いよいよあと10日に迫りました。

現時点で、リング誌とESPNで、勝敗予想などのこの試合に関する記事は見当たりませんが、今がプライムタイムの井上尚弥が圧倒的に有利であることは間違いありません。

そして、36歳のノニト・ドネアがキャリア最後のページをめくろうとしているのも間違いありません。

直近10試合を振り返っても、26歳の井上は全勝9KOで内容的にも全く不安要素を露呈していません。

一方のドネアは7勝5KO3敗。前戦のステフォン・ヤングは左フック一閃で全てを清算しましたが、それまでの展開は被弾も目立ち、もたついた印象は拭えませんでした。

欧米で関心の低いバンタム級だけにオッズは井上1/10(1.1倍)、ドネア11/2(6.5倍)のスタートから微動だにしないままですが、井上勝利は鉄板です。
Inoue-v-Donaire

今夜のテーマはズバリ、井上に死角はあるのか?

どんなに完璧に見えても、欠点のないボクサーなど存在しません。井上にも魔法のガウンで隠された欠点がいくつもあるはずです。

もちろん、現時点のドネアに「そこ」を突ける能力があるのかどうかは、また別問題ですが。


①クロスレンジの戦いに不安はないか?

「井上はインファイトが苦手」。

そう囁かれた時期もあり、本人も意識していたことはリカルド・ロドリゲス戦で「クロスレンジでも上手く戦えた」と手応えを語ったように明らかです。

とはいえ、それは世界水準の実力が怪しいリカルドだったからです。

しかし、もう一人のロドリゲス、世界レベルのマニー・ロドリゲスに対しても最後はクロスレンジのパンチの交換で綺麗に倒して見せました。

ただ、2ラウンドのあのシーン。マニーの方が力みかえって大振りになっていました。あれだけモーションが大きいと誰に取ってもオーダーメイドです。

それでも、1ラウンドはコンパクトな攻めで井上をロープに追い詰めたマニーが、あそこまで雑になってしまった最大の原因は2ラウンドから井上がプレッシャーを強めたからに他なりません。

モンスターの 圧 に予想以上に気の弱さを露呈したマニーと同じように、ドネアもパニックに陥るのでしょうか?

クロスレンジで巧みにスイッチするドネアの左はリードであるとは限らない、変幻自在の妖剣です。

そんなこと、井上は百も承知でしょう。

ヤング戦でも、あれほど不細工な展開にはまっていたのに最後の左だけは絶妙の居合いで斬り捨てて見せました。

しかし、井上とヤングではステージが何段階も違います。

ドネアの左は要注意、それは当たり前です。しかし、自慢の妖剣が錆び付いているのもまた事実です。あの左が炸裂する前に、もっと劇的に試合が終わる可能性の方が何倍も高いでしょう。

マニーとの第1ラウンド、井上はどれだけ余裕を持ってロープまで下がったのか?

ドネアのプレッシャーが、過大評価のプエルトリコ人よりも分厚いことは間違いありません。

井上が「最初は固かった」と振り返ったマニー戦と同じように、立ち上がりの動きが悪いようならドネアが主導権を握る可能性もあります。

それでも、今のドネアの左は序盤ではヒットしないでしょう。


②ドネアのタフネスは井上を追い詰めるか?

井上のキャリアの中で今のドネアが最強かどうかは極めて怪しいですが、最強打者であることは疑いようがありません。

そして、やはり間違いなく打たれ強さも過去最高の相手でしょう。2階級上のフェザー級トップ戦線で戦ったドネアにとって井上のパワーは単純な脅威にはなりません。

「ニコラス・ウォータースのパワーとフィジカルを想定していれば大きく裏切られることはない」というドネアの考えに大きなズレはないでしょう。

ただ、井上の際立つところはタイミングです。ファン・カルロス・パヤノを失神させた「戦慄のジャブクロス」(英国ボクシングニューズ誌)も、マニーを砕いた「出所を隠したパンチ」(リング誌)もパワーに依存したフィニッシュブローではありませんでした。

しかし、やはり、ドネアは彼らとは違います。

井上にとってドネアが大きな重戦車に感じるようなら好き放題のパフォーマンスは出来ないでしょう。

…でも。その展開になったとしても、フェザー級で戦った装甲を井上に一枚一枚削り落とされたドネアが終盤ストップされるシーンが目に浮かびます。


③井上の顎は何で出来ているのか?

そのキャリアを一度も深刻なトラブルに見舞われずに終えるボクサーもいます。エドウィン・バレロのように。

しかし、バレロが打たれ弱い、防御に大きな欠陥があったことは、顎を突き出して口を開けたまま攻撃する癖を見れば明らかです。

爆発的に見えたパンチ力も、世界的には凡庸なアントニオ・デマルコが「決定的なダメージはなかったけど、8ラウンド終了の採点を聞いて(逆転は難しいと)棄権した。今思えば、最後まで戦えたのは明らかだったから連続KOは止めておくべきだったかも」というように。

井上は今なお、絞った段階から約10kgも減量。そして、あの顎の細さ。「フェザー級の世界ランカー相手にスパーリングでも打たれ強さを証明」なんて話は眉唾以下です。

井上の顎の素材は、マービン・ハグラーやフリオ・セサール・チャベス、エリック・モラレスのような鋼鉄ではないでしょう。

井上がその顎を撃ち抜かれたとき。

トーマス・ハーンズやドナルド・カリーのように、クリーンヒット1発だけで雪崩を打って楼閣が崩れることは十分に想像できます。

実際に、今の井上は「打たれ強い」と言われていたハーンズやカリーよりも説得力は脆弱です。

井上が「打たれ強い」とする根拠がもしあるとしたら、それは「一度も叩かれてない」から、それだけです。


 
④井上にBプランはあるか? 

井上はデビッド・カルモナ戦などで、試合中に拳を負傷したことで戦略を転換、Bプランで戦いました。

しかし、それは追い詰められての作戦変更ではありません。「狩り方」を変更しただけです。

互角の勝負。井上にギリギリの土俵際で、別の土俵に相手を引きずり込むモハメド・アリやシュガー・レイ・レナードのような芸当が出来るとは思えません。

それでもフロイド・メイウェザーがシェーン・モズリーに一撃を喰らってから一気に盛り返したように、マニー・パッキャオがアントニオ・マルガリートのボディにくの字になりながら完璧なアウトボクシングでそのラウンドを支配したような、引き出しがあるかどうか?

これまでの対戦相手の質があまりにも低いだけに、その不安は常につきまといます。しかも、今回のドネアは7年以上前に西岡利晃と対戦したときに「明らかに劣化している」(リング誌) 「いつものドネアではなかった」( ESPN)と下り坂だったボクサーです。

今回も、本当の引き出しを見せないまま終わる可能性が高いかもしれません。 



⑤ Styls makes Fight  井上にとってドネアはナンバー(相性の悪いジョーカー)か?

スポーツはレベルが上がれば上がるほど、勝敗の分かれ目は微妙な要素が支配します。中でも相性はシュガー・レイ・ロビンソンやアリ、パッキャオですらナンバーを持っていました。

もはや、誰も信じないでしょうがレナードにとってハーンズも100%明らかにナンバーでした。

しかし、そのカードはめくられるまで誰もわかりません。パッキャオに対するファン・マヌエル・マルケスがナンバーであることに気づくのに、メディアもファンもどれだけの時間がかかったことか。

海外ではまだ大きく取り上げられていない(おそらくこのままチラッと特集される程度でしょう)まま、試合当日を迎えてしまいますが、ボクシングマニアの多くは「井上にとって好戦的なドネアはオーダーメイド」と考えられています。

もし、ドネアがスタイルが井上のジョーカー札を持っているとしたら…考えたくありませんが、試合は誰も予想できない展開で進むでしょう。



▶︎▶︎▶︎もし①〜⑤の不安要素が全て現実となって11月7日のリングに噴き出してしまうと、井上は早いラウンドで崩れ落ちるでしょう。

しかし「常識的」にはその可能性よりも劣化が進行するドネアの危険信号が当日のリングで赤ランプを点滅させてレフェリーが止めるーーそれが最も可能性の高いエンディングです。

ただ、私たちボクシングファンは「常識的」という言葉は使い慣れていません。「常識的」という言葉があまりにもあっけなく粉砕される光景を、今まで何度目撃してきたでしょうか。

何もかも仕組まれたリングでも、ゴングが鳴るとリングの外では何も出来ません。

リングの中で起きない出来事など何もありません。

それは奇しくもドネアの偉大な先輩が、世界中のメディアとボクシングファンに実践をもって思い知らせた残酷なルールです。

In the Ring…Anything Happen

リングの中で起きないことなどなど、何一つない。

日本のボクシングファンが心配すべきは井上の実力ではありません。「常識的に」考えると敗北はありえません。 

In the Ring…Anything Happen…それだけ、です。

井上の対戦相手で「1発だけは気をつけろ!」なんて危険な相手は、これまで一人もいませんでした。

それを起こすことが出来る拳を持っている歴戦の強者が、井上尚弥という堅牢なダムに蟻の一穴を開ける武器を自分が持っていることを識っているドネアが「たまアリ」のリングに上がるのです。

会場に行けない私が言うのもなんですが、当日は不思議な雰囲気に包まれるはずです。

井上の「敵」であるはずのドネアの入場に2万人は歓声と拍手で迎えるでしょう。当たり前です。この国ではボクシングとは軽量級です。

その軽量級で、シュガー・レイ・ロビンソン賞=年間最高選手を(パッキャオ例外で)アジアに初めてもたらし、PFPで3位まで極めたドネアは、日本のボクシングファンの希望でした。

サッカーファンがブラジル代表を、ラグビーファンがオールブラックスを迎えるような、純粋なリスペクトの声をドネアに届けるでしょう。

それが異様な空気を醸成するのは、間違いありません。

そして、アンダーカードでは拓真も大勝負を打ちます。

彼らの職業はボクサーです、ピュギリストです。

本来なら、兄弟でも叩きのめす世界です。

クリチコ兄弟の「兄弟だからごめんね」なんて言い訳は、実は優しい日本人にしか通用しません。ただ、個人的にはその理屈は通用します。

リング誌やESPNは「彼らは世界一を決めるためにそのスポーツを選んだアスリート。家族の愛情をリングに持ち込むなら、どうしてこのスポーツを選んだんだ?」という苛立ちを理解するには、私がこのスポーツに耽溺した30年なんて時間は短すぎます。

それに嫌悪感を覚えるとしたら、もしかしたらそれはあなたがこのスポーツを、本当に愛していないのかもしれません。

私も、そうです、このスポーツがどうしようもなく嫌いになることが、今まで何度もありました。

なんだろう、私は大学で公式戦は1試合しか戦ってません。どう表現していいかわかりませんが、野球と陸上しかできない私が、やっぱり最も感動したのはボクシングで…。

これ書いてるのは、横浜国際から自転車で河川敷、ラグビーって純粋な感動でいいですよね、あの熱狂は野球やサッカーでは作れない。 

こんなの不謹慎ですが、ラグビーW杯で導入された脳震盪の選手へのサポート体制、素晴らしいです。

それでも、ボクシングと同根です。ラグビーも「脳震盪」前提のスポーツです。今大会では深刻な事故はなかったのでしょうか?

このブログでも何度も問いかけさせていただいています。

脳震盪が当たり前に起きるスポーツは禁止にするか、ルールの大幅変更をすべきでしょうか?

ラグビーと違い、ボクシングをはじめとした打撃系格闘技は、故意に脳震盪を狙うから禁止すべきなのでしょうか?