日本プロ野球機構(NPB)でも薬物検査は実施しています。

しかし、その実態はボクシング界もビックリの大甘。「バルコスキャンダル」以降、検査が厳格になったメジャーリーグが、かつてはマイナーリーグよりもはるかに検査体制が緩かったのは選手会の力が強大だからですが、日本でザル検査が放置されたままの原因は、統括団体(NPB)の意識の低さです。

広島カープのスラッガー、サビエル・バティスタ外野手がドーピング違反で6ヶ月の出場停止処分を受けました。日本プロ野球での違反・出場停止処分は6月のジョーイ・メネセス内野手(オリックス・バッファローズ)以来、7人目。
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NPBは「年間100件以上の抜き打ち検査を実施している」(朝日新聞)とされますが、恐ろしく少ない数です。

「全試合で各チームからクジで2名ずつ採尿検査」という話もありますが、それでもシーズン中一度も検査を受けずに済む選手もいるでしょう。

例えばネバダ州の試合に出場するボクサーは試合前後の採尿が義務付けられ、ビッグファイトでは両陣営の合意でより厳格なボランタリー・アンチドーピング機構(VADA)の検査プログラムが導入されることも珍しくありません。

日本のプロ野球では、故障やローテーションの関係で登録を外れた選手には検査が及びません。採尿だけで採血しないのも時代錯誤です。

NPB(NPBアンチドーピング特別委員会)主導の検査だから大甘になるのは当然で、五輪などで検査を主幹している世界アンチドーピング機構(WADA )の〝統一基準〟を受け入れ、日本アンチドーピング機構(JADA)に検査を完全委託するのが最もすっきりする方法です。

プロ野球の選手手帳にはWADAの「禁止表」が記載されており〝統一基準〟を受け入れている体ですが、検査実態はザルそのものです。

とはいえ、世界屈指のスポーツセレブであり選手会はもとよりタフな代理人が〝用心棒〟に控えている日米のトップ野球選手に五輪式の365日ランダムテストを課せられるか?となると極めて難しいとは思いますが。

かつて、伊達公子は自身のブログで五輪式ランダムの異常で偏執的な検査に不満と怒りを爆発させました。

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22:00前 (トイレを済ませて)就寝

22:10頃   アンチ・ドーピング機構訪問で起きる

23:10頃  検査できず、23:00を過ぎたことを告げたが(通常の検査は23:00までなので)、 上司とも電話で確認の上、更に待機。
 
 "トップアスリートは出来るまで待つように"指示が出ていると言い、待機を続ける

調査員が私に対し「気が立っていますね」「文句を言われてます」などの失言続く。
 
「寝不足で怪我したら誰が責任を取ってくれるんですか?そうなってしまったら裁判ですね」に対し、「さぁ、どうでしょう?私には何と言っていいのか」と仕事ですからモード。
 
「必要性は理解するが、これでパフォーマンスが落ちたらドーピングテストも関係ないので?」に対し、「それは文句ですね」という見解。
 
全てにおいて最後は「私達は仕事なので..」

00:35頃 ここまでに1Lの水を飲み、試みるが60ml弱しか取れず、検査未了。 90ml取れるまで待つとのこと

01:00過ぎ  拉致があかず、まだ時間がかることに加え、調査員の言動に失礼が多いため、警察に出動依 頼と同時に調査員の態度がいきなり変わり再度、上司に連絡。

調査員)継続を拒否しますか?と投げかけられる。
 
伊達)どういう意味ですか?と質問。
 
調査員)時間が時間なので継続不可能と拒否することができます。
 
伊達)時間が時間とはどういう意味ですか?今更、どうして時間が時間というのかわかりません。
 
調査員)もう日付も変わってますし、1時を廻っていますので。
 
伊達)誰のものさしで物を言ってるんですか?私は10時の段階ですでに寝ていましたし、11時の段階でどうしてその選択があることを言ってくれなかったんですか?
 
調査員)過去のことをもう言わないで前に進みませんか?
 
伊達)前に進むために確認してるんです。

そんなやり取りをしている中で、もう一人の調査員の方が、上司と直接会話をすることを勧め、上司と話をすることになり同様の説明の繰り返し。
 
とにかく必要な量が採れるまでお願いしたいとのこと。
 
そこまで言われるならわかりました、それならば朝まででも出るまで待ってくださいと伝えると、朝までは無理です。
 
2時はよくて朝は無理ってどういうことなんですか?
 
私にとっては23時も2時も次の日の練習に大きな影響があるんです。
         
電話の途中で警察が到着。そのまま警察官が上司と話をする

01:30頃 警察が来たことで、さらに態度が変わり、言動も変化。もう一度だけトライして終了するということで警察は退出。

01:45頃 トライの結果、90mlを超え終了
 
二人のうち一人はともかく、失言が多い方に関しては、ろくに挨拶もせず退出しようとしていたので、出る前に何か一言でもないんですか?と問いかける。
 
ドアを出た際、振り返りもせずにエレベーターを待つ。もう一人の調査員はドアを出たところで挨拶と警察へ向けての配慮をして帰られました。

02:00頃 就寝しようとするが、寝付けず。その後も2回トイレへ行くこととなり、ほとんど眠れず。

06:00過ぎ    通常の起床時間を遅らせ、少しでも睡眠重視にして起床。朝食も取らず、用意をして出発

朝、起きると体が重だるく、回復していないことを感じる。もちろん起きるのも辛い。

練習はまったく体は動かない、軸がぶれる、踏ん張れない、力が伝わってこない。
 
結局、基本練習に戻らざる得なく、追い込んだ練習はまったくできず。時間も短くして練習を終えるしかできませんでした。
 
午後のトレーニングも体がついてこない、正しい動きができないことでメニューを大幅に変えて軽めにもして終了。

今日は1日、やりたい、やろうとしていたことはまったくできず、怪我を防ぐことで頭はいっぱいいっぱい。

大切なこの時期にアスリートの活動を完全に崩す結果になっているこのシステムに、どう考えても疑問が残ります。
 
競技をする以上、アンチドーピング機構のルールに従い、検査を受ける義務があるのは理解しています。
 
でもそうであるならば、アスリート側の主張できる場が必要なのではないかと思います。今、何ができるのか?どこにできるのか?を探っています。

とにもかくにもこの大切な時期に完全にリズムを崩された上に、挑発的な調査員の言動に私は納得できません。

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伊達の主張にも一理あると思われるかもしれませんが、彼女が間違っています。

誤解を恐れずに言うと、ドーピング検査に礼儀や情状は不要です。異常で偏執的な調査をしなければ、ドーピングは発見できません。それでも巧妙なドーピングは検査を易々と潜り抜けます。

「結局は内部告発。検査で発見されたわけじゃない。私の処方にミスがあったわけじゃない」と豪語した〝ドーピング・グル〟ビクター・コンテの言葉は虚勢ではありません。



そして、もう笑うしかないのがNPBの処分です。

バティスタから検出されたのはホルモン調整薬クロミフェンとその代謝物でしたが、メネセス(筋肉増強剤が検出/1年間の出場停止)とは違い悪質性が低いということで「6ヶ月」が課せられましたが、これは処分が確定した9月3日からの6ヶ月、つまり来年3月3日には出場停止処分が解除されるのです。

処分の期間がほとんどシーズンオフって、NPBは常識的な思考が出来ないのでしょうか。プロ野球選手の場合は時間ではなく、試合数で処分をするべきです、絶対に。

前置きが長くなりました。

ボクシングのドーピングです。

球遊びのドーピングは卑怯者のスポーツ犯罪ですが、ボクシングでそれをやると卑怯なだけでなく、対戦相手の健康やときには生命も脅かす〝犯罪〟行為です。

ボクシングの薬物検査は最も厳格で、その処分も最も重いものでなければなりません。本来なら。

7月20日、英国のディリアン・ホワイトがオスカル・リバスとのWBC世界ヘビー級暫定王者決定戦に判定勝利を収めました。

しかし、英国アンチドーピング機構(UKAD)の試合前の検査でホワイトの検体が陽性反応を示していながら、試合が行われたことが明るみに出ます。

もはや無茶苦茶です。

NPBがファンを欺いて、バティスタが何食わぬ顔でノコノコ打席に立ったり、守備についてるのと同じです。

英国ボクシングニューズ誌は「このままではボクシングは世界から見放されてしまう。存亡の危機だという自覚がない」と警鐘を鳴らしています。