カテゴリ: 世界に挑む日本人,陸上100m,東京五輪


東京2020に向け、9秒台ラッシュが続いていた男子100m。

日本記録を9秒95にまで更新した山縣亮太、自己ベスト9秒98を持つ小池祐貴、この二人に日本選手権で快勝した多田修平。

少なくとも3人のうちの誰かは、89年ぶりの日本選手決勝進出が期待されていました。

しかし、最も言い訳できないスポーツで、史上最強トリオは予選も突破できず、惨敗に終わります。

7組3着までが自動的に準決勝進出。4位以下の選手でタイムが良かった3人がプラスで拾われる、3着+3。

1組の多田は持ち味のスタートダッシュが不発に終わり、10秒22(追い風0.2m)の6着に沈みます。まだ1組目で6位ですから、後の組の4位以下で10秒22を上回るスプリンターが出た時点でゲームオーバー、万事休すです。

3組で走ったエースの山縣は、10秒15(+0.1m)で3人の中では最速のタイムで走ったものの、4着。

準決勝進出の3着以内に誰も入れなかった事実は、100mファイナリスト(決勝進出)を目指し、そこに期待していたファンたちにとって、惨敗だったと認めるしかありません。
FullSizeRender「自分のレースができなかったので、非常に悔しい。隣の選手にスタートで前に出られて、力んだ走りになってしまった」(多田)。
 

その「隣の選手」は9秒85の自己ベストを持つロニー・ベイカー(米国)でしたが、それを不運とは言えません。そういう並びになることは十分想定して練習してきたはずです。

 
「結構プレッシャーがかかったが、いまできる準備はしてきたので、これが実力」(小池)。

小池は、今シーズン調子が上がりきらないまま、大舞台を迎えてしまいましたが「プレッシャー」という言葉を何度も使いました。「これが実力」、その通りです。



 「準決勝、決勝を見据えて10秒0台は欲しい中で、そういうレースが出来なくて残念。スタートはもう少し楽に飛び出したかった。それも含めて調整の問題だった」(山縣)。

山縣は、同じ9秒95を自己ベストに持つラモントマルチェル・ジェイコブス(イタリア)との一騎打ち、予選突破は確実と見られていましたが、そのジェイコブスは9秒94で走り余裕のトップ通過。
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3人とも、自分の走りが出来なかったと悔やみました。


プラスで拾われた3人のタイムは10秒05、10秒10、10秒12。山縣はあと0秒3足りませんでしたが、それでギリギリの通過。

山縣が「(最初から想定していた)10秒0台を出していたら問題なかった」という言葉も、全く甘いとしか思えません。10秒0台なら3着通過、プラスでも拾われた可能性大ですが、それでギリギリです。

89年ぶりの決勝進出に必要だったのは10秒0台前半…私たちはこの舞台を完全に見誤ってしまいました。

一体、何が〝史上最強の3人〟を飲み込んでしまったのか。


①世界的なパンデミック下の中で、練習環境は悪化、リオデジャネイロ2016やドーハ世界陸上2019と比較しても、レベルは大きく上がらないと見られていました。

実際に参加選手のシーズンベストで山縣は6位。準決勝進出枠の18人に残れないことはない、と考えていました。

しかし、現実は予選から3人が9秒台で走り、プラスで拾われるラインはドーハの10秒23を0秒1も上回る史上最もハイレベルな予選となってしまいます。

山縣と予選3組を走ったジェイコブスは「最初の2組が予想以上に速かったから、簡単じゃないと気持ちを引き締めた」と、レベルが高いことを確信、9秒94で駆け抜けました。

敗退した後も「10秒0台で走っていたら」という山縣とは意識の差が大きかったように思われます。


②3人ともに語った「いつもの走りが出来なかった」という最大の原因は、決勝進出への重圧だったでしょう。

大谷翔平も「(地元の異様なまでの大声援は)ドーピング、普通じゃない力が出る」と語っているように、五輪でも地元開催がホームの選手に有利に働くのは当然です。

しかし、観客のいないスタジアムではそのメリットは少なく、苛烈に濾過された純度100%の嫌な重圧だけが3人の精神と肉体にのしかかっていたのかもしれません。

そして、そのプレッシャーが野球やサッカーのような団体競技よりも、個人競技の方が増幅されるであろうことは想像に難くありません。


これは、10秒で終わってしまう〝取り返しのつかない〟競技です。

自国開催の五輪。

大きな注目を浴びながらも、スタジアムは無人…。

そこで、いつも通りの走りをするなんて、超人技です。



③9秒台ラッシュで日本選手権にも大きな注目が集まる中で、世界へ向けるべき集中力が散漫になっていなかったか?

男子100mはメジャー種目です。さらに、原始的で爆発的な能力が求められることから「日本人が活躍するのが最も難しいスポーツ」と考えられてきました。

9秒台ラッシュの中で五輪切符をつかんだ3人が、何かをやってくれると期待するのは当然で、彼らも手応えを感じていました。

しかし、日本国内では一気にレベルが上がったとはいえ、世界との実力差は歴然としています。

強豪国としての長い歴史と経験を持ち、国内に世界的なライバルが存在する柔道とは全く違うのです。

淡々とインタビューに答えた彼らの誠実さと正確な自己分析は、さすがでした。

しかし、「銀メダルで申しわけありません」と悔しさに泣く柔道とは意識が違います。

この惨敗は、無駄ではありません。9秒台フィーバーでは、予選突破もおぼつかない現実を突きつけてくれました。

わたしも、五輪前に「レベルが下がったから活躍できたなんて言うなよ!」という趣旨のことを書きましたが、あれは男子100mを主に意識したものです。

3人とも準決勝には進むかもしれないと、期待していました。ただ、確信ではありません。

何よりも、この惨敗劇を目の当たりにしても、多くのメディアが使った「まさか」という思いは全くありませんでした。


「そういうことか」。

そんな思いでした。

甘かった。ただ、ただ、甘かった。
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注目の男子100メートルは今日予選、準決勝が行われ、決勝は明日の夜8時半ごろに号砲が鳴ります。

史上稀に見る6強の激突です。

陸上トラックレースの魅力の一つは、強豪選手が直接対決することです。
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もうあと、29日に迫りました。スクリーンショット 2021-06-06 23.25.36
規定の期間で参加標準記録10秒05を切っている山縣亮太、サニブラウン・ハキーム、桐生祥秀、小池祐貴、多田修平は3位以内で代表内定。

標準記録を切っていないケンブリッジ飛鳥が代表の座を掴むには、3位以内だけでなくタイムも求められます。

コンディションが万全でないと伝えられるサニブラウンとケンブリッジに加えて、右アキレス腱を痛めていることを告白した桐生。

下馬評通りなら山縣、多田、小池でしょうが、大勝負が順当に決まるとは思えません。

そもそも、この6強が予選、準決を突破して決勝のスタートラインに揃うかどうかもわからないのです。

今日の予選、準決で決勝の展開がある程度見えてくるかもしれません。

陸上100メートルは、ボクシングでいうとヘビー級。最も強い男たちの激突です。

天候、風が心配ですが日本選手権で9秒台の争いを見たい!
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山縣亮太が100m日本記録を9秒95まで更新しました。

ニュース速報も流れるビッグニュースでしたが「驚異的な日本記録」などの報道は一切見られませんでした。

陸上ファンからしても「予定通りじゃ!」な記録更新です。この程度では、わしらはもう驚かないのです。

素晴らしいことです。

1998年のバンコク・アジア大会で伊東浩司が10秒000を叩き出したとき、9秒台突入は時間の問題と思われました。

しかし、バンコクで伊東が刻んだ時計はその後19年間も止まったままになってしまうのです。

そして、2017年に桐生祥秀が9秒98を出すと、堰を切ったように9秒台が続きました。

まさに、バニスター現象です。

https://fushiananome.blog.jp/archives/4855508.html

人類にとって最大の敵は生理的限界などではなく、心理的限界です。

日本人が世界ヘビー級王者になるのは不可能。日本人がウサイン・ボルトに勝つのは不可能。

全部まやかしです。
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なんだか人が多いなあと思ったら、大規模接種センター行きのバス乗り場に向かうに人たちでした。
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しかし、そして、もしかしたら〝逆バニスター現象〟なるものも
存在するのかもしれません。

やはり昨日、新潟で行われたグランプリシリーズの男子走り幅跳びで
橋岡優輝が8m23㎝の好記録で優勝しました。
男子走り幅跳びには自己ベストが日本記録8m40㎝の城山正太郎、歴代2位の8m32㎝の橋岡、歴代4位8m23㎝の津波響樹がすでにオリンピックの参加標準記録を突破、100mを遥かに凌ぐ世界基準のタレントが集まっています。

リオデジャネイロ2016の優勝記録は8m38㎝ですから、日本勢は金メダルを獲ってもおかしくないポジションにつけているのです。

一方で、リオの男子100m優勝タイムは9秒81ですから、この種目で日本人が金メダルに輝くことは、常識的には考えられません。

ちょうど30年前のバルセロナ1992の100m優勝タイムは9秒96、山縣が出したばかりの日本記録を100分の1秒下回っていました。

これをもって、山縣らが当時の五輪に出場していれば金メダルもありうる、と考えるのは早計ですが、決勝進出は十分可能性がありました。

30年前は溜息ついて見上げるしかなかった記録でも、十分手が届くようになるのです。

とはいえ、人気種目である男子100mはいつもレベルが高く、マイナーなトラック種目や、そもそも人気のない走り幅跳びなどのフィールド種目は退化のうねりに飲み込まれる傾向が続いています。

走り幅跳びはメキシコ1968でボブ・ビーモンが8m90㎝の驚異的な世界記録を樹立。空気抵抗の低い高地で追い風2.0mという完全無欠の条件下での大跳躍だったとはいえ、その後23年間も凍りついたままでした。

この〝アンタッチャブル〟を融解したのが1991東京世界陸上で8m 95を跳んだマイク・パウエル。

23年後にやっと更新された走り幅跳びの世界記録でしたが、バニスター現象は起きず、8m95㎝は31年経った今も更新されないままです。

この世界的な低迷も、日本人のチャンスを広げる一助になっているのかもしれません。



そして、男子100mも幅跳びも、水泳などの記録競技全般で、今季は注目すべき大きな異変が起きています。

五輪前の年から沸騰する記録ラッシュが見れないのです。五輪前というのに記録が低調のままなのです。

パンデミックの影響で大会が激減したこともありますが、それ以上にアスリートがモチベーションの持って行き場を見失っているのが最大の原因でしょう。

こういう世界情勢を聞くと日本のスポーツファンは「え?日本のアスリートはそんなことないよね?陸上も水泳も好記録が出てる」と、不思議に感じるかもしれません。

自国の五輪だから気合の入り方が違う?それもあるかもしれませんが、私にはこれが日本人の規律の高さだと確信しています。

体重超過して「このクラスにいつまでもいるわけじゃない」(エイドリアン・ブローナー)なんて見苦しい開き直りのセリフ、日本人の口からは絶対に出てきません。

日本人なら減量に負けた自分を恥じ、何より対戦相手に申し訳ない思いで一杯になるでしょう。



東京2020には、世界中の強豪が集まらないかもしれません。来日した強豪選手も本調子ではないかもしれません。

それをあげつらえて「こんな金メダル、世界一じゃない」とが言い出すバカが蛆虫のように湧いてくるかもしれません。

もうすでにそんなゲロを吐いてる暗愚な輩もいます。



…冗談じゃない。

この環境下で一番強いやつこそが、本物の世界一なんじゃ!


さてさて!あと46日!

五輪の舞台で輝け!日本のアスリート!!!がんばれニッポン!!!
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ニュース速報が流れて、知りました。

【 #速報 】男子100㍍ #山縣亮太 驚異の #9秒95 #日本新 で #号外 でた #Short

高速トラックに、追い風2.0m!

これまでの紆余曲折、七転八倒のが嘘のように、風が吹きました。

しかし、山縣の走りは美しい。

調子を上げていたのはわかってましたが、やっぱりすげぇなあ。
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第105回 日本陸上競技選手権大会。6月24日(木)〜27日(日)ヤンマースタジアム長居。

100mには歴代10傑のうち6人のスプリンターが登場、五輪代表の3枠を争います。

このパンデミックでも素晴らしい記録を届けてくれている日本陸上界ですが、男子100のレベルと競争の苛烈さは、歴史上類を見ない次元です。
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100m決勝は25日に号砲が鳴ります。必見です。

山縣が本命とはいえ、わかりません。誰が勝っても驚きはありません。

3つの出場枠に山縣が漏れたとしても、全く不思議じゃありません。
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20歳のサニブラウン・ハキームが100m9秒97の日本新記録を樹立しました。

全米大学選手権の決勝。苦手のスタートはこのレースでも出遅れ。それでも中盤から加速して桐生祥秀の持つ日本記録9秒98を0秒01更新しました。

サニブラウンは先月11日、キャリア初の9秒台(9秒99)を記録、1ヶ月足らずで自己記録を塗り替えました。日本人で9秒台を2度マークしたのも史上初です。
 
東京2020の男子100mの代表選考は、今月末開催の日本選手権で優勝したら確定です。

追い風0.8mの9秒97…。すごいです。

鈍足中長距離ランナーだった私は大学時代、100mの公式記録が欲しくて「恥ずかしからやめてくれ」と同僚が止めるのを制して100mの記録会に出場、念願の12秒突破、11秒98(追い風1.9m=公認)を叩き出し大げさに喜んでさらに同僚を赤面させました。

公認ギリギリの追い風に乗った私でも2秒も突き放されてしまうなんて…10秒台が羨望と憧憬の領域だった私には9秒台なんて理解を超える世界です。

さて、サニブラウンの快挙から何が読み取れるのか?


① サニブラは日本選手権で勝てるか?➡︎YES

最大のライバルは前日本記録9秒98の時計を持つ桐生祥秀です。 持ちタイムの差はわずか0秒01しかありません。

しかし風と安定感、勝負度胸を考慮すると桐生はサニブラの敵ではありません。

まず、風です。

風は競技場のトラックの位置や、どの角度で吹き付けるか、風が舞っていないかなどその影響は同じ風速でも大きく異なります。さらに、風だけでなくスタート時の気温や湿度も記録に影響する要素です。

それだけに単純な計算は禁物ですが「風1mで0.1秒違う」 というのが通説です。

今日のサニブラ(追い風0.8m)と、9秒98をマークした桐生(同1.8m) 。2人をいわゆる〝無風換算〟すると、サニブラは10秒05、桐生は10秒16となります。2人が走れば0秒1の明白な差がつくことになります。

その意味では日本歴代3位の山縣亮太(10秒02=追い風0.2m=無風換算10秒04)、9位のケンブリッジ飛鳥(10秒08=向かい風0.9m=無風換算9秒99)の二人の方が桐生よりも強敵になるかもしれません。

さらに、安定感です。桐生がキャリア唯一の9秒台を出してから22ヶ月が経過していますが、まだ2度目の9秒台には手が届いていません。

1ヶ月足らずで2度9秒台で走ったサニブラは、条件さえ整えば日本選手権でも9秒台を出すでしょう。

また、勝負弱い桐生をはじめ繊細な100m走者はスタートで先行されると硬くなるのが普通です。「スタートで出遅れるのが当たり前」のサニブラは心理的にも非常に強い状態で日本選手権のスタートラインに立つはずです。

実力的にも心理的にも、どう考えてもサニブラが優勝候補の筆頭です。



②サニブラはボルトを上回る逸材か➡︎現段階では明らかにNO 
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サニブラは高校二年生で 世界ユースの100m/200m二冠を制しました。

ウサイン・ボルトも16歳で世界ユース200mで優勝していることから、日本のメディアではサニブラとオーバーラップさせています。

さらに、キャリア初の9秒台を出したのがボルトは21歳8ヶ月、サニブラはそれより1歳6ヶ月も若い20歳2ヶ月。

ただし、これをもって「ボルトよりもサニブラの方が才能がある」というのはあまりにもお粗末です。

サニブラが先月初めて手に入れた9秒台は、首の皮一枚ギリッギリの9秒99。ボルトが初めて9秒台を出したのは2008年、そのタイムは9秒76、なんと世界歴代2位の大記録でした。

そして、その年の北京五輪で100m決勝でラストを流すという戦慄のパフォーマンスで9秒69の世界記録で金メダルを獲得するのです。

「1歳6ヶ月」がどうのという差ではありません。まるっきりステージの違うアスリートです。

しかし、これはあくまで「現段階」の話です。

昨日のサニブラを未来のスポーツファンが「最初は10秒切るのも精一杯だったんだ、意外と遅かったんだな」と振り返る日が来ないとは誰も言えません。

なにしろ、サニブラはまだ20歳3ヶ月なのです。

 
③サニブラは東京2020で男子100m 優勝できるか?➡︎現段階ではNO

来年に迫った東京2020 。サニブラ、桐生に山縣らも9秒台を出すと、全員が9秒台の男子ヨンケイ(400メートルリレー)チームは金メダル候補です。

しかし、個人種目の100mとなるとその山はまだまだ峻厳です。

サニブラの9秒97は決勝進出を逃しても不思議なタイムではありません。決勝進出を確実にするのは、もう一段上のステージに上がらなければなりません。

サニブラが日本記録を樹立した今年の全米大学選手権男子100mは、確かにハイレベルでした。

しかし、サニブラは3位なのです。タイムは素晴らしいとはいえ、インカレで3位。五輪で金なんて口が裂けても言えません。

優勝はテキサス工科大のディバイン・オドゥドゥル(9秒86)、2位はオレゴン大のクレイボン・ギレスピ(9秒93)。ちなみに200m決勝の結果も100mと同じメンツ、順位でした。

インカレで優勝できないで五輪で金なんて寝言に過ぎません。

しかし、サニブラは先月「9秒台クラブ」に入会したばかりの新参者です。

小さな大会で日本人初の9秒台を出して小躍りしていた桐生には厳しい比較になりますが、100mと200mで自己ベストを出してもサニブラは全く無表情でした。負けて悔しかったんでしょう。

100mスタートの反応時間はオドゥドゥル0秒151、ギレスピ0秒154に対してサニブラは0秒198。

0秒100より速い反応は人間の知覚能力を超越しているとのことでフライングになりますが、それにしても0秒2近くかかってるのは遅い、遅すぎます。

こんなこと言い出すとキリがありませんが、仮にオドゥドゥルと同じ反応なら0秒047、約0秒05速く走ることが出来ました。 

スタートに改善の余地が大きく残されているのは確かですが、そこを精密に追求しないことで中盤の加速につながっているのもまた事実です。 

矛盾する表現になりますが、プリミティブなスポーツは本当に奥が深い、です。 

とりあえずは日本選手権、めっちゃ楽しみです。桐生や山縣らも燃えてるでしょう。

何人も9秒台を出して、今月2度目の日本記録更新も拝めるもの凄いレースを期待しています!!! 
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過去最高に盛り上がったアジア大会が終わりました。

オープニングから池江璃花子の8種目出場、全種目でメダル、そしてなんと6種目で金!という離れ業に驚嘆、感激。

開会式の旗手をつとめた上野由岐子の女子ソフトボールも、8戦全勝で5連覇。お家芸の柔道よりも日本の強さを見せ続けてくれました。

開催国インドネシアの国技バドミントンでは、団体5連覇中の中国を下して48年ぶりの金メダル、スポーツクライミングなど新種目でも日本代表は最も輝くメダルをもぎ取ってくれました。

そして、ボクシングでは成松大介が、これ以下はない下劣な雑音に惑わされることなく、見事に銅メダルを獲得してくれました。楽しませていただきました!ありがとう!是非、プロ転向して日本人初の世界ウェルター級チャンピオンになって下さい。あ、その前に東京2020で金メダルでした!
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ここまで盛り上がった最大の要因は、NHKとTBSが多くの競技を中継してくれたことに加えて、日本選手団の素晴らしい奮闘努力のお陰です。

「アジアで夏開催」ということで、日本は〝東京2020の仮想大会〟と捉えて、特に屋外競技において様々な実験が試行されました。

2年後に自国で開催される世界最高の舞台へ向けて本番さながらの腕試し、その思いが熱いパフォーマンスにつながったのは間違いありません。

そして、間違いなく、そこにあったのはアジアを相手に見せた意地と矜恃でした。

ここで負けるようなら世界では勝てない。

彼らに出来るなら私たちにも出来る。

その代表が、陸上男子100m決勝です。山縣亮太と蘇炳添の激突は見応えがありました。

結果は3位でしたが、山縣と蘇が戦前からライバル視する発言を繰り返しているのを頼もしく聞いていました。

優勝した蘇の記録は9秒92。このタイムは昨年のロンドン世界陸上で優勝したジャスティン・ガトリンと同タイムです。山縣の10秒00は5位に相当します。

その世界陸上でアジア人として唯一人決勝に進出した蘇は、10秒27で最下位(8位)に沈んでいますから、軽率な言い方はできませんが、いずれにしてもアジア、黄色人種のスプリントを世界が無視できる時代はとっくに終わっています。

率直に言うと、蘇が「山縣はライバル」と言ってくれるのはリップサービスに聞こえます。100mにおいて0秒08の差は、ライバル関係と呼ぶには微妙な差です。

しかし、同じアジア人だから単純な力量差を超えて負けじ魂に火がつくのでしょう。

蘇のタイムが9秒92とわかっても山縣は打ちのめされるどころか、勇気ももらったかもしれません。

山縣には失礼かもしれませんが、あれが蘇ではなくジャマイカや米国のしなやかで逞しい黒人選手に9秒92で敗れていたなら、負けじ魂や勇気があそこまでまで湧いてきたでしょうか。

日本のアスリートにとってアジア大会は、東京2020に向けたドライな予行演習なんかではなく、火薬の匂いを撒き散らす、願ってもない起爆装置でした。

東京2020では、日本がアジアを鼓舞しましょう。

今度は日本のアスリートが〝蘇炳添〟の役割を演じる番です。

今まで、アジア人には無理と諦められていた陸上100mなど遥か遠くに見えていた金メダルを撃ち抜いてやりましょう!
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人類史上、初めて100m10秒の壁を破ったのは、ジム・ハインズ。1968年の全米選手権で手動計時9秒9、同年のメキシコ五輪では電動計時でも9秒95をマークしました。

手動計時は電動よりも0秒25前後速くなることから、ハインズの全米選手権の電動タイムは10秒15前後、余裕で10秒かかっていたと推測されます。また、電動で9秒95台を出したメキシコも気圧が低い〝高地記録〟で、やはり平地換算すると10秒15前後だったと見られています。

この記録が破られるのはハインズから15年後、1983年のカルビン・スミスの足によってでした。当時の陸上界はカール・ルイスが席巻、スミスは月見草の存在でしたが、その脇役が9秒93を叩き出し、世界記録を更新したのです。

ルイスが、やはり1983年の第1回世界陸上100mで金メダルに輝いた優勝タイムは10秒07、2位のスミスは10秒21でした。当時の日本記録は飯島秀雄の10秒34、ルイスやスミスは雲の上の存在、怪物ランドの住人にしか見えませんでした。

「100年経ってもルイスに勝てる日本人なんて出てくるわけがない」。世界陸上を目の当たりにした日本人の誰もが、そう思い知らされていました。

しかし、今年の日本選手権は、サニブラウン・ハキームが10秒05、2位の多田修平が10秒16、3位のケンブリッジ飛鳥が10秒18、3人ともスミスの記録を上回り、サニブラウンはルイスをも超えていたのです。

「絶対無理」に見えた大きな壁は、30年で崩すことが出来たのです。おそらく、もっともっと早く崩すことが出来たはずですが…。

現在、遥か彼方の記録にしか見えないウサイン・ボルトの9秒58を破る日本人も、将来必ず現れるでしょう。問題は、それがいつになるのか、だけです。また、30年かかるのか、それとも…。

タイム競技には、必ず心理的な限界が壁となって立ち塞がります。陸上競技よりも水泳のレースでより多くの(世界)記録が生まれるのは、特殊な水着の効果など、ギアの恩恵を受けやすいのが最大の原因ではありません。

水泳競技では周囲との差が見えにくく、陸上競技よりも自分の生理的限界に、試合でも練習でも正面から向かい合うことが出来るからです。

一方の陸上競技は、心理的限界が常に付きまといます。

日本人スプリンターも、1998年に伊東浩司が10秒00を出してから19年、その心理的限界の呪縛にがんじがらめに絡め取られていました。


【米国スポーツイラストレイテッド誌のスポーツマン・オブ・ザ・イヤー第1号は野球でもバスケットの選手でもありませんでした。「医学的に不可能」と信じられてきたマイル4分の壁を突き破ったロジャー・バニスターです。】

陸上競技のみならず、タイム競技の歴史上、最も関心を集めた人類の壁は「1マイル4分」でした。1950年頃まで、「1マイル4分は医学的に切れない」と、まことしやかに信じられていたのですから、1954年にロジャー・バニスターがオックスフォード大学のトラックで走った3分59秒4は、欧米スポーツ史上最大の衝撃でした。

そして、さらに衝撃だったことはその後わずか1年で23人もの中距離ランナーが、〝医学的に不可能〟なはずのマイル4分の壁を続々と越えて走ったという事実です。

「日本人がボルトに勝てるわけがない」というのは、「マイル4分斬りは医学的に不可能」という迷信的な蒙昧と変わりません。

「日本人が世界陸上や五輪のリレーでメダルが獲れたのは、個々の能力で劣っていても、バトンパスなど緻密な連携、組織力が優れているから」という考え方も、間違っています。「個々の能力を組織力でカバーする」というのは、心理的限界という悪魔を呼び込む、誘い水でしかありません。



現実に、8月の世界陸上時点での現役100mランナー上位10人のアベレージで、日本は世界5位なのです。ノビシロの大きい、その若さも考慮すると上位入賞は当たり前、メダルも普通に期待できるだけの個々の能力があるのです。

3年後の東京で目指すべきは、「個人100mで決勝進出」でも「リレーでメダル」でもありません。

そんなボヤッとした、中途半端なものは要りません。

もっと、上です、一番上です。

カール・ルイスの世界に追いつくのに30年かかりました。そこから、ボルトに追いつき追い越すのは、30年の10分の1、ずっと、ずっと短い時間でやってやりましょう。

バニスターがやったように、桐生祥秀がこじ開けた扉にも、大挙して後続のスプリンターが駆け込むはずです。

そうでなければ、なりません。

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