フシ穴の眼 〜スポーツ疾風怒濤編〜

      Hope Lights Our Way / 希望の道を、つなごう。

カテゴリ: 井上尚弥

PFPは「体重同一時最強」と訳されることがあります。

そして、PFPは正当に評価されないシュガー・レイ・ロビンソンの偉大さを色付けするためのプリズム装置でもありました。

このPFPの基本概念、出自を振り返るまでもなく、PFPの前ではどの階級も平等でなければなりません。

しかし、2015年にローマン・ゴンザレスがPFPキングの座に就くまで、軽量級は負のフィルターを通した評価に甘んじてきました。

よく言われたことですが「ナジーム・ハメドやマルコ・アントニオ・バレラ、リカルド・ロペスがウェルター級やヘビー級で同じことをやっていたら間違いなくPFPキング」でした。

〝軽量級差別〟がメディアレベルでは希薄化した現代ですらも、井上尚弥がウェルター級で同じことをやっていたら今以上の評価に浴していたはずです。
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左手前は〝今は亡き〟英国ボクシングマンスリー誌の付録カレンダー(2019年版)。8月を飾ったのは井上vsジェイミー・マクドネルでした。


…もし、PFPを考えるにあたり、とことん平等公平を突き詰めるなら「競技人口」と「報酬格差」もランキングに反映させるべきかもしれません。

スポーツレベルの決定要素が「競技人口」と「報酬」、そしてそれらに必ず伴う「人気」にあることは明らかです。

野球とソフトボールのNo.1選手、どちらがレベルが高いのか?

バンタム級とウェルター級、どちらがレベルが上かを問うのと同じで、そもそも比べることなど出来ないのですから答えはありません。

しかし、野球もソフトボールも競技経験がない人でも「競技人口と報酬、人気が全く違うから野球の方がレベルが高い」と答えるでしょう。

「競技人口」は山の裾野ですから、広ければ広いほど頂上(レベル)は高くなります。

「報酬」は選手のモチベーションで生活基盤ですから、ここが莫大だとパックメイのような本物の怪物が産まれやすくなります。

6月20日現在の「競技人口」はバンタム級の1018人に対して、ウェルター級が2170人 (BoxRec)。係数は2.13。

さらに「報酬」。常時10万ドル以上のファイトマネーを稼げるバンタム級は井上尚弥ただ1人で、ビッグマネーを生み出すPPVに乗ったボクサーは1人もいません(PPVの前座選手はメガイベントの恩恵から報酬が高くなりがちですが、PPV歩合収入はゼロなので何の意味もありません)。

対して、ウェルター級はトップ選手のほとんどが100万ドルを稼ぎ、マニー・パッキャオは1000万ドルファイターです。

現代でただ1人のPPVスター(ほぼPPVのリングにしか上がらない)マニー・パッキャオを筆頭に、エロール・スペンスJr.、テレンス・クロフォードのタイトルホルダーはもちろん、マイキー・ガルシアやキース・サーマン、ショーン・ポーターらもPPVファイターです。

トップ選手かどうか微妙ながらも、ダニー・ガルシアやジェシー・バルガスも100万ドルファイトを何度も経験しています。トップですら10万ドルがほど遠いバンタムとは、まさに雲泥の差です。

「報酬」を係数化するのは難しいものの、ウェルター級ではバンタムの10倍以上、井上を例外とするなら20倍以上のファイトマネーが発生していることから「20.0」程度でしょうか。

クロフォードが「PFPなんて気にしないけど、軽量級の選手が私より上なんてありえない。そのうち女子も入れるんじゃないか?まあ、勝手にしてくれ」とボヤくのもわかる気がします。


しかし「ウェルター級やヘビー級は軽量級よりもレベルが高い。その理由は競技人口と報酬、以上」という絶対と思われた真理は、フライ級上がりのアジアの拳によってあっけなく打ち砕かれます。

とはいえ、軽量級の報酬で井上が例外という以上に、パッキャオは例外中の例外です。

ボクシング150年の歴史で、フライ級どころかフェザー級王者ですら、ウェルター級のアルファベット団体のピースも拾えていないのが現実です。

パッキャオは突然変異を通り越した、150年に一度現れるかどうかの超常現象と見なしていいでしょう。

そう考えると、やはり軽量級は層が薄く、待遇も悪いことからレベルも低い…そう考えざるをえません。

「競技人口」の2.13を当てはめるとリング誌3位の井上のランクは6.39位に、さらに「報酬」の20.0まで加重してしまうと…PFP128位にまで墜落してしまいます。

もちろん、これは数字遊びですし「報酬=レベルが高い」ならカネロ・アルバレスが歴代最高ボクサーになります。

「競技人口」でいえば、日本で1980年代にすでに野球を上回っていたサッカーが「競技人口が多いからレベルが高い」とは誰も思いませんでした。

「競技人口」と「報酬」はレベルを決める重要な決定要素の一つではありますが、その一つだけ、あるいは二つとも揃っても、あくまで数多くある決定要素の二つに過ぎません。

バンタム級のエデル・ジョフレ、ライト級時代のロベルト・デュラン、クルーザー級のイベンダー・ホリフィールド、ストロー級のリカルド・ロペスらはやはり PFPファイターに数えるべきグレートです。

そんなグレートと比べてしまうと、井上が勝った相手の質が、眼を覆うばかりに低いのは明らかです。

では、誰に勝てば良かったというのか?

BEST FIGHTER POLL (リング誌の〝年間PFP〟)で見ると、2012年プロデビューはドネアの全盛期で、軽量級でただ1人ランク入り(5位)。

しかし、フィリピーノフラッシュはジュニアフェザー級で、井上はジュニアフライで世界を目指してデビューしたばかり。対戦可能性はありませんでした。

2013年はドネアを圏外に蹴落としたギレルモ・リゴンドーが 8位に登場。この年、田口良一から日本フライ級タイトルを奪いましたが、リゴンドーはジュニアフェザー級、3階級も上のクラスでした。

2014年はついにフライ級のローマン・ゴンザレスがいきなり4位にランクイン。 井上のレーダーがようやく「文句無しの強豪」の姿をキャッチします。

この年、井上はロマゴンを待ち伏せするかのようにジュニアバンタム級に〝先乗り〟。

PFPなど世界評価からは一線を画するリングで二階級制覇・それぞれの階級で二桁防衛の〝数字魔人〟オマール・ナルバエスを、下馬評の「中盤から終盤KO」を上回る2ラウンドで粉砕したのです。

この試合を評価した boxing scene.com は井上を Fighter Of The Year に選出しました。

そして、2015年にロマゴンは軽量級史上初の1位に輝き、その座を2016年まで守りました。 井上もロマゴンと同じ、THE SUPER FLY のリングに登場、決戦を夢見ましたが…。

ロマゴンは井上の眼の前でシーサケット・ソールンビサイに2連敗、しかも4ラウンドKO負けの惨敗。

それでも、ロマゴン、井上に加えてシーサケットはもちろん、ファン・フランシスコ・エストラーダもPFP入りと、ジュニアバンタム級は軽量級ではありあないハイレベルな様相を呈します。

しかし、減量が限界の井上は、当時も不毛階級とはいえWBSS開催が決まっていたバンタム級に舵を切りました。

そこで、WBSSのドタバタ運営に翻弄され試合間隔を無駄に空けてしまうことになります。

もちろん、現状のバンタムには「文句無しの強豪」と呼べるボクサーは1人もいません。 

その中で、ジョンリール・カシメロの意外性は、それこそ全階級を通じて1、2位を争うものですが…。

これは、井上にとっては勝利しても「今日のカシメロは不発弾だった」で終わってしまう、危険なだけの仕事になってしまいます。

全ての原因は「軽量級」であるがゆえ、なのですが…タイミングは良くないですね。 
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日本のエース、井上尚弥の現時点での世界評価をおさらいする新シリーズです。

書きかけの話が滞留していますが、ふと思いついたもの優先で書き進めていくのが当ブログのスタイルです。

書きかけの話にも、続きはもちろん、いつか着地もありますので、思いついたら突発的に再開しますね。

It was just My turn.(それが俺のやり方、巡り合わせだ)、です。

↑最近感銘したイスラエル・バスケスの言葉を書きたかっただけやん!とバレてるかもしれませんが、それにしても、なんだか、もう、試合がないとどうしようもないです。欲求不満だけが蓄積されてしまいます。

無観客の試合が味気ないのは仕方がないにしても、パッとしない試合が続いてるし。ジョシュア・グリーアなんて日本タイトルも獲れるかどうかも怪しいバッタもんでした。ルーシー・ウォーレンをさらにスケールダウンした小物です。

誰かスカッとする試合を見せてくれーい!



「黒霧」と黄金千貫ふかし芋でほろ酔い気味の今夜、本題は「Is Monster Overrated?〜井上尚弥は過大評価か?」。

リング誌PFPで3位など世界評価が沸騰している27歳の日本人。彼がバンタム級推定最強ということに異論がある人はいないでしょう。

カシメロの野生や、リゴンドーの理詰めがモンスターを崩す可能性が無いとはいいませんが、所詮は喧嘩屋と老人です。

バンタム級シーンをどう見渡しても、いざ対戦となってオッズで井上を上回るボクサーは1人もいません。


さて、その井上の世界評価をPFP視点で見てゆきます。

年間最高選手賞(シュガー・レイ・ロビンソン トロフィー)を投票決定する全米ボクシング記者協会(BWAA)のPFPでは4位。

1. Canelo Alvarez (228 points)
Middleweight 53-1-2 (36 KOs)
 
2. Vasiliy Lomachenko (224)
Lightweight 14-1-0 (10 KOs)
 
3. Terence Crawford (195)
Welterweight 36-0-0 (27 KOs)
 
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4. Naoya Inoue (159)
Bantamweight 19-0-0 (16 KOs)
 
5. Errol Spence Jr. (136)
Welterweight 26-0-0 (21 KOs)
 
6. Oleksandr Usyk (106)
Heavyweight 17-0-0 (13 KOs)
 
7. Gennadiy Golovkin (74)
Middleweight 40-1-1 (35 KOs)
 
8. Tyson Fury (74)
Heavyweight 30-0-1 (21 KOs)
 
9. Manny Pacquiao (58)
Welterweight 62-7-2 (39 KOs)
 
10. Juan Francisco Estrada (51)
Jr. Bantamweight 40-3-0 (27 KOs) 

殿堂入り投票も絡むBWAAのPFPが最も権威があるーーと言いたいところですが、2ヶ月に一回という間延びした更新、歴史の浅さ、ボクシングファンへの認知などを考えると到底そうは言い切れません。
 

現状では、様々な専門家の得点投票で順位を決めるESPNが最も権威あるPFPでしょう。

ESPNの井上はBWAAと同じく4位。

井上の上を行くトップ3は1位:ワシル・ロマチェンコ、2位:テレンス・クロフォード、3位:カネロ・アルバレスとなっています。
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米国ではマニアですら関心が低く、財政難に喘ぐイメージも悪いマイナーなWBSSだが、日本ではメガイベントに化ける。オリエンタルマジックだ。

そして、リング誌PFPでは、BWAAとESPNのトップ3からクロフォードを蹴落とす形で井上が3位。

井上は昨年、2月号と9月号でリング誌を単独カバーするなど、この自称〝ボクシングの聖書〟の寵愛を受けています。 

世界唯一のボクシング専門週刊誌、英国ボクシングニューズ誌でも3位。ここでもカネロ、ロマチェンコに続き、クロフォードを抑える形になっています。

世界唯一としていますがメキシコにもありそうです。もしかしたら日刊誌(日刊だともはや新聞なので日刊紙ですね)でもありそうです。

ここまでの4メディアを「大手」とすると、世界評価ではトップ2がカネロかロマチェンコで、3−4位が井上かクロフォードと「4強」は一致しています。

そして、boxing scene.comでは1位、BOXING NEWS24では2位と、ネットニュースではより高い評価を獲得しています。
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この漫画的なレーザービームの中でファイティングポーズをとる井上もリング誌からです。
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モンスターは、昨2019年に1月号で集合写真カバー、2月号と9月号で単独カバーと3度もリング誌表紙を飾りました。

4団体17階級時代になって30年余り、「階級PFP」なるわけのわからない言葉まで産まれる中で、PFPは広く知られるようになりました。

そして、その約30年間で最も高い世界評価を得た日本人が井上です。

井上がPFP3位まで登り詰めた…〝詰めた〟という表現は〝ここが行き止まり〟なニュアンスもあって良くないですね…「トップまであと2つ、3位まで登って来た」理由は、もちろん実力が認められたのですが、他にも複数考えられます。


①メイパックの没落でPFPは群雄割拠。
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PFPは脳内妄想です。その順位付けは十人十色、ESPNのスティーブ・キム記者のように井上を1位に推してくれる専門家もいます。

「満票」でPFPキングに輝くファイターがいないのも当然です、十人十色なのですから。

例えばESPNの1位はロマチェンコですが12人の専門家で1位票を投じたのは4人にとどまります。つまり、8人が「カネロは1位じゃない」と考えているのです。

残る8人の内、4人がロマチェンコ、3人がクロフォード、1人が井上に1位としています。これが五輪の開催地投票なら上位4人で決選投票ですが、実際には1位10点、2位9点…のようにポイントを合算してランキングを完成させます。

こういう内実まで見るとPFPなんて当てにならないというか、よく言い換えられるMythical Ranking の名の通り、BWAAだろうがESPNだろうが、所詮は怪しいランキングです。

ところが…。かつて怪しくないPFPキングが存在したのです。当たり前のように「満票」のPFPキングが…。

ご察しの通りメイパックです。

彼らの全盛期はどのメディアも「満票」でどちらかを「全階級通じて最高」と認めました。

「満票」です。つまり「十人十色の妄想」のはずのPFP が、完全に一致してしまったのです。

こうなると、事実として「十人十色」ではありません。そして、恐らくは…「妄想」でもありません。

そんなはっきり見えていた確かな世界が、ぐずぐずに液状化してしまったのが現在です。

いろんな意見、いろんな角度からPFP1位が語られ、再び「十人十色の妄想」に溶け込んでいったPFPの世界では、キム記者のような大胆な意見でも説得力を伴います。

もし、井上が産まれるのが10年早かったとして、10年前にキム記者が「井上がPFP1位」と口走ったとすると正常な判断が出来ないの病に罹ったと救急車に乗せられたはずです。

 

②PFPの門戸は日本人にも軽量級にも開放された。

boxing scene.comやBOXING NEWS24などの米国ネットメディアで長谷川穂積や西岡利晃がPFP10傑入りを果たし、日本人に固く閉ざされていたESPNやリング誌PFPへつながる道を舗装してくれました。

そして、山中慎介と内山高志がついにリング誌とESPNのPFPメジャーの扉をこじ開け、井上尚弥が続いたのです。

さらに、ローマン・ゴンザレスが軽量級として史上初のPFPキングに就くと、その座を2年も守りました。



「アジアの偉大な軽量級ボクサーの評価が見直されたのは、YouTubeなどインターネットの普及でリアルタイムで観ることができるようになったことが大きい」というリング誌やESPNの説明(弁明?)は間違いではありませんが、彼らは巧妙に嘘をついています。

インターネット以前から、アジアのボクサーは評価されていました。カオサイ・ギャラクシーや張正九、柳明佑はPFPに数えられたばかりかモダン部門で殿堂入り。

クリス・ジョンやポンサクレック・ウォンジョンカムもPFPの常連でした。

正確には「アジア」ではなく「日本」のボクサーの評価が見直されたのです。

その背景には、米国ボクシングの没落という背景が横たわっています。



③リング誌は日本が大好き、WBSSも日本が大好き。

このブログでは「リング誌が斜陽産業の斜陽雑誌であること」を伝えて来ましたが、どうも世の中の大勢は勘違いしているようです(リング誌のダメダメなことも書いてますが、私、大の愛読者です)。

そして、井上よりもはるかに評価が高いノニト・ドネア(2012年シュガー・レイ・ロビンソン賞)やローマン・ゴンザレス(2015−2016年:Best Fighter Poll 1位)が一度も単独カバー出来なかった事実を知れば、リング誌が昨年の8ヶ月間で2度も井上を表紙に起用されたことに、大きな違和感を感じない人はいないでしょう。

「素直に喜ぶべき」なんて軟弱な発想は要りません。「ナメるなよ」ということです。

かくいう私も、2019年1月号で井上が集合写真の中で小さく表紙を飾ったときには素直に喜びましたが、さすがに単独カバーはまだ早いと思いましたし、それも短い期間で2度となると…。

もちろん、21世紀最大の過大評価、エイドリアン・ブローナーも単独カバー経験者ですし、 女子MMAファイターのロンダ・ラウジーも単独カバー&大特集されました。

エイ・ロンよりも井上の方がふさわしいとは思いますが…。
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ドネア…全盛期でもリング誌表紙を飾ったのはジェームズ・カークランド、マルコス・マイダナ、ウラジミル・クリチコ、ルシアン・ブテとの集合表紙だけ…井上との扱い格差は歴然です。

ドネアは富裕国のサポートもなく、米国で人気がないので仕方がありません。プロボクシングは人気ビジネスです。

しかし、逆の見方をすると、ドネアは実力だけでリング誌の表紙にちょこっとプリントされたのです。


①②③は独立した問題ではありません。全部つながっています。 

では、次にPFPのような評価の「結果」ではなく「過程」「プロセス」、つまり誰に勝ったのか?を再考してみます。

これは、すでにやってるはずですが、そのときと今では評価、感じ方が変わってるはずです。

まあ、大きくは変わりようはないですが…。



まだまだ、9月の試合日が発表されるまで、続きますが、すぐに書くとは限りません。

そうです、It was just My turn.(それが俺のやり方、巡り合わせだ)、です。いい言葉です。イスラエル・バスケス、最高です。

仕事で失敗したり、夫婦喧嘩で険悪な雰囲気になったときも使えますね。もちろん、相手に言っちゃうと火に油を注ぐだけですから、心の中で It was just My turn.をリフレインします。


ずっとバスケスに同情的な思いを募らせていた自分のフシ穴ぶりが恥ずかしく、申し訳ない。 
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現在27歳の井上尚弥のプライムタイムがいつなのか?

今なのか。それとも、もう少し先なのか。 

いずれにしても、キャリアのピークに差し掛かっているのは間違いないでしょう。

2018年から3年間で4試合、今年9月にジョンリール・カシメロ戦をこなして5試合というのは物足りない数字ですが、 軽量級としては十分すぎる報酬と評価を手にした井上のステイタスを考えると、年2試合は絶対的に少ないわけではありません。
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現状のバンタム級で井上の脅威となりうるのはカシメロとギレルモ・リゴンドーくらいです。ドネア戦でPFPランクが上がった一方で、カシメロとのオッズや専門家予想が接近するなど、現実の実力評価は液状化している井上ですが、バンタム級でハイリターンの相手は見当たりません。

ただ、問題はその「中身」です。

この5試合の相手はジェイミー・マクドネル、ファン・カルロス・パヤノ、エマヌエル・ロドリゲス、ノニト・ドネア、そしてカシメロ。 

ロドリゲスとドネア、カシメロは現役王者、マクドネルはセカンド王者、パヤノも元王者と5人ともバンタム級の強豪でした。 

これで「中身がない」とすると「現状のバンタム級が中身がない」というのと同じことになります。

しかし…残念ながらそういうことです。

井上のパフォーマンスがウェルターやミドル、ヘビー級で繰り広げられていたなら、とんでもないことになりますが…悲しいかなバンタム級です。

なぜウェルター級ではWBSSをやらないのかを考えればわかりますね…そういうことです。

PFP3位評価のファイターが戦うには、バンタム級はあまりにも薄っぺらい相手ばかりです。

もちろん、カシメロに勝てば3つのタイトルをコレクションすることになり、Udisputed Championに王手がかかります。

4団体を自力で完全統一してUdisputed Champion に就いたのは歴史上、バーナード・ホプキンスとテレンス・クロフォード、オレクサンダー・ウシクの3人だけ。日本人ではもちろん初の快挙。

ホプキンスら3人は、その圧倒的な実力に人気がついてこない地味なボクサーでしたが、団体乱立の時代に Udisputed Champion が特別な価値を持っていることは言うまでもありません。

ただ、これに拘り過ぎて試合枯れに陥るほどの価値が今のバンタム級にあるかとなると疑問符がいくつも湧いてきます。


そもそも、軽量級にウェルター級やヘビー級など人気階級でいう「ビッグネーム」なんて存在しません。もし存在したら、不人気階級ではありません。

ドネアは軽量級では〝ビッグネーム〟ですが欧米ではほとんど無名。

トップランクから契約満了を待たずに「不良債権」と放り出された不人気ボクサーで、敵地で戦うしかないドサ回りファイター、ロードウォリアーです。

軽量級ファンからしたらドネアの待遇はおかしいと思いますが、それが世界の現実です。

そこから目を背けて「ドネアは米国でも大人気で高額報酬を得ている」と何の根拠もなく思い込むと、真実は見えてきません。

ドネアと同じロードウォリアーのカシメロに至っては、3階級制覇しながらもキャリアハイの報酬が入札効果で得た7万5000ドルという有様です。

人気階級と比べて「報酬」「名前」が絶望的に小さくなるのは仕方がないにしても、バンタム級には井上を例外にして「評価」が高いタレントすらいません。

一つ下のジュニアバンタムもバンタムよりはマシとはいえ「報酬」「名前」のあるボクサーは皆無です。

ただし「評価」ではリング誌王者ファン・フランシスコ・エストラーダやシーサケット・ソールンビサイのPFPファイターに、元PFP1位のローマン・ゴンザレス、PFP予備軍の井岡一翔、ジェルウィン・アンカハスと軽量級には珍しい看板のあるファイターが名を連ねます。

しかし、井上が減量苦で脱出した115ポンド級に舞い戻ることは考えられません。

あるとしたら、彼らが階級を上げて来ることです。



今度は、一つ上のジュニアフェザー級シーンを見てみましょう。
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122ポンドもPFPファイターは見当たらないものの、1年足らずで5連続KO防衛に成功しているWBO王者エマヌエル・ナバレッテ、無敗のIBF/WBA王者ムロジョン・アフマダリエフは、評価の高いファイターです。

それだけに、オッズと予想はかなり接近するでしょうし、ナバレッテなら井上に不利予想が立ってもおかしくありません。

このクラスにはIBF暫定王者・岩佐亮佑に亀田和毅、勅使河原弘晶がリング誌ランクに食い込んでおり、和毅は先日「井上君との試合はみんな見たいでしょう」と発言、日本人対決の期待も膨らみます。

ただ、井上にとってメリットのある唯一の相手、ナバレッテはフェザー級転向を口にしており、6月20日にメキシコシチーのアステカTV内でウリエル・ロペスとフェザー級10回戦のリングに上がるため、ジュニアフェザー級に戻る可能性は薄くなっています。



そうなると…。「米国で注目されるには最低でもフェザー」(井上)のフェザー級、126ポンドです。
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ドネアが破壊された126ポンドですら「報酬」「名前」「評価」とも際立った選手はいません。

しかし、ボクシングファンがちょっと眺めればわかるように、ジュニアフェザー以下の不毛な砂漠階級とは明らかに異なる景色が見て取れます。

井上がこの10人と戦うとなれば「圧倒的有利」のフラグは、誰に対しても立ちません。

ジョシュ・ウォリントン、ゲイリー・ラッセルJr.、シャクール・スティーブンソン相手なら完全不利予想間違いなしです。

逆に言うと、この3人をぶっ倒せば井上が希望する「パッキャオが見た風景」の一端を拝めるはずです。

特に、ボブ・アラムとESPNが「メイウェザー2世」と売り出し中のスティーブンソンはいいですね。井上がコールしたらすぐにでもまとまりそうです。

カシメロ戦をクリアしたら、井上も口にしていいと思います。

井上が身長165㎝/リーチ171㎝、スティーブンソン173㎝/173㎝、ウォリントン170㎝/170㎝、ラッセルJr.164㎝/163㎝。

数字上はラッセルJr.より上というのは意外ですが…。

フレームで劣り、得意のリバウンド効果が激減してしまう126ポンドで井上がどこまで戦えるのかは未知数ですが「最低でもフェザー」と口にしたのは思いつきや他人事ではなく、覚悟の表れだったはずです。 

まずは、9月のカシメロ戦。ここは軽く突破しましょう。 
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井上尚弥が、ジョンリール・カシメロとのバンタム級3団体統一戦を下馬評通りにクリアすると、常識的に次のステップは完全統一、Undisputed Champion です。

自力での4団体完全統一 Undisputed Champion となると日本では史上初。

世界でもバーナード・ホプキンス、テレンス・クロフォード、オレクサンダー・ウシクに続く史上4人目の快挙となります。
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IBF/WBA王者の井上がカシメロのWBOを吸収すると、残るストラップはWBCのみ。

現在のタイトルホルダーは拓真を退けたノルディーヌ・ウバーリ

よくまとまったボクシングをする33歳のフランス人ですが、拓真戦でいくつも欠陥を晒したように、無敗の理由は強いからではありません。

After two months of negotiations, there was a purse bid, which was won by TGB Promotions. The winning bid was for $401,000 and split 60/40 in favor of Oubaali.

ウバーリはノニト・ドネアと初防衛戦が入札で決定していましたが、このパンデミックで開催日時・場所はいまだに発表されていません。

ちなみに入札金額は40万1000ドルで、ウバーリ60%(24万600ドル):ドネア40%(16万400ドル)の取り分で両者合意に達しています。ウバーリはキャリアハイ。ドネアも井上戦(報酬非公表)を除くとこの6〜7年で最高額。

テテvsカシメロもそうでしたが、井上vsドネアの「埼玉ショック」はバンタム級に異変を起こしています。

プロモーターは入札で少々の無理をしても傘下の選手に有利な条件でホームに試合を引っ張り込んで、井上との試合に駒を進めたいという思惑です。

できれば「ラスベガスではなく年末の日本で」というのが本音でしょう。

ただ、これは「ビフォー・コロナ」の話。

ウバーリvsドネアの入札は、ご破算になって、あらためて条件交渉が進んでいるはずです。

井上とのビッグファイトですら「客単価1万円*2万2000人」などもはや期待できない現状では、背伸びした入札は回収不能です。

いずれにしても、9月に井上がカシメロ戦をクリアしても、年内に完全統一戦を行うのは極めて難しい状況です。

井上がカシメロ戦を無傷でクリア、ウバーリがドネアに待機料を支払って、井上との試合を優先。それなら「年内」もありえますが…。

愚図つくようならUndisputed Champion にこだわる必要はないかもしれません…そもそも今の時代でUndisputed Champion は、スーパースターになれない地味なボクサーの実力証明のオプションです。

完全統一ではないオプションーーそっちの方がファンにとって面白いのは当然です。
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このシリーズは1年も寝かせていたのですね…。

再開です。

4月25日に予定されていたIBF/WBA王者・井上尚弥とWBO王者ジョンリール・カシメロの世界バンタム級団体統一戦。

延期されていた試合の輪郭が朧げながらも見えて来ました。

2020年9月某日。会場はマンダレイベイ・イベンツセンターかMGMグランドガーデンアリーナ。

先週、無観客で再開されたトップランク& ESPN & ネバダ州アスレティックコミッションの連合チームは上々のスタートを切りました。

早ければ7月下旬に移行するフェーズ2では、会場キャパの30〜40%の観客を迎えます。順調に進めば井上のラスベガス・デビューは無観客を免れそうです。
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トップランクHPから。ボブ・アラムは忘れてるでしょうが、日本のファンはカシメロ戦の公式発表を心待ちにしています。

おあずけを喰らった、野生のQuadro Alasとの戦力比較、試合予想から、慢性的なタレント不足に悩む軽量級でモンスターに期待される〝アフター・カシメロ〟はどうなるのか、どの道を進むべきかを、いつもの如く独断と偏見で考えてゆきます。

まずは、目の前のカシメロ。

ジュニアフライ、フライ、バンタムの3階級でアルファベット団体のピースをピックアップしたフィリピン人の階級評価はリング誌で3位、ESPNで5位。

タイトルを持つ王者としては、けして高い評価を得ているわけではありません。

ただし、円熟の気配すらない31歳は「誰に負けてもおかしくないが、誰に勝ってもおかしくない」(リング誌)という〝永遠の野生〟です。

「誰に勝ってもおかしくない」。

もちろん、その中にはほぼ全てのメディアでバンタム最強の評価を得ている井上も含まれています。

どんな相手でも一撃で沈めるカードを持つ Quadro Alas は、井上にとってより評価の高いノニト・ドネアやノルディーヌ・ウバーリらよりも危険な相手です。

タイトル奪取の3試合は全て番狂わせ、フィリピンと時差のある欧米のリングだったために自国での人気は今ひとつというロード・ウォリアーの辛酸を舐めてきました。

しかし、昨年は母国の英雄マニー・パッキャオのプロモーションに迎えられ潮目が変わります。

ゾラニ・テテとの大一番は入札になり、フランク・ウォーレンに30万ドルで競り落とされてしまいますが、王者テテ75%:カシメロ25%の配分はキャリアハイの7万5000ドルの報酬をもたらしてくれました(テテの22万5000ドルもキャリアハイ)。

井上戦では10万ドル以上の報酬が確実、勝利して日本に乗り込むことになるとさらに高騰するのは間違いなく、カシメロはモチベーションを高めていましたが…。

軽量級メインの試合では、最大の収入源は入場料。

フジテレビとWOWOWが合わせて2000万円以上の放映権料を支払うと見られますが、これはトップランクが中抜きしたあと井上の報酬に回されます。

試合が行われる9月には、ソーシャルディスタンスをとって2500人の観客を入れる見込みですが、軽量級メインの席単価は格安で、@40ドル程度。

日本からの応援団なら高額チケットを売値で購入してくれるはずでしたが、一般のファンが渡米できるかどうか非常に怪しい状況です。

2500人が全員有料入場者というカジノではありえないことが起きたとしても、ゲート収入は10万ドル。井上の報酬にも足りません。

カシメロの報酬は相当低く抑えられるはずで、永遠の野生児のモチベーションはダダ下がりしてるかもしれません。
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カシメロ話です。

Ring.tv.&リング誌5月号から。 「もう6月号が届いてるのに!?」なんていう人は読み飛ばしてください。
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ジョンリール・カシメロ

彼は貧弱な母国と欧米で無視される軽量級の悲哀を、これでもか!と味合わされながらキャリアを築いてきました。

井上尚弥が、はるかに巨大な興行となる日本ではなく、チンケなイベントにしかならないラスベガスを選択した理由が「日本でやるよりもカッコイイから」だと聞いて「そんなボクサーが世の中にいるのか?」と驚愕したカシメロ。

カネのために戦っているフィリピン人にとって、ボクシングにファッションを持ち込む日本人は理解できないでしょう。

井上とノニト・ドネアの試合を「ものすごく興味深かった。試合開始から最後まで全部観た」という31歳のフィリピン人が漏らした最初の感想は井上がキャリアで初めて見せたいくつもの綻びでも、37歳のロートルの大健闘でもありませんでした。

「こんな大きな会場をフルハウスにしてバンタム級がメインイベント?2万2000人?チケットの平均単価が80ドル?井上が俺を選んでくれたら、ここで試合ができるのか?」。

3階級制覇を成し遂げたと言え、軽量級ではその報酬は信じられないくらいの格安です。もちろん、それは日本人だけは例外です。亀田興毅や井上は平均的な軽量級世界王者の20倍以上のファイトマネーを手にします。

しかし抜群に面白い試合を見せる、つまりハラハラさせるにもかかわらずクアドロ・アラスは…平均以下の軽量級世界王者の座に甘んじてきました。

マニー・パッキャオについて驚くべきは、実はその実力ではありません。

パックマンの何が人智を超えているかといえば、それは運です。

①ミンダナオ島からマニラへ貨物船のコンテナに忍び込んで密航…しかし当時は反政府ゲリラ対策で密航は重罪、ど素人の10代の少年がどうして無事にマニラに入れたのか?

②ボクシングはメジャー競技とはいえ、当時の比国テレビ予算は過去最高で、4回戦でも勇気を振りまくパッキャオはたちまち人気者、すなわち高額の報酬を得ることになります。

③日本での成功を夢見ていたパッキャオは日本中のジムやジョー小泉に自分を売り込みますが、全く相手にされませんでした。そのときもし才能を見抜かれていたらアジアの奇蹟は日本で「マニー小泉」としてそれなりに強い世界王者として終わっていました。

④当時世界最高のスーパースター、オスカー・デラホーヤのメガファイト、そのセミファイナルでリーロ・レジャバの対戦相手が直前で1度ならずも2度も対戦相手がキャンセル、台湾で名護明彦らと合宿していたパッキャオに「来週土曜日にMGMグランドガーデンアリーナに来れるか?」と電報が入ります。

⑤大番狂わせを起こしたパッキャオに当時の世界2大プロモーターが契約書と現金!を持って現われます。違法のはずの二重契約を結んだにもかかわらず、アラムもデラホーヤも鬼神の活躍を見せるパッキャオを裁判によってリングから遠ざけることができず、不倶戴天のはずのTRとGBPによる共同興行で戦うというありえない待遇。

⑥将来一発殿堂入りするメキシコ時代を代表する3人が、パッキャオを噛ませ犬として待ってくれているという、注目度が低い計量級では考えられない時代の巡り合わせ。

⑦デラホーヤの再戦要求にメイウェザーが拒否して引退、死に場所を探していたスーパースターの白羽の矢を掴み取る強運。

…神様は、パッキャオに与えたいくつもの幸運のたった一つもカシメロには恵んでくれませんでした。

それどころか、パッキャオのせいでフィリピンのボクシングファンは米国に目線を向けたことで、国内イベントの予算は削減され、カシメロはロードウォリアー(敵地巡り)を余儀なくされます。

カシメロの世界戦はほとんどが敵地、つまり母国ではゴールデンタイムから外れた時間帯でした。

母国のアイドルから世界的なスーパースターになったパッキャオとは違い、カシメロは無名のまま出稼ぎに飛び出した流浪の狼。

Quadro Alas は「軽量級のフィリピン人」。どこで戦ってもBサイドです。劣悪な条件と報酬を飲んで戦うロードウォリアーは、たとえ相手の母国で戦っても完全絶対Aサイドの井上やカネロとは真逆の存在です。

この忌々しいパンデミックがなければ、4月27日にラスネガスで井上尚弥と3団体統一戦を賭けた激闘(そうなるとしか想像できません)のリングに上がるはずでした。

カシメロにとって米国は練習拠点も置くホームでもおかしくないはずですが、ボクシングビジネスにおいて日本の軽量級エースは絶対です。

またもやQuadro Alas はアウエーのリングに上がります。それも、何から何まで全てが日本人のために用意されたリングに。

報酬という意味では、希望した「さいたまスーパーアリーナ」よりも厳しいアウエーです。

「勝ったら埼玉で再戦したい」。ロードウォリアーらしいモチベーションです。

試合は無期限延期になったために、専門家予想は出ていません。それでも、延期直前のオッズは井上vsドネアよりも接近した1−3。

専門家予想もドネア戦よりも井上に冷たいものになるでしょう。

ドネア戦で井上はなぜかPFPだけは上がりましたが、本音の評価は間違いなく下落しています。そして、カシメロはゾラニ・テテ戦であらためてジャイアントキラーの資質を証明しました。

ただ、それらを踏まえても井上がオッズの通りに有利です。
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ジョンリール・カシメロ

前回は「アムナット・ルエンロンとの2試合を見れば十分」と書いた31歳のフィリピン人ですが、その戦いぶりは、見れば見るほど不気味です。

井上尚弥はカシメロを「バカ」と表現しましたが、ボクシングファンでその言葉を額面通りに受け取った人は誰もいません。

現在、日本最高のボクサーが「バカ」と発したのは、最高レベルの警戒信号です。

これ以上ない簡潔で的を射た、さすがの表現です。

WBSSバンタム級トーナメントで事実上の決勝戦といわれたエマヌエル・ロドリゲスを井上は「気持ちが弱い」と見下しました。

対戦相手を卑下することがない井上にしては、珍しいというよりもあまりにも意外な言葉でした。あの謙虚な青年が対戦前に相手をここまで見下すか?とその真意を測りかねました。

多くのトップアスリートがそうであるように井上も感じたことをわかりやすい言葉にして、聞く者に伝えてくれる才能の持ち主です。そして、出来るだけ嘘はつかないようにしているのもわかります。それは、王者のプライドでもあるでしょう。

ロドリゲスとフェイスオフした感想を聞かれて「気持ちが弱い」と即答したのは、それほどまでに弱さが、疑いようもない弱さが滲み出ていたに違いありません。

カシメロは不気味なボクサーです。

アムナット・ルエンロンとの2戦、そして直近のゾラニ・テテとの1戦。この3つがオッズで大きく不利と見られた試合でした。
John-Riel-Casimero-Amnat-Ruenroeng-Reuters-Damir-Sagolj
アムナットとは初戦から因縁があるにしても、対戦相手をあからさまに侮辱するのも反骨のフィリピン人のやり方です。

明らかなアンダードッグにもかかわらず「番狂わせの可能性も高い」という専門家予想も少なくありませんでした。

29勝20KO4敗、KO率60.61%。その小さな両拳に、軽量級としては破壊力十分のパワーを秘めているのですから「番狂わせ」の可能性があるのは当然です。

とはいえ、カシメロの試合から「一発がある」というだけで専門家が波乱の匂いを嗅ぎ取ったわけではありません。

確かにアムナット2にテテ、いずれの試合もその瞬間まで相手ペースの展開を一発で引っ繰り返しました…デオンティ・ワイルダーに代表されるワン・パンチャーの真骨頂です。

しかし、ワイルダーの逆転の一撃が意外なほど美しく理に適った軌道で真っ直ぐ放たれるテキスト・スタイルであるのに対して、カシメロのパンチがそう表現されることはありません。

フィリピンの野人が放った逆転のパンチには「awkward(見栄えが悪い)」「strange angle(見たことがない角度)」「 bizarre(奇妙な)」という、教科書に刃向かった形容詞が踊ります。 

さらには、テテ戦を実況した英国BTスポーツには「It wasn't intended.(あれは意図して撃ったパンチじゃない)」と決めつけられる始末です。

もちろん、それは英国の実況アナウンサーの間違いです。パンチャーが意図なしで放つ拳は一発もありません。無意識に放っているように見えても、全てのパンチには確かな悪意が込められているのです。

教科書に沿った教育からかけ離れたQuadro Alasのボクシング。

そして、あの傍若無人な態度が不思議なほど反感を買わないのは、そこに演技の匂いがしないからでしょう。野獣があげる威嚇の唸り声に似ているからでしょう。あれはパフォーマンスや挑発ではなく、カシメロの素なのです。

現時点のカシメロの実績や技術は、高い評価に値しません。軽率で感情的で一貫性のない本能剥き出しのボクシング。

カシメロよりも上手くて強くて引き出しのあるボクサーはいくらでもいるでしょう。しかし、おそらく彼らは1人残らず見たことがない角度から放たれる奇妙なパンチに沈められるはずです。

井上が魅せた狙い澄ましたカウンターや、一瞬のタイミングを逃さないジャブクロス、教科書の最新ページで紹介されるような高等技術は、カシメロの13年間33試合のキャリアの中にはヒトカケラも見つけることができません。

ときどき目にするのは「見栄えの悪いスタイル」から、「見たことがない角度」で放たれる、「奇妙なパンチ」。

そして「なんじゃ、あのパンチは?」という変な一撃で、相手は想像をはるかに上回る甚大なダメージを負うのです。

「アムナットは打たれ弱い」「テテの顎はガラス製」。最初からわかってたことです。変なパンチで倒されちゃっても不思議じゃない2人です。

アムナットもテテも被弾の理由を「一瞬気を緩めてしまった」と、油断にあったと後悔しました。オッズも予想も有利だったのですから、敗北の理由が自分たちの中にあるのは当然です…普通なら。

井上の〝被害者〟たちが敗因にモンスターの技術やスピード、パワーを口にするのとは対照的です。

アムナットとテテが気を緩めてしまったのは事実でしょう。しかし、どうして素人目にもあの危険な距離で油断してしまったのでしょうか?

もしかしたら油断したのではなく、させられたのだとしたら?

もちろん、百戦錬磨の2人が隙を作るように落とし込んでいく周到な罠をカシメロが仕掛けたとは到底考えられません。

しかし、確かな事実は2人が一瞬だけ油断したこと。そして、その一瞬の刹那をカシメロが見逃さなかったということです。

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番狂わせを起こした2試合に対して、直近の敗北は2017年9月16日、3−1のオッズを引っ繰り返されたジョナス・スルタン戦でした。

完全に有利と見られていたにもかかわらず、マニラ・ブレティン紙は「カシメロは波が大きいボクサーで、その振幅は予想しやすい。母国で同じフィリピン人と戦うことは彼の波が下がる原因になりうるから、スルタンにチャンスがある」と正確に予想していました。

試合は、スルタンが冷静にカウンターを決めて試合を進める一方で、カシメロの大きなスイングが空転。終盤の反撃も虚しく3−0で判定を落としてしまいます。

セコンドの「左からコンパクトに」という必死の指示がカシメロの鼓膜を通じると間逆に聞こえるのか、一発頼みの雑な攻撃を繰り返す姿は愚かにすら見えました。

それにしても「ホームで戦うと波が下がる」なんて、パッキャオvsラリオスを思い出してしました。

恐るべき、外弁慶です。

Quadro Alasの全身にもパックマンの血が流れているのでしょう。

マニラ・ブレティン紙の見立てを借りると、カシメロが井上戦でキャリア最大級の波を作ってくるのは疑いようがありません。

そして、ノニト・ドネアが健闘した原因が自分を恐れずに立ち向かってくるファイティングスピリッツだとしたら、カシメロもそのカードを明らかに持っています。

そして、何よりも、本当に恐ろしいのは説明できるヤツではありません。本当に恐ろしいヤツは教科書のどこを探しても載っていません。

Quadro Alasとは何者なのか?

一言で表現するなら…やはりこうなります。

カシメロはバカ…。
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◉Saturday 25, April 2020    

◉Mandalay Bay Resort & Casino, Las Vegas, Nevada, USA
 
◉commission=Nevada Athletic Commission
 
◉promoter=Top Rank - Bob Arum/matchmaker Brad Goodman
 
◉media=USA ESPN+ 

「井上尚弥とジョンリール・カシメロ、2人の知名度が、2011年に同じ会場で開催したノニト・ドネアとフェルナンド・モンティエル以下であることは明らか。2011年は上階席を完全封鎖したが、今回はリングサイド以外の全封鎖か?」。

日本では浮かれて報道されているものの、現地では意地悪なファンのコメントが目立つ井上のトップランクデビュー。

ボブ・アラムは昨年、井上との契約に際して「2020年は3試合、最初の2つを米国で、3つ目は日本で盛大に行う」と語りました。

米国では〝一部のマニアの中のカルトにしか知られていない〟(ESPN)井上をプロモートするリスクと、3試合目の日本開催で米国での2試合の赤字を本当に回収できるのか?ということについては「赤字になるとは考えていない、日本から2000人規模の応援団が駆けつけるからだ」と希望的観測を述べました。

現実には、新型コロナウィルスの影響がなくても日本からの2000人も観戦ツアーが詰めかけるとは考えられません。

アラムは「母国の大応援団をラスベガスやニューヨークに送り込んだリッキー・ハットンやアンソニー・ジョシュアのように」と語っていましたが、こうなると「ドネアvsモンティエルはカルバハルvsウンゴン並みの軽量級のビッグファイト」という妄想と同レベルです。

アラムの仕事は「どれだけ大きな風呂敷を広げることが出来るか?」ですから、88歳の殿堂入りプロモーターを責めるのはお門違いです。

「世界が注目する試合」「チケットの売り上げが絶好調」と嘘を並べるよりも、冷静な報道が必要でした。

「この試合は多くのシートを封鎖する興行になるだろうが、マニー・パッキャオだって米国デビューのときは誰も知らなかった。マニアに知られているだけ、今の井上の方がマシ。ここから全てが始まる」。

「チケットの価格はラスベガスの興行では最安値。WOWOWなどが必死になって観戦ツアーを募っているが、売れ行きも鈍い。ゲート収入はさいたまスーパーアリーナの5%にも届かないだろう。この試合のチケットが3年後、5年後にプレミアムが付くような活躍を井上に期待したい」。

…そんな事実をベースにした応援が出来ないんです。
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すでに何度も書いていますが、井上がやろうとしていることは常識的に考えたら絶対不可能なことなんです。

ボクシング市場が没落一方の米国でも「全く人気がないバンタム級」で、しかも「日本人」。さらに、一縷の望み、ライバルになる「メキシコの人気選手も見当たらない」。

そして、日本で試合を行うよりも経済規模は10分の1以下という、もはやビジネスとしては崩壊している「挑戦のための挑戦」。

母国の方がビッグマネーが稼げるという点で、パッキャオの米国進出ケースとは真逆。井上の米国挑戦は、非常にシュールな絵筆で描かれているのです。

当のトップランクも「米国での成功」なんてハナから考えていません。本気で「井上をパッキャオのように米国に売り込みたい」(ボブ・アラム)なら「3試合に1試合以上の割合で日本で試合を行う」なんて悠長な条件を契約に盛り込むわけがありません。

「チケット単価が1万円以上で2万人を集客した埼玉」を米国で再現出来るわけがありません。そもそも、ラスベガスはもちろん米国でも2万人を超えるキャパの箱なんて存在しません。

アラムに騙された気分ですが、こっちから喜んで騙されに行っている部分もあるから複雑です。

井上のムーンショット、成功させたいです。アラムとの契約は1年か2年でしょうから、その間に明白な成功を収めたいです。

具体的には、マジソン・スクエア・ガーデンのHuluシアターのような5000人レベルの会場をフルハウスにして日本から潤沢なスポンサー・放映権料が集まれば、100万ドルの報酬も可能です。

そうなれば、契約更新時にはゴールデンボーイ・プロモーションズもプレミア・ボクシング・チャンピオンズ も三顧の礼で井上と契約を結ぼうとするでしょう。

なにはともあれ、来月の26日(日本時間)に試合開始のゴングがなることを願うばかりです!
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あとから思えば…。

そういうことはよく、よくあります。

多くの場合は、はっきりと、そして忌々しく印されたいくつもの予兆に気づかずに、泥沼の事態に嵌まり込んでしまう、悔恨と怒りが混じり合う最悪の「あとから思えば…」です。

しかし、こんな時期にそんな馬鹿なことを言い出すわけにはいきません。


だから、明るい、素晴らしい「あとから思えば…」のお話です。

「あとから思えば…」。

2011年7月3日〜9日、ジャカルタで開催された「第21回インドネシア大統領カップ」は日本のアマチュアボクシングはもちろん、プロボクシングの現在地図から振り返っても、明るい未来へのパスポートが確かに発行された大会でした。

ロンドン2012を翌年に控えて「ここで負けたら話にならない」という国際大会です。

戦前は女子選手の充実ぶりが伝えられましたが、男子もアジア大会で連続銅メダルに輝いた須佐勝明を中心に「あとから思えば…」な豪華な名前がエントリーされました。


しかし、当時もすでに腐敗を極めていた日本ボクシング連盟の許されざる醜態は、この時点ではまだ白日のもとに晒されていません。

既得権益にしがみつく暗愚で理不尽な老人たちが仕切る腐敗連盟から派遣されたにもかかわらず、赤道直下のジャカルタに降り立ったのは、ボクシングファンが誇るにふさわしい史上最強の日の丸部隊でした。

総監督は父親同様にボクシング経験ゼロ!という山根昌守さんという、常識では絶対考えられない最悪最低の布陣。

そんな腐った組織でも、ボクシングが素晴らしいスポーツであることは揺るがしようもない永遠不滅と絶対不変の事実です。

そして、2004年のスマトラ島沖地震から中止が続いていた「大統領カップ」を復活開催にこぎつけたインドネシアに招かれたこの日本代表選手団もまた、この年に見舞われた未曾有の天災に閉塞した母国をあとにして亜熱帯のリングに上がったのです。

本当にいろんな意味で「ここで負けたら話にならない」。

そんな戦いに選手たちは躍動してくれました。
 

金メダルの期待が大きかった清水聡(ロンドン2012:バンタム級銅メダル)がまさかの初戦敗退、国際的な実績豊富な川内正嗣も準決勝で涙を飲んだ一方、須佐は52kgで優勝するなど金メダル3個、男女合わせたメダル総数は8個に上りました。

須佐の他、2つの金メダルは、なんとなんと国際大会初体験の二人によってもたらされました。

一人は49kg級の相模原青陵高校3年生。当時、まだ17歳!

準決勝の相手は、前年の全日本選手権で敗れた林田太郎を競り落とした中国の強豪ウー・ロングオ。
「不利」の予想通りにポイントでリードを許す苦しい展開でしたが、激しい打ち合いの末に逆転勝ちを収めます。

事実上の決勝戦を制した17歳は、そのままの勢いで国際大会デビューを優勝で飾りました。

帰国後すぐに行われた世界選手権代表選考試合でも、苦手なクロスレンジを徹底的に避けて林田を振り切り、雪辱。日本最強を証明して、代表切符を手にすることになるのです。



そして、もう一つの金メダルは75kg級。世界のミドル級です。

この金メダルは、全試合KO・RSC!と圧巻の内容で、やはり国際大会初体験の東洋大学職員の首にかけられたのです。

知的で温厚で優雅な現在のたたずまいからは想像も出来ませんが、当時は記者からの無神経な取材には苛立ちを隠さない態度で応じていました。

「日本人にミドル級は無理?いつまで同じことゆうとんねん」。
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インドネシア大統領杯。「ここで負けてちゃ話にならない」。そうです。まさにその通りでした。


そして、まさしく「あれから僕らは…」。

灼熱のジャカルタから二人の「物語」が走り出したのです。

さあ、アゼルバイジャン世界選手権!世界中の強豪が集結するバクーの決戦です!
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ボクシングマガジンとボクシングビート、二つの専門誌があるのは嬉しいことです。

毎月、どちらかを購入していますが(忘れることもあります)今月はビートを買いました。

「チャンピオンがアマチュアだった頃」という特集に惹かれたからです。

内容は「2012年6月の村田諒太と井上尚弥」というタイトルどおりで、それなりに面白かったのですが…。

その1年前、村田が初めて国際大会で優勝した2011年7月の「第21回インドネシア大統領カップ」から10月のアゼルバイジャン・バクーの世界選手権、日本ボクシング史上最も濃密な4ヶ月の物語をご紹介します。
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開幕まで140日を切りました。(画像は昨日のカウントダウンタイマーです)


紆余曲折の末にヨルダン・アンマンで開催となった東京2020のアジア・オセアニア予選。

選手たちは現在奮闘中です。

応援している選手が敗退するニュースを読むのは悲しく厳しいですが、残っている選手は金メダル目指して頑張れ!

予想どおり、女子は大健闘、このまま大きなお土産を持って帰国して下さい。
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