが現実です。

井上尚弥が戦ったバンタム級トーナメント出場選手のファイトマネーは、さらに悲惨を極めます。

ノニト・ドネアでさえ報酬が明らかにされていません。エマヌエル・ロドリゲスやゾラニ・テテは10万ドルに遠く及ばない、発表するとファンが引いてしまうレベルの金額であることは間違いありません。

井上が「米国で大きな舞台に立つにはバンタムでは無理。最低でもフェザー」と冷静に語っていましたが、サンタクルスやアブネル・マレス、カール・フランプトンが去った現状のフェザーではまず不可能です。

フェザーのその上、ジュニアライトも欧米目線では軽量級。しかし、この130ポンドを橋頭堡にしてオスカー・デラホーヤやフロイド・メイウェザーが正真正銘のメジャー、ウェルター級へ向かいました。

内山高志がスターが踏み台にして去ってゆく背中を虚しく見送ったジュニアライト級でしたが、ここにきて状況が激変しています。

瞬間的な盛り上がりに終わるでしょうが、それでもスターダムへの通過階級ではなく、下の階級から上がってきたスターが最終決着をつける舞台という意味合いを帯びてきたのです。

今日、130ポンドのデビュー戦でいきなりWBA王座に就いたレオ・サンタクルスはジュニアライト級以下で最も集客力のある人気者。

さらに、サンタクルスと100万$ファイトを展開したカール・フランプトンとアブネル・マレスもすでに130ポンド進出を表明。

この潮流は130ポンドが体格的・慣習的に上限階級とみられる日本人ボクサーにとって、明らかに僥倖です。

日本人でも前WBO王者の伊藤雅雪尾川堅一西谷和宏末吉大らが世界ランキングに名前を連ね、ビッグネームとの対戦は夢物語ではないのです。

現在の世界地図を俯瞰すると、まずWBAはスーパー王者がレオ・サンタクルス。この階級でどこまで実力があるかは疑問ですが、最も人気があります。つまり、一番美味しい相手です。

日本人の130パウンダーは伊藤と尾川は手強い、西谷と末吉は未知数の怖さがあり、サンタクルスにとってはハイリスク・ローリターン。相手にしてもらうには世界タイトルを獲るのが最低条件です。

セカンド王者はアンドリュー・カンシオ。アルベルト・マチャドを番狂わせで沈めたカリフォルニアをベースに戦う31歳は階級最強候補と目されていたものの、2015年に8ラウンドKO勝ちしているレネ・アルバラードとの再戦でまさかの7ラウンドストップ負け。

30歳のニカラグア人とIBFジュニアフライ級王者フェリックス・アルバラードは双子の兄弟(フェリックスと拳四朗の統一戦が流れてしまったのは残念でした)。
Alvarado-Cancio-action-shot-770x490
今日はアレクシス・アルゲリョがルーベン・オリバレスを13ラウンドKOしてフェザー級王座を獲得した記念日で、ニカラグアのボクシングファンは久しぶりの明るい話題に沸き立っているはずです。

WBCのストラップはミゲール・ベルチェルトが持っています。

三浦隆司のボンバーも空転させ、フランシスコ・バルガスを2度に渡って撃退。ミゲール・ローマン、ジェイソン・ソーサといった130ポンドの番人を難なく倒して6連続防衛中。

まだ、本物の強豪とは拳を交えていないとはいえ28歳のEl Alacran(サソリ)は大きな欠点が見当たらない万能型です。

天下を取る器には見えませんが、ベルチェルトを粉砕するボクサーがこのクラスの王者でしょう。

ベルチェルトに勝てると見られていたジャーボンテイ・デービスがライト級へ戦場を移したことで、このクラスの陰が色濃くなってしまいそうなところでしたが…。


IBF王者はテビン・ファーマー

アメリカン・アイドルという渾名がかなり違和感のある地味なサウスポーです。

自慢のスピードがたいしたことないことは尾川が証明済み。小さくまとまった決定力のない王者ですが、穴王者とは言い切れないしぶとさ、勝負根性は持ち合わせています。

その尾川は12月7日にWBOアジア・パシフィック王者ジョー・ノイナイに挑戦。IBFから路線変更しそうです。

24歳の〝Jaw Breaker〟が見掛け倒しでないことは清水聡戦で証明済み。危険な橋を渡りきれるか?


尾川が目指すWBOは伊藤から番狂わせでタイトルを奪ったジャメル・ヘリング

イラクの激戦区に2度も出征した海兵隊員で、そこで負ったPTSDに悩むサウスポー。

リング誌が「一方のボクサーを応援することはジャーナリズムに反するが、私たちは米国人。ヘリングの生き様と米国への忠誠心を考えたとき、彼を応援しない選択肢はない」と表明したアメリカンヒーロー。

11月7日に無敗のラモント・ローチを3−0で破り初防衛に成功。34歳という年齢からも、これから大きな上積みが期待出来るわけもなく、付け入る隙の多い王者ですが、日本に呼ぶのは難しいだけにぶっ倒すしかありません。



*****主要団体に絶対的な王者はいません。今日、WBAスーパー王者になったサンタクルスを例外にすると、130ポンドの王座には地味な風景が広がっています。

しかし、例外はサンタクルスだけで終わりません。

2016年のリング誌 Fighter Of The Year、2階級制覇を制覇したカール・フランプトンは11月30日にラスベガス・コスモポリタンでタイラー・マクリアリーを相手に130ポンドデビュー。

マクリアリーは無敗のホープとはいえ、誰に勝ったわけでもない26歳。ここで躓くようならフランプトン本人が覚悟しているように「引退するしかない」。

ビッグネームのフランプトンには是が非でも鮮やかに勝っていただき、その先に日本人との対決も期待しています。

そして、フランプトンと同じイベントに登場するのが今がプライムタイムの前WBOフェザー級王者オスカー・バルデス

ノニト・ドネアが対戦を突きつけられ「バルデスとは戦えない(勝てるわけがない)」と弱音を吐いてしまい、トップランクを去ったフェザー級の強豪王者。

ジャーボンテイ・デービスへの挑戦が眼疾でキャンセルになったアブネル・マレスも2020年にリングに復帰すると表明しています。

サンタクルス、フランプトン、バルデス、マレス。4団体の世界王者を遥かに上回るビッグネームの参戦で130ポンドは一気にスポットライトが当たる階級になりました。


さらに、日本でもお馴染みの名前も130ポンドの第二戦線でトップを窺っています。

次がプロ80戦目となるジョニー・ゴンザレス、そのゴンザレスを下したトマス・ロハスも130ポンドで頑張っているのです。

西岡利晃に大番狂わせでKOされたジョニゴンは、現在38歳。

山中慎介に糸の切れた操り人形のように斬り落とされたロハスは、山中より2歳年上の39歳。2連敗中ですが「もう一度世界王者になる」と現役続行を明らかにしています。


タレントが揃いました。誰と絡んでも、面白い試合が期待できそうです。

言っても切ないだけですが、内山高志や三浦隆司がいたらなあ…。