カテゴリ: リング誌から

10年前の今頃に我が家のポストに届いていたThe Ring magazine MAY 2014。

不可解な判定で初戦を落としたマニー・パッキャオとティモシー・ブラッドリーとの再戦を26ページにわたって大特集したTHE REMATCH ISSUE!。

パッキャオは、このレベルで取り上げられた史上唯一のアジア人ボクサーです。

米国のボクシングファンの目をアジア人に向けさせるにはどうしたらいいのか?それを非常にわかりやすく表現したのが、パッキャオのキャリアでした。

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深刻な販売不振と経営難に喘いでいたリング誌には、すでに「廃刊近し」の噂が立ち上っていましたが、このときはまだ114ページの雑誌体裁を維持、年12回発行していました。

日本のボクシングファンから見ると「これ、リング誌?」と思うようなCARD GIRL OF THE MONTHも絶賛連載中。この号に登場したのは、パッキャオの大ファンというリンゼイ・イルトハムさん。

ブラッドリーとの再戦は、その人気にも後押しされて圧倒的有利とされていたパッキャオでしたが、劣化の兆候はあちこちに見られ「PEAKS AND VALLEYS(山あり谷あり:こんな直訳で最高な表現に出会えるのも外国語を学んでて面白いところです)」と銘打った資料や記事で詳しく解説してくれています。

しかし、今夜紹介するのはリンゼイさんのエッチな肉体でも、過去の再戦名勝負でもありません。

当時、LAドジャースのファーストベースを守っていた強打者エイドリアン〝タイタン(巨神)〟ゴンサレスが、トレーニングにボクシングを取り入れているという記事です。

エイドリアンでゴンサレス、まさにボクサーになった方が良いような名前です。

ところが、彼はまさにこの2014年シーズンで打率276、本塁打27、そして116打点で打点王!とキャリアハイをマークするのです。

もともとボクシングに興味があったゴンサレスは、地元サンディエゴの教会で元世界ヘビー級王者クリス・バードと出会ったことをきっかけに、スピードバッグやサンドバッグ、ミット打ちなどを教えてもらうようになっていました。

ボールを投げる、バットでボールを打つ、野球の動きがパンチを繰り出すのと非常に似ていることを知っていたバードは最高の教師になります。

’’Boxing's mechanics are lot like Baseball’’
ボクシングと野球の動きには多くの共通点がある。(バード)

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バードがファイターに教えるのと同じようにゴンサレスを指導したことも、大きな副産物を生みました。ゴンサレスの野球への取り組み姿勢にファイターの資質、ハングリーさがブレンドされたのです。

カリフォルニアの自宅にジムまで作ったタイタンは、バードの指導を週2回受けるようになってから2年で栄光の2014年シーズンを迎えたのですから、打点王はボクシング効果と言って良いでしょう。


早朝ロードワークや、スピードバッグ、サンドバッグはもちろん、なんとスパーリングまでやっていたというのですから驚きです。

このシーズン前のスプリングキャンプに入るまでに、バードが教えていた若いファイターたちを相手に50ラウンドのスパーリングをこなします。

その若手の中には当時ジュニアミドル級のカネロ・アルバレスもいたと記事にありますが、あの時点ではカネロはただのアイドル(今でもそうとも言えますが)、私は普通に読み進めてました。

「エイドリアンは身体能力が頭抜けている。サウスポーでパンチ力もある。ボクサーになっても世界王者になっていた」(バード)。



ドジャースは日本で最も馴染みのあるMLB球団でしたが、あれから10年、まさかこんなことになるとは。

10年前。私たちはカネロが何者かもわからなかった以上に、大谷翔平が何者かを全くわかっていなかったのでした。


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世界最大のスポーツサイトESPN、NYタイムズが巨額で買収した精鋭記者が集うThe Athletic、テレビ局やプロモーターとの関係が強いBoxing scene .com…20世紀の米国ボクシングシーンをリードしていたThe Ring magazine(プリントバージョンとしての実態はありません)のステイタスはもはや地に堕ちました。

記者のほとんども、かつての名門(といえるかどうかすら微妙)への哀愁を込めたボランティア感覚でレポートを提供していると思われます。

そんな中で、出ました。デジタルバージョン3月号。

井上尚弥が最前列で左フックを放つイラストが表紙。井上が一番似てると感じるのは気のせいでしょうか。

ランキングのページでは中谷潤人がアレハンドロ・サンチアゴの心身をへし折ったショットがトップ。

スキャンダルに塗れ、米国ボクシングの凋落の波に直撃され、深刻な財政難に悶え苦しみながら2022年には1989年以来の休刊(リング誌の表現)、事実上の廃刊に追い込まれてしまいました。

それでも、なんだかんだいっても、私にとっては青春時代の愛読誌。「The Ring」のロゴを見るだけで何かホッとする気分になります。

しかし、内容は…今のリング誌に斬新なものを期待する方が間違っているとはいえ、なんとまあ…。

しかし、しかし、しかし、このボクシング専門誌が、かつてどれほど面白かったか、これからも過去記事を紹介する形でお伝えしてゆきます。


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2019年3月16日、巨大スタジアム(AT&Tスタジアム)で行われるWBC/IBFウェルター級王者テレンス・クロフォードvsマイキー・ガルシアのメガファイトの特集号…といっても、深刻な販売不振、経営難に喘ぎ続けるリング誌は月間体制が崩壊、年9回発行に。さらにページ数も64ページまで目減りしてしまっていました。


https://fushiananome.blog.jp/archives/16210038.html

そのあたりは当時の記事に譲るとして、日本人がらみでは伊藤雅雪が評価の高かったイブゲニー・チュプラコフを7ラウンドでストップしたベタ記事に、PFPランキングでは井上尚弥が6位に記されていました。

初防衛に成功した伊藤の評価は急上昇しましたが、2度目の防衛戦でジャメル・ヘリングに完敗。

そして、当時のPFPは①ワシル・ロマチェンコ、②テレンス・クロフォード、③カネロ・アルバレス、④オレクサンデル・ウシク、⑤ゲンナジー・ゴロフキン、⑥井上、⑦マイキー・ガルシア、⑧シーサケット・ソールンビサイ、⑨ドニー・ニエテス、⑩スペンス。

ジュニアバンタム(115)とバンタム(118)の3ポンドの間に井上、シーサケット、ニエテスと3人も食い込んでいますが、この3人は残念ながら一度も拳を交えることがありませんでした。
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紙媒体を愛でる「ボクマガ青春情熱物語」。これが本当に㊶なのかどうか、書いてる本人すらわかりませんが、とりあえず前回は㊵だったので、おそらく㊶なのだ。

さて、6年前の今頃、我が家のポストに届いていたのがリング誌2018年3月号。

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弱者の言い訳に過ぎないPFPを使って最も効果的な成功を収めたボクサーの一人が、パーネル・ウィテカでした。


この号は、POUND FOR POUND ISSUE(PFP特集)と銘打って、シュガー・レイ・ロビンソンを讃えるために創造されたMythcal Title(妄想タイトル)をさまざまな角度から検証しています。

ロビンソンが活躍した1950年代、米国ボクシングは黄金時代を迎えていましたが、もちろん私は当時を知りません。

ただ、私が高校図書館でリング誌を貪り読むようになった1980年代に年間アワードの一つとしてBest Fighter Poll(経営不振からのリストラで2017年で廃止)がスタートしたこと、1990年からランキング形式で毎月発表するようになったこと、2010年から毎号発表と連動するデジタルバージョンでのランキングが出来上がったこと(現在残っているのはこのデジタルバージョンのみ)は、知っています。

「『黄金のバンタム』を破った男」(百田尚樹)などに「ファイティング原田が挑戦するのはPFP1位のエデル・ジョフレで、勝ち目はないと大騒ぎになった」という表現が出てきますが、あれはおそらく創作です(作者の周囲にボクシングに超精通したマニアが多くいてPFPという言葉が普通に飛び交っていたという可能性もゼロではありませんが…)。

当時はPFPなんて言葉は一般的ではなく、「ジョフレの1位」は後世になってリング誌などが当時もしPFPが存在していたなら、という仮定のもとで後付けたものです。

1950年代、ボクシングは黄金時代を謳歌していたのなら、ロビンソンは現代のマニー・パッキャオやカネロ・アルバレスのようにメディアからもファンからも十分讃えられていたはずです。

それなのに、どうしてPFPなどというモノサシを持ち出して、改めてロビンソンを改めて讃える必要があったのでしょうか?

当時、ボクシングは今では想像もつかない大きな人気と社会的ステイタスを持っていましたが、ヘビー級の存在感が圧倒的でした。

「ヘビー級やミドル級、ウェルター級といった人気階級」と書いても今なら違和感がありませんが、当時はヘビー級は別格。

世界ヘビー級チャンピオンは、あらゆるスポーツで最も価値があるタイトルだったという、やはり今では信じられない神話の時代です。

リング誌のナット・フライシャー編集長が「ロビンソンがいかに特別かを伝えたい」と、それまで明確な定義はなく言葉として存在していたPOUND FOR POUNDを持ち出して「ロビンソンこそがPOUND FOR POUND。POUND FOR POUNDとは…」とやり出したのが始まりです。

つまり、PFPとはロビンソンのことだけを指し、PFPランキングは一部のメディアが突発的場当たり的に制作することはあっても、定期的継続的なものではありませんでした。

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1980年にBest Fighter Pollが始まるまで、定期的に発表されるPFPは存在しませんでした。

個人的には、広く承認されることのない妄想や独断と偏見の産物であるPFPはプロレス的で大好きなのですが、多くの人は「意味のないお遊び」と片付けてしまいます。

日本のボクシングファンの場合、山中慎介と内山高志がリング誌のランキングに入ったこと、そして井上尚弥がトップに駆け上がったことが大きく影響して、高い関心を持つようになりました。

しかし、メディアの偏向報道でFOTYよりもPFPの方を先に知ってしまい「PFPの方が格上で他のスポーツでは年間MVPに匹敵する」という完全に間違った形でインプットされてしまうのでした。


このブログでもPFPを取り上げると「それ妄想でしょ」「意味がない」と否定的な意見が寄せられると思っていたのに、そうではないことに軽い驚きを覚えたものでした。
ロビンソンだけを指していたはずのPFPは、現代では認定団体と階級が癌細胞のように増殖する構造を肯定する一つの道具として使われるようになり、21世紀になるとPFPファイターといえばトップ10選手を指すようになりました。

このPOUND FOR POUND ISSUEを教科書に、もう少しPFP話にお付き合いくださいませ。







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いよいよ週末に迫ったAmazonプライム ライブボクシング第7弾。

最も注目すべきカードはWBCバンタム級タイトルマッチ、アレハンドロ・サンチアゴvs中谷潤人。三つの階級を急ぎ足で駆け上がってきた俊才の3階級制覇が、どんな形で達成されるのか?が焦点です。

挑戦者が圧倒的有利の下馬評とオッズに、反骨精神旺盛なメキシコカン王者は闘争心を燃え上がらせています。

“He’s been champion twice and I love this type of challenge because I know beating a fighter like this with a tremendous resume, I’m going to a bigger level and better fights.”

中谷は2階級制覇を成し遂げて評価の高いボクサーだが、この手のチャレンジは大好物だ。中谷を倒せば彼の評価が手に入る、ボクサーとしてのレベルも上がって、さらなるビッグファイトに進むことが出来るからだ。



36試合のプロキャリアを積み重ねてきた28歳の王者は、タイトルマッチの11日前、2月13日にサンディエゴから東京までの直行便で来日しました。

時差や環境、調整などを考えると直前の来日に思えますが、日本で世界戦を行う外国人はみんな同じ。直前に、窮屈なエコノミークラスに乗ってやって来ます。

例外的にゲンナジー・ゴロフキンは特別機に乗ってやって来て、高級ホテルを貸し切りましたが、それは人気階級のビッグネームだから。

軽量級の選手は世界王者でもビジネスクラスとビジネスホテルが相場です。

それでも、サンチアゴは「やるべきことは全部やって来た。減量もあと少し落とすだけ」と好調をアピール。

「尊敬するノニト・ドネアの次は中谷と日本で戦える。私は何てラッキーなんだ」。

「ボクシングは次の人生へのステップ。やりたいことは山ほどある。15のホットドッグ屋台を展開している父親の仕事を助けたい。日本で試合ができてまとまったカネが入るから、店を出して事業を大きくしたいね」。

夢見ていた「日本で世界戦」を現実にした、タフでハングリーなメキシカンが安牌なわけがありません。

アルヒ・コルテスよりも重くて頑丈で、ガッツもあるでしょう。

それでも、勝敗への興味はありません。

中谷潤人が、どんな形でサンチアゴを陥落させるのか?

それだけです。




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2022年で廃刊となったリング誌ですが、DIGITAL MAGAZINEの形態ではしぶとく〝発行〟を続けています。

昨年は1月号、2月号、4月号、5月号、6+7合併号、8+9月合併号、11月号と7〝冊〟を〝発行〟。

今年も1月号、2月号と続いています。

1月号はFighter Of The Yearに選出した井上尚弥を単独カバー。

そして2月号はオレクサンデル・ウシクとタイソン・フューリーのフェイスオフを表紙に「POSTPONED(延期…)」がテーマ。

スパーリングで負ったとされる、フューリーの右目上の深いカットは自傷ではないかという疑惑も持ち上がっていますが、この史上空前のメガファイトのAサイドは35歳のジプシーキング。勝手にやって下さいませ。

このフューリーの工作?で、多くのブッカーでオッズが逆転、ウシク有利の掛け率まで現れました。

ウィリアム・ヒルでもフューリー4/5(1.8倍)、ウシクはEVS(1倍)。

ウシクは約220ポンド、フューリーは約280ポンド、60ポンド!差で争われるUndisputed championshipなんて前代未聞、驚天動地です。しかも、軽い方が優勢と見られているなんて…。

こんなことをされては、当日のリバウンドがー、複数階級制覇がー、PFPがーと、敏感に階級が語られるその他16階級の立場がありません。

ウシクが勝てばオールタイムPFP1位でも文句なしという声も上がっていましたが、もはや勝っても番狂せにならない数字になってしまいました。

現在、PFP上位を争っている井上尚弥やテレンス・クロフォード、カネロ・アルバレスらはウシクが引退するまでPFP1になれない、なんて事態が起きそうです。

PFPは弱者の言い訳、弱者の駆け込み寺であったはずなのに、そこに本物の強者が土足で上がり込むなんて、今後はどんなに強くてもヘビー級をPFPから外さなければなりません、真面目な話。





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日曜日の昼下がり、リング誌2月号(デジタル版なのに2月18日発行の2月号ってどうなのよ?)からお届けするのは、「POSTPONED の憂き目にあった過去のメガファイト」の記事ではなく「SINGLE COMBAT〜IN THE EMOTIONAL AFTERMATH OF HER TWO-DIVISION TRIUMPH, MIYO YOSHIDA BECAME BOXING’S NEWEST HERO(シングルマザーの戦い〜吉田実代は2階級制覇を成し遂げ、感動的な物語によって新しいヒロインになった」。

そうです。このブログでも取り上げた女パッキャオ吉田実代です。

2022年8月、シングルマザーの吉田は8歳の一人娘・実衣菜の手を引いてニューヨークに乗り込みました。

元WBOジュニアバンタム級王者とはいえ、すぐにチャンスが巡ってくるはずもありません。それでも再び世界王者に返り咲くことを目指して、ニューヨークを選んだのでした。

殿堂入りのプロモーター、ルウ・ディベラと、名門グリーソンズ・ジムの所有者ブルース・シルバーグレイドは彼女を歓迎してくれました。

運が良い、としか言いようがありません。何のツテもない女子ボクサーが受け入れてくれるメンツではありません。

渡米第1戦はフライ級でインディヤ・スミスに判定勝ちを収め、11月7日に行われた2戦目でバンタム級のIBFインターコンチネンタル王者決定戦へ出場。優勢に試合を進めていたと思われましたが、結果は99−91/98−92/96-94と不可解な判定でシュレッタ・マトカーフに敗北。

「これでしばらくチャンスは来ない。あと2〜3年かかるかな」(吉田)と、誰もが幸運の歯車がここで軋んだと思いました。

30歳を超えた吉田は元王者の肩書をすり減らしながら、噛ませ犬扱いのキャリアになると。

しかし、この試合をIBFのダリル・ピープルズがリングサイドで見て「面白い選手だ」と感じていたのです。

そして…。

レジス・プログレイスvsデビン・ヘイニーのビッグファイト(12月9日:サンフランシスコ・チェイスセンター)のアンダーカードにセットされていたIBFバンタム級王者エバニー・ブリッジスの防衛戦の相手が試合3週間前に負傷。

吉田に勝利しているマトカーフにオファーが行くのが順番ですが、ヘイニーをプロモートしているディベラがピープルズ会長に「うちに面白い試合をする日本人がいる」とダメ元で持ちかけました。

ピープルズの「知ってるさ、ミナ・ヨシダだろう?先月試合をしたばかりだが、大丈夫なのか?」という言葉が終わる前に、ディべラはIBF会長の両手を掴んで握手していました。

ディベラが吉田に伝えると、予想通りの即答。

「やります、絶対にやります」。




DAZNとマッチルームのイベントでお馴染みのデビッド・ディアマンテは「戦うシングルマザー」と日本語で紹介、ディベラが仕込んだ粋なプレゼントでした。

7−1と圧倒的不利と見られた35歳のシングルマザーはキャリア最高のパフォーマンスを見せ、人気者の世界王者を下して2階級制覇に成功!

日本の女子ボクサーとして史上初めて米国でタイトルを奪取する快挙のオマケ付きでした。


Then the indelible image from that night, and perhaps the most memorable one of 2023, as a tearful Mina hugged her mother in the middle of the ring. They’d made it. A single mom and her daughter, on top of the world. In a negative business full of people jaded by dealing with nonsense day in and day out, this was an early Christmas gift.


この夜の忘れ難い、いや2023年で最も記憶に残る光景は、リングの真ん中で嬉し泣きにむせぶ実衣菜が母親と抱き合うシーンでした。

大観衆も、この偉業が二人で成し遂げられたことに気づくのです。

毎日、毎日、くだらないことに明け暮れる陰湿なボクシング界で、アメリカンドリームをつかんだ母娘が抱き合う姿は、少しだけ早い、最高に素敵なクリスマスプレゼントでした。

リング誌は吉田を「The Most Inspirational Female Fighter award(最も感動的な女子ボクサー)」に選出。日本の女子ボクサーではもちろん初めてのことでした。

吉田は「日本だけでなく、世界中に私のことを知って欲しいと思って戦ってきた。今夜はそれが少しだけできたかな」とインタビューに答えると、ディベラとジムジムメイトたちに感謝しました。

I’m actually sort of glad I got to see everything the way it unfolded with her daughter and saw what the public saw. It inspired me. And it takes a lot after 35 years of this miserable, wretched business for something to inspire me.

そのディべラは「彼女が何を成し遂げたのか、そしてそれがどんなに困難な道だったかを多くの人に伝わったことが、とにかく嬉しい。この惨めで腐ったボクシング界に、私が35年もしがみついている理由は、こういう素晴らしい光景を見ることが出来るからだ」と、やはりその感動を語っています。



実衣菜は母親のようなプロボクサーになることを目指して、練習を始めているそうです。

「日本ではシングルマザーでプロボクサーというと、危ないからやめなさい、子供がかわいそう、安定した企業に勤めなさいと言われてしまうけど、米国ではみんな応援してくれるから、すごくやりやすい」(吉田)。

そして、実衣菜については「私よりずっと才能がある」と評価。

次の感動は、この二人が母娘で世界チャンピオンになる光景かもしれません。

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興業規模や欧米人気でいうとヘビー級になります。

カネロ・アルバレスが主戦場にするスーパーミドル級も、米国市場では飛び抜けた興業であり続けています。

しかし「全階級を平等に考える」PFP目線で照らすと、140ポンド、ジュニアウェルター級が最も熱い階級かもしれません。

人気で先行するライアン・ガルシア、リング誌/WBO王者テオフィモ・ロペスに、実力者のWBC王者デビン・ヘイニー、20戦20勝20KO1敗のIBF王者サブリエル・マティアス、WBA王者ローランド・ロメロ、
ガルシアとロメロを破壊したガーボンタ・デービスの王者群。

そして、リチャードソン・ヒッチンズ、アーノルド・バルボサ、ゲイリー・アントゥアン・ラッセル、リンドルフォ・デルガド、リーアム・パロの無敗のアルファベット・ランカーたちがタイトル挑戦の順番待ち。



階級最強と目されるヘイニーと、人気No.1のキング・ライが4月20日、ラスベガスで激突することが決定。6−1のオッズを跳ね返してキング・ライが大番狂せを起こすと、このクラスがさらに沸騰するのは間違いありません。

一番つまらないのは死神ヘイニーが8戦全勝0KOの「世界戦0KOレコード」を伸ばして、この階級でもUndisputed championに就いてしまうパターンです。

井上尚弥のようにきっちり焼け野原にしてくれたら納得できるのですが、欲求不満の炎があちこちで立ち昇ってる生煮えの完全統一は遠慮して欲しいのですが…。

そうなると140ポンド熱も一気に冷めてしまいます。


日本のアンディ平岡にもなんとか絡んで欲しいところですが、トップ戦線が渋滞している上に、レジス・プログレイスやホセ・ラミレス、ジョシュ・テイラー、ジャーメイン・オルティスといった第一集団から落ちてきた選手でも日本に呼ぶには超ビッグネーム、軽量級の世界戦を遥かに超えるコストに加えて、リスクも一気に膨らむ強豪です。

帝拳コネクションを持ってしても、現状の140ポンドシーンで世界までの石橋鉄板ロードを舗装するのは極めて難しそうです。


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井上尚弥に批判的な米国BOXING NEWS24(BN24)から。

スティーブン・フルトン戦後に井上尚弥が語った「米国のボクシングスタイル」が、一部ファンから反感を買っているという記事を要約。

井上の「I don’t know if it’s because he’s American, but he doesn’t like getting punched in the face. Their boxing style is different from Japanese fighters who fight with Yamato-Damashii (Japanese spirit),=フルトンが顔面を撃ち合うことを嫌がっていたのは、米国人だからかどうかはわからないが、大和魂で戦う日本のファイターとは随分違う=」という発言が「米国人ファイターをチキン呼ばわりした」と、一部で議論を呼んでいるそうです。

BN24は「フルトンは井上に力負けしただけであって、どこの国の選手かは関係ない」「そもそも井上が戦った米国人は衰えたノニト・ドネアもそうだとすると、フルトンを合わせて二人だけ(それなのに米国人をチキン呼ばわりするのはおかしくないか)」「井上はドネアとの初戦で顔面を殴られて眼窩底を骨折させられたのをもう忘れたのか?」「強引な打撃戦を繰り広げるのは、フルトンの洗練されたスタイルにはそぐわない。どうして井上の力任せのボクシングに付き合う必要があるのか?」と、日本のモンスターの発言を批判。

「You can only imagine what a young version of Donaire would have done to Inoue. He would have surely beaten the Japanese star.(全盛期のドネアなら井上をぶっ倒していた可能性が高い。若きドネアなら間違いなく日本のスターを打ち負かしていたはずだ)」。

「井上がもっと多くの米国人と戦っているのなら、その発言にも説得力があるが現実には二人だけ。しかも、フルトンでは話にならない」。

「米国のファイターが戦っているまともな階級で、ガーボンタ・デービスやアドデュラ・メイソン、レイモンド・ムラタラらと戦えば、米国人がチキンかどうか、井上理論が間違っていることを思い知らされるはずだ」。

「Some fans view Inoue’s decision to stay at 122 as a sign that he didn’t like the punishment he took in his recent fight against Marlon Tapales and is hesitant about going up to 126 to face the killers, Rey Vargas, Luis Lopez, and Rafael Espinoza.(122ポンドに止まると決断した井上の方が、顔面を打たれることに恐怖しているのではないか)。






しかし、去年の7月25日に行われた試合を、今頃になって持ち出すか?

もちろん、井上が米国では州はおろかナショナルタイトルも常設されていない不人気(というか不認知)階級で無双していることは事実です。

しかし、気に食わなければ、多くの米国ファン同様に無関心のままでいたら良いだけのこと。

some American fans(そんな米国ファンも一部でいる)という書き方もそうですが、そもそも数少ないボクシングファンでも余程のマニアでなければ井上もフルトンも知りません。というか、日本人でも純粋想起で「井上尚弥」「スーパーバンタム級」が出てくるスポーツファンは少数派でしょう。

それなのにときどき食いついてくるBN24は、認知して興味も持ってくれるだけまだマシなのかもしれません。

というわけで、これからもよろしくBN 24さん。

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5年前、2019年のThe Ring magazine 2月号。

日本経済新聞などでも「日本人ボクサーが史上初の単独カバー」と紹介された、日の丸を背景にした井上尚弥を表紙に起用した一冊です。

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かつての半分以下の64ページまで痩せ細ったにも関わらず、MMAコーナー「ENTER THE OCTAGON」が連載化されるなど、近い将来に雑誌タイトルが「The Ring & Octagon」(順番が逆転して「The Octagon & Ring」?)となるか、廃刊になるかの二つに一つと噂されていた時期でした。

表紙は「井上尚弥」。Fighter Of The Month(月間最高選手賞)は「村田諒太」を大番狂せで下したロブ・ブラント。Best I Faced(私が対決したキャリア最高の相手)は「ファイティング原田」。

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PFPランキングは1位がワシル・ロマチェンコ。超軽量級からは6位の井上をはじめ、8位にシーサケット・ソールンビサイ、10位に井岡一翔に勝利したドニー・ニエテス。

トーマス・ハウザーの連載「JAB AND STRAIGHT WRITES」をご紹介。




*****現代のプロボクサーほど過去との比較に晒されているアスリートは、他のスポーツでは全く見当たらない。

マイク・トラウトは「ミッキー・マントルの領域には達していない」と批判されることはない。他のスポーツではそれが当たり前だ。

ところが、最近のボクサーは有名になればなるほど、過去のグレートと比較され「誰々と戦っていたならKO負け」と決めつけられてしまう。

ボクシングファンは懐古的で、ロマンティックな生き物なのだ。

ベニー・レナードは強かったか? 彼の時代なら文句なし、間違いなく強かった。しかし、100年の歴史を超えて全盛期のレナードとロマチェンコを戦わせるなら、私は迷わずロマチェンコに賭ける。

「レナードよりもロマチェンコが上」という話ではなく、時代とともに技術も進化するということだ。

ロマチェンコ、テレンス・クロフォード、カネロ・アルバレス、ゲンナジー・ゴロフキン、エロール・スペンスJr.のレベルのファイターたちは、どの時代でも通用するだろう。ある程度の時代を超越した実力を持っていたフロイド・メイウェザーやアンドレ・ウォード、バーナード・ホプキンスにも同じことが言える。

そう、通用する。

では、1980年代のシュガー・レイ・レナードは現在のウェルター級選手よりも優れているか?

全く疑う余地がない。レナードは全盛期のシュガー・レイ・ロビンソンを例外に、どの時代でも支配できるだろう。

しかし、他のスポーツでは何十年も前のアスリートは現代では通用しない。

史上最高の野球選手と誰もが認めるベーブ・ルースが、多彩な変化球と100マイルを超える速球を操る現代の投手を、生涯打率3割4分2厘のまま打ち込めるとは考えられない。

1932年の五輪で二つの金メダルを獲得した水泳選手は、現代では女子の準決勝に進むこともできない。

では、ボクシングにだけ例外が存在するのはなぜなのか?

現代のボクサーが優れているのは、栄養面と、試合間隔が空くことによるコンディショニング。昔日の栄養面と試合間隔では、現代のボクサーの精度は間違いなく落ちる。

テディ・アトラスは「ボクシングの技術はある日突然に全てが変化したわけではない。段階を踏んで進化してきたのだ」と語り、黒人ボクサーのパイオニアというだけではなく攻防一体のスタイルを編み出したジャック・ジョンソン、ユダヤ人ボクサーとして一時代を築いたベニー・レナードは現代に連なる技術体系を完成させた、と説明している。

殿堂入りのマッチメーカー、ブルース・トランプラーは「現代には大きな技術進化をもたらすボクサーがいなくなった。その理由は、1940年代から1950年代にボクシングの技術体系は完成していたからだ」と見ている。

さらに、トランプラーは「市場の縮小で選手だけではなく、優秀なコーチまでが少なくなったことも気になる」と指摘。

さらに、プロボクシングが安易なビジネスに偏向していったことも、ボクシングを退化させている一因だ。

他のスポーツでは最強対決が避けられないが、ボクシングでは最強対決が見れないことが当たり前。ボクシングで「誰に勝ったのか?」が問われるのは、そのためだ。

ロジャー・フェデラーとラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチは切磋琢磨することで、後続の若い選手たちが届かない高みに到達した。そこに「フェデラーは誰に勝ったのか?」なんて愚問がわく隙はない。

アトラスは「どんなに優秀なトレーナーでも教えられないことがある。どんなに厳しい練習をしても学べないことがある。最も重要なことは優れた相手とギリギリの戦いをすることでしか修得できない。今の時代はそれが致命的に欠けているのだ。現代のファイターたちは、いかに安全にいかに楽をしてより大きな報酬と評価を手にするかのゲームに興じているだけ。そんな馬鹿げたことが許されるのはボクシングだけだ」と考えている。

「シュガー・レイ・レナードがなぜ偉大なファイターになったのか?彼がトーマス・ハーンズに勝てたのは、ロベルト・デュランから学んだから。そして、デュランとハーンズから学び取ったことがマービン・ハグラー戦につながっている。デュラン戦の前にはウィルフレド・ベニテスとの厳しい戦いも潜り抜けた。レナードは彼らとの戦いの中で、コーチが教えることのできない、練習では修得することのできない、勝負の秘法を学び取ったのだ」。


Great Fighters are forged in fire.


鉄が打たれて強くなるように、ギリギリの戦いから学ぶことで偉大なファイターが生まれるのだ。*****




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▶︎▶︎▶︎現代で、Great Fighters are forged in fire.を地で行くファイターはマニー・パッキャオくらいでしょう。

アジア人、軽量級というナメられる要素満点だったことが幸いして、ビッグネームの方からオファーが押し寄せたのですが。
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2022年まで定期購読していたThe Ring magazineや、今も定期購読している英国Boxing News。

当然、海を超えて我が家のポストに届けてくれるのですが、月刊のリング誌ではありえなかったことが、週刊BN誌では起こるのです。

例えば2月8号が、2月8号よりも先に届けられるような逆転配達状況があります。

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月刊誌だと1月号よりも2月号の方が先に届く、なんてことはありませんが、週刊だと時々あるんです。


ロンドンから横浜の我が家のポストまで、こいつらはどんなルートを辿って、遥々やってきたんだろう。そして、配達が遅れたやつはどこで道草してたのだろう?


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