フシ穴の眼 〜スポーツ疾風怒濤編〜

      Hope Lights Our Way / 希望の道を、つなごう。

カテゴリ: ボクシング界はいつだって魑魅魍魎

このブログでも繰り返しているように、日本では米国ボクシングに対して多くのトンデモ誤解が生まれています。

「軽量級にもメガファイトがある」「PPVファイターは人気スター」「ラスベガスで試合をするのは試合の掛け金の一部が選手報酬に充てられるから」なんてのはその代表例です。

そして「米国ボクシングはPPVが基本」というのも、そんな誤解の一つです。
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HBOのPPVといえばパッキャオでしたが、いまや「ShowTIMEの顔」であり「ESPNの看板」です。

PPVに乗る試合は、全体の1%にも遠く届かない超レアで超ハレのイベントなのです。

ShowTIMEやESPN、今は亡きHBOはボクシング番組と予算を編成しています。長らく米国ボクシングの象徴であったHBOの予算は市場の衰退とともに激減傾向を辿り、2018年に完全撤退してしまいました。

この番組予算と興行収入(ゲート収入や招致フィー)の中から選手報酬が捻出されるわけです。

「人気選手」が激突するビッグファイトになると、番組予算300万ドル+興行収入200万ドル+スポンサー収入100万ドル=ざっと600万ドル近くの売り上げが最大規模で期待できます。

ここからイベントに登場する少なくとも5試合10人の報酬が分配されるわけです。プロモーターの取り分を差し引くと、どんな「人気選手」でも500万ドルを手にするのは非常に難しいことがわかるでしょう。

カネロ・アルバレスやマニー・パッキャオのような「超人気選手」にふさわしい1000万ドル以上の報酬は、このシステムでは賄いきれません。

そこで登場するのがPPVです。このシステムでは番組予算はほとんどかかりません。一件70〜100ドルの視聴料を課金し「超人気選手」の高額報酬を「保証」するのです。

よく聞く「パッキャオがキース・サーマン戦で最低保障されるのは1100万ドル」という「保証」です。

「超人気選手」の高額報酬を支払ってビジネスとして成立させるには、その高額報酬の2倍を売り上げると成功とされています。

1100万ドルなら2200万ドル、@75ドルのPPVなら29万3000件を売らなければならない計算です。おそらく30万件が累進的歩合が発生するラインだったと思われます。

パッキャオvsサーマンは50万件をセールス。このラインを余裕で突破しましたから、40歳の伝説は最終的に2000万ドル以上を手にしたと見られています。

さて、このPPVの関門がいかに高いかは簡単に想像できるでしょう。

最近では「人気選手」から「超人気選手」に変換する可能性のあるタレントとして、テレンス・クロフォードやゲンナディ・ゴロフキン、アンドレ・ウォードらがこの牙城に挑んで見事に玉砕、散りました。

パッキャオやカネロといった「超人気選手」とからむ試合のみでクロフォードやGGGはPPVの舞台に立つ可能性はありますが、単体で全く結果を残せなかった彼らにはもうチャンスはないでしょう。

恐ろしいほどシビアな世界です。

大会場をフルハウスにすらできない、ライト級以下のワシル・ロマチェンコらはPPVへの挑戦すら許されないのが現実です。



ところが、このPPVへの取り組みに大きな変化が起きようとしています。

パンデミックにより興行収入が絶たれて片翼飛行となった現状で「今まで超大型機(超人気選手)にしか搭載しなかったPPVを、ある程度の飛行機(人気選手)でも標準装備することで従来の報酬が支払うことが出来る」(ShowTIME)というのです。

これは、一つの賭けです。

今は非常事態、確かに、そういう賭けに出ないと、サイコロを振らなければいけない状況です。
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ShowTIMEは今週末にジャモール&ジャーメルのチャーロ兄弟をPPVに乗せます。

さらに来月24日にはやはりShowTIMEがガーボンタ・デービスvsレオ・サンタクルスをPPVでオンエアするのです。

人気階級のジュニアミドルとミドル級で最強候補の一角であるチャーロ兄弟はともかく、デービスとサンタクルスは「人気選手」のステージにあるとはいえ、米国では関心の低い軽量級が主戦場です。

層が薄く、名前のある選手が乏しい軽量級でPPVを打つために「階級差のある二人が二つのタイトルを同時に懸けて戦う」シュールなマッチアップになったのでしょう。

その意味では、圧倒的にShowTIMEを支持します。欺瞞100%の「レナードvsラロンデ」とは違います。

ライト級以下の軽量級がPPVに乗るのは、パッキャオがらみを例外にすると、2001年のマルコ・アントニオ・バレラvsナジーム・ハメド(フェザー級)以来史上2度目の快挙。

クロフォードやGGGという実力者ですら門前払いされたPPVの敷居を、彼らより地味に映るチャーロ兄弟に越えることが出来るのでしょうか?ましてや、関心の低い軽量級のデービスとサンタクルスなんて売れるのか?

注目です!

まず週末のチャーロ兄弟ですが、戦いぶりは十分面白くPPVスターになる可能性はゼロではありません。

しかも、人気階級。つまり、ファンが望むカードがいくつも考えられるわけです。ここが、井上尚弥のバンタム級をはじめライト以下の軽量級では絶望的なまでに欠落してしまってるのです。

ただ、人気クラスでファンが望むカードとはすなわち、非常に危険な相手と戦うということを意味します。

この土曜日、WBCミドル級王者ジャモールが対するのはセルゲイ・デレビャンチェンコ。13勝10KO2敗の星勘定だけを見ると、村田諒太に挑戦したスティーブン・バトラー(28勝24KO1敗)の方がはるかに強そうです。

もちろん、34歳のウクライナ人がミドル級の誰に取っても恐るべき強敵であることは、ボクシングファンなら知らない人はいません。

4団体17階級は「無冠の帝王が絶滅した時代」ですが、デレビャンチェンコにはその香りが漂っています。

さて、オッズも不気味なウクライナ人の番狂わせを嗅ぎつけて接近傾向です。

ジャモールが4/6(1.67倍)、デレビャンチェンコ6/4(2.5倍)。一時、5倍近くをつけたウクライナ人が猛追しています。リアリティのある数字です。

ウクライナ人がヒューストン生まれの30歳を倒しても、番狂わせと呼べるかどうか?微妙な数字で当日を迎えるかもしれません。

もう一つのメインイベント、ジャーメル・チャーロとジェイソン・ロサリオのWBC/WBA/IBFのジュニアミドル級3団体統一戦も楽しみです。

こちらはジャーメル1/4(1.25倍)、ロサリオ15/4(4.75倍)で、前週から差が開いています。個人的には、このカードも番狂わせがあってもおかしくないと見ますが、現地ではジャーメル有利を後押しする新情報が出ているのかもしれません。



さて、このイベントのオッズ、試合まで5日を切ってようやくルイス・ネリ(1/20=1.05倍)vsアーロン・アラメダ(8/1=9倍)、ジョンリール・カシメロ(1/4=1.25倍)vsデューク・ミカー(9/2=5.5倍)の不人気クラスの掛け率もオープンしました。

軽量級のオッズは出るのも遅いし、数字も本当にざっくりで、ほとんど変動しないまま試合を迎えるという「誰も関心がない」ことが滲み出ています。


こういうところからも、、軽量級が舐められてる状況が痛々しく伝わってきます。井上のオッズもいずれ出るでしょうが、ざっくりでしょうねぇ…。ESPNが「井上の名前なんて誰も知らない」と報じてますから、オッズも出ないかも…というのは冗談で、そろそろ出してあげて欲しいです。

ただ、PPVイベントは「カネがかかる」という事情と「超人気選手の試合だからアンダーに関係なく売れる」というマニアの足元を見るプロモーターという背景から、アンダーカードが超しょぼくなる傾向があります。

そのイクスキューズとして、プロモーターは「世界戦」を組み入れるわけです。もちろん、コスパ最高の軽量級です。

パックメイの試合は典型で、いつもその不満不平で投稿欄が溢れています。そこを逆手にとって(そういうわけでもないのでしょうが結果的に)パッキャオは一気にスターダムに駆け上がりました。

この、PPVイベントの前座(歩合とかはもちろん入りません)に選ばれる軽量級は「よほど魅力がある選手」か「大手プロモーターの庇護や超人気選手、その陣営のお気に入り」です。

この境界線はあいまいですが、前者はパッキャオ、後者はルイス・ネリです。

ネリにはメキシコ人という看板がありますが、ジュニアフェザー以下の軽量級という重い十字架も背負って、けして人気があるとはいえません。

ところが、パッキャオやフレディ・ローチに取り入り、そこを離れるとカネロとレイノソ親子に可愛がられるという稀代の「人たらし」ぶりを見せて、メガファイトの前座をつとめ、軽量級では考えられない〝準・井上尚弥〟級の報酬を稼いでいるのです。

このブログでも紹介済みですが「ネリ・システム」、人気ゼロでも10万ドルファイター(それどころか今や30万ドルファイター)になれる、ネリの「人柄」も書きたいですね、近々。

バンタムとかジュニアフェザーでキャンキャン吠えてるネリには一生縁の無いPPVスターになるには「超人気者」の座を掴み取ることが、とにかく必要条件です。「人気選手」ではありません、「超人気選手」です。

ネリは「人気選手」(サンタクルスやアブベル・マレスら)にも手がかからない、可哀想な不人気選手です。
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「人気選手」時代のパッキャオ。

そして、PPVスターの十分条件は負けないことです。

「パッキャオは負けてるじゃないか」。確かにパッキャオはPPVスターになってから4敗もしていますが、いまだにボクシング界屈指の磁力を持っています。

「パッキャオの道」を辿れるなら、4敗しようが5敗しようが関係ありません。PPVスターはほんの一握りの選手にしか辿り着けない究極のステージですが、パッキャオはその中でも特別です。

ShowTIMEスポーツの最高責任者ステファン・エスピノサは、週末のイベントについて「ダブルヘッダーということも考慮すると30万件が合格ライン」と具体的な数字を出しています。

5つの世界戦とはいえ、そのうち3つは〝戦力〟にならない軽量級です。実質〝二人がかり〟では結構なハードルですが…30万件、突破して欲しいですね。

このPPVは、忌々しいパンデミックに向かって放った抵抗の矢です。突き刺さって欲しい!

エスピノサの「30万件」は難しくても、20万件でも矢は刺さらずとも届いたと、思います!

ボブ・アラムは「チャーロ兄弟で30万件?これは笑話だ」と嫌味を口にしてますが、どんな数字に終わっても「トップランクが取り作りまくっても5万しか売れなかったクロフォードよりは絶対にはるかにマシ」(エスピノサ)です。
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ひゅ〜どろどろどろ〜。

夏が終わったところなのに、季節外れの怖い話です。
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世界的なパンデミックによってボクシングのイベントも大打撃を受け、ほとんどの会場では無観客ながら少しずつ前に進み始めています。

それでも、売上げの大きな柱であるゲート収入が全く期待できない状況は、ボクシング興行でお馴染みのカジノが支払う招致フィーまで期待できません。

〝前進〟しているとはいえ、プロモーターにとっては両腕をもがれた格好で、選手や会場に報酬や施設使用料の大幅な減額をお願いし、痛みを分け合う慎ましい〝匍匐前進〟です。

多くの選手・スタッフが集まる何試合も盛り込んだ通常興行は感染リスクが高まるためにままならず、試合を放送するテレビ側も難しい対応を強いられています。

ボクシング放送の新しい盟主と期待されたDAZNも選手の契約見直しを断行、カネロ・アルバレスとはついに法廷闘争に持ち込まれてしまいました。

DAZNは一方で、欧州サッカーと巨額の長期契約を更新するなど、パンデミックによって本当に財源が枯渇しているわけではありません。

そこがカネロも納得できない部分です。「パンデミックで財政難というのはただの口実だ」と。

もちろん、DAZNの財務状況が特に北米で深刻な苦境に追い込まれているのは事実で、欧州サッカーへの積極的な投資は大きな見返りが期待できると踏んだ投資家や金融機関から出資を受けているからです。

逆にいうと、パンデミック前から大失敗と烙印を押されて思うような利益が挙げられないばかりか、赤字が膨らむボクシングビジネスに出資が集まるわけがなく、DAZNとしてもどうしようもないところです。

ゲート収入も招致フィーもゼロ、放映権料も下落している緊急事態・財源逼迫の状況での興行は八方塞がりです。

PPVのような瞬発力のある課金ビジネスでしかボクサーの高額報酬は期待できない現況ですが、PPVは平時でも一握りの超人気選手だけが許されたレアでハレのビジネススタイルです。

米国のボクシングビジネスはPPVが基本と勘違いしている人もいますが、それは大間違いなのです。

そしてラスベガスのMGMグランドの会議室を完全防疫して作られたThe Babbleの興行は「選手報酬と会場費を切り詰めても5000ドル以上の赤字が重なっている」(ボブ・アラム)と言いますから、状況は深刻です。

トップランクと提携するESPNも「人気選手ならPPVで仕掛けたい」としていますが、現在のトップランク契約選手でその器にあるのはタイソン・フューリーただ一人だけ。

ワシル・ロマチェンコvsテオフィモ・ロペスは、実力で上と見られるロマに大会場をフルハウスにする人気はないもののロペは十分な人気者。それも原因で、報酬の分け前をめぐって試合が破談になりかけました。

ロマvsロペはPPVにならなくても相当な視聴者数や海外への放映権料もそこそこ稼げるので、ESPNもある程度血を流すでしょう。

前置きが長くなりました。

怖い話は井上尚弥vsジェイソン・マロニーのIBF/WBA2団体バンタム級タイトルマッチです。

10月31日にThe Babbleで予定されていますから、無観客興行。もちろんPPVがつくはずもありません。

それどころか、いまだにオッズすらも出ていません…。米国で「イベント再開後の世界戦で最も関心が低いカード」と断言されているのも当然です。

相変わらず軽量級を無視する米国とは反対に、大橋秀行会長は「今回はお金がすごくいいんです。一発目でこの金額だと防衛回数を重ねたら天文学的数字になる」と全く空気の違う発言、威勢が良いのです。

「天文学的数字」が何を指すのかもよくわかりませんが「防衛回数を重ねたら」という前提の意味もよくわかりません。

いつのまにか米国リングはこれまで無関心だった防衛回数を重視するように激変したのかもしれません。

バンタム級で防衛回数を重ねて天文学的数字の報酬を稼げたら、オルランド・カニザレスは苦労しなかったと思いますが、150年に1人の天才が嘘をつくはずがありません。

この数日で米国ファンの嗜好が、今まで見向きもしなかったバンタム大好きに激変したに違いありません。きっとそうです。

それにしても、アラムはジョンリール・カシメロに報酬減額を掛け合ったときには「井上のように大幅の減額に応じないと試合は成立しない」と発言していました。

つまり、井上は大幅減額を飲んでいたということです。

そんな大減額を強いられても天文学的数字につながる「今回はすごくいいんです」というのですから、一体いくらなのか気になります。

それにしても、そんな準・天文学的数字の大金を一体全体誰が払うというのでしょうか?

アラムは「大幅減額」と語り、ESPNは「井上は無名」キャンペーンを張って、他の王者並みの放映権料は出せないと含ませています。

とすると、未だにオッズも立たない無視されたバンタム級の試合に、誰が「準・天文学的数字」を出すのか、まさに怪談話です。

これは、きっとどこかにオバケでも潜んでいますね。


ひゅ〜どろどろ、どろ。
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1980年代に世界のボクシングに衝撃を受け、高校の図書館でリング誌に出会い、FOUR KINGS が繰り広げたラウンド・ロビン=総当たり戦に耽溺した私にとって、米国のリングは途方もなく遠くに見えました。

人生初めてのボクシングヒーロー、具志堅用高が日本中を魅了していた軽量級のボクシングが「間違いなく面白い!」という気持ちが、揺らぎそうにもなるほどでした。

正直、軽量級のボクシングを面白いと思い込んでるのは間違いではないか?そんな風にも思ってしまいました。

そんなときに、軽量級のボクシングは「見た目のスピード」で中量級や重量級を上回り、過酷な減量が背景にある可能性もあるものの壮絶なKOシーンも期待出来る「ブラウン管を通して見るなら最も面白いクラス」というリング誌の記事を読んで、心強く感じたのを覚えています。
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「軽量級史上初の100万ドルファイト」と謳われたマイケル・カルバハルvsウンベルト・ゴンザレスにしても、時代の貨幣価値を考えるとファイティング原田はもちろん、具志堅用高と比べても「1回こっきりの100万ドル」でしかないカル&ゴンに対して「報酬がすごいな」とは微塵も思いませんでした。

「カルバハルなんかより、日本の具志堅や二郎の方が金持ちやん」と。 

それでも、FOUR KINGSの中でもシュガー・レイ・レナードや、マイク・タイソンの報酬は別格でしたし し、その試合の演出は日本のリングでは見たこともない華やかさでした。

カル&ゴンでは届かなかったニューヨークやラスベガスでの「恒常的な」軽量級100万ドルファイト。

21世紀にアブネル・マレスやレオ・サンタクルス、カール・フランプトンが実現していますが、これらも対戦相手限定で、到底「恒常的」とはいえません。

プロモーター同士の確執から〝漁父の利〟的に100万ドルファイターになったノニト・ドネアは論外ですが、母国の圧倒的なサポートを受けてニューヨークやラスベガスで100万ドルファイターになったナジーム・ハメドや、西岡利晃の「彼らのやり方」について考えたいと思います。

米国では全く無名のハメドにHBOが200万ドルという破格の宣伝費を投じてプロモーション番組を制作したり、ニューヨーク中で交通広告を展開したのは、ハメドのルーツであるイエメンを筆頭にサウジアラビアやUAEなどのアラブ諸国が総額5000万ドルの放映権を支払ったからです。

規模は違いますが、西岡利晃の「MGMのボールルーム」でファイトマネー100万ドルを稼いだのも「ハメド方式」でした。

そして、HBOのボクシング番組で亀海喜寛ら人気階級を主に扱う「ワールドチャンピオンシップボクシング」に対してワンランク落ちる「ボクシングアフターダーク」の中でも超低予算で組まれたザ・スーパー・フライ興行。

ここで、HBOは前座ながら井上に18万2500ドルもの報酬を与えました。これは亀海がコット戦で受け取った報酬とほとんど変わりません。

ワールドチャンピオンシップボクシングの予算から報酬が当てられた人気階級の亀海は「ガチ」でしたが、不人気階級の井上はボクシングアフターダークの予算に加えて、日本からの放映権料も還元されていました。

さらに、井上は最終的に日本で防衛戦をこなした場合と同じ4000万円レベルまで〝報酬補填〟されました。

井上のケースもまた「ハメド方式」です。

HBOがボクシング撤退する断末魔で、世界タイトルを持っていない井岡一翔という「但し書き」はあるものの、同じボクシングアフターダークのザ・スーパーフライに出場したときの報酬は2万5000ドルに過ぎませんでした。

日本の〝井岡相場〟の10分の1です。

軽量級の日本人が丸腰で米国で戦うと、それほど悲惨なのです。もちろん、資本力のある企業がスポンサーにつく井岡も最終的には数千万円を手にしていますから、やはり「ハメド方式」です。

アラブのオイルマネーや、潤沢なジャパンマネーが全く期待できないマニー・パッキャオのケースは、まさに「逆ハメド方式」。実力だけで図々しく道場破りを繰り返したと言えます。

確かに、誰がどう見ても「ハメド方式」は〝裏口入学〟的でこっぱずかしい印象があります。

誰が見ても格好いいのは番狂わせを重ねてノシ上がっていく「逆ハメド方式」すなわち「パッキャオ方式」です。

もちろん、オイルやジャパンの後ろ盾があるハメドや井上が、圧倒的不利のオッズと少ない報酬のもとで上の階級の強豪王者に危険すぎる戦いに挑む必要性などありません。

そんなことしたら、ただの馬鹿です。

なんの後ろ盾もないド貧民パッキャオがノシ上がるには、あれしかなかったのです。

パッキャオがアラブの金持ち国にルーツがあったり、日本人だったのなら、手厚い庇護を受けながら危険な賭けなど絶対にしなかったでしょう。

実際、頂点を極めたパッキャオは安全な相手としか戦わないばかりか、ハメドや井上でもやらなかった卑劣なキャッチウェイトまで相手に飲み込ませています。

イエメンやアラブ諸国に戦うリングがなかったハメドが英国から米国へ、オイルマネーの風に乗って戦うことは自然ではありました。

一方で、日本のリングの方が明らかに稼げる、トップランクも契約に日本開催の試合を盛り込むという井上のケースはどうでしょうか?

本気で米国でスターにしようと考えているなら、井上の年齢とキャリアを考えたら日本での凱旋試合など時間の浪費、大切な初年度の契約に入れ込む道理がありません。

もちろん、「ハメド方式」の恩恵はイチローや松井秀樹も浴しました。メジャーでなんの実績もない彼らは、開幕から数十試合を先発出場できる契約でした。

その見返りは莫大な放映権料とセーフコフィールドやヤンキースタジアムに出現した日本企業の大看板の数々です。

このハメド方式を嫌って「実力でメジャーに上がって活躍してやる」と威勢が良かったのが中村紀洋でしたが、彼は「マイナーでどんなに打っても評価してくれなかった」と言い訳と泣き言をもらして出戻ってきました。実際には守備はボロボロ、打撃も穴だらけで全く使い物にならなかったのですが。

もちろん、イチローや松井の舞台はメジャー、ボクシングでいえばウェルターやヘビーで、不人気バンタム級で戦う井上とは事情が違いすぎます。

ジェイソン・マロニーやノルディーヌ・ウバーリ、ジョンリール・カシメロ相手にビッグファイト…どう考えてもありえません。

ただ、当初の計画「裕福な母国から手厚い仕送りを受けてラスベガスで2試合戦い、 その赤字を年末の日本開催でペイしてお釣りがくる」というのは、トップランクとしては悪い商売ではありません。

ただ、タイミングが悪いことにこのパンデミックです。

10月31日の試合をこなしたあと、井上は誰と戦うのでしょうか?というよりも「どこ」で戦うのでしょうか? 
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「軽量級にもラスベガスはある」。

それは「ソフトボールにもメジャーリーグがある」と考えるのと根本的には何ら変わらない、幻覚症状です。

90年代、辰吉丈一郎がラスベガスでメインを張り、リングサイドにはフリオ・セサール・チャベスらビッグネームが座りましたが「辰吉がベガスでメイン!世界的なスターになった!」「チャベスがバンタム級最強の一人と認めてる!」なんて浮ついた報道はありませんでした。

この時の辰吉はJBCの「網膜剥離の診断を受けた選手の国内試合は許可しない」という規定から、仕方なくラスベガスで戦った、消去法でした。

「日本のファンに見せたかったけどゴメンやで」。辰吉の言葉が真実の全てを物語っています。
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1995年11月25日、帝拳プロモートで開催されたラスベガスの〝 Japan Fes〟。その舞台はミラージュ・ホテル&カジノ、辰吉はメインで坂本博之がセミファイナル。日本からの応援団や旅行客を中心に2500人を超える有料入場者を集めました。

辰吉から10年、長谷川穂積や西岡利晃の時代には、何が歪んで、何が変節してしまったのでしょうか?

様々な要素が考えられますが、野球とサッカー、日本の二大メジャースポーツで「欧米のトップリーグで戦う選手が最も格好いい」ということが完全に浸透したことが単細胞の信者のスイッチを押してしまったのでしょう。

同じ「ラスベガス信仰」は、キックボクシングにも見られます。魔裟斗が「ラスベガスに進出したい」と言ったのと、同根のセリフを今は那須川天心が幻覚しています。

米国でもキックは存在しますし、ラスベガスでも興行はあります。しかし、それは日本で地上波生中継されることもあるRIZINのようなビッグイベントではありません。

バンタム級に「ラスベガス」がないのと同じように、キックにも「ラスベガス」などないのです。バンタムもキックも、「ラスベガス」は彼らにとっては残念ですが日本にしかないのです。

暗愚な信者たちは「バンタム級にも〝世界のトップリーグ〟がある、それがラスベガスだ!」と倒錯し、それを煽るメディアも出現しています。

では、欧米で全く関心の払われないバンタム級や軽量級がニューヨークやラスベガスの大会場でメガファイトのメインを張ることは、絶対不可能なのでしょうか?
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靴を知らない国の住民に靴を売るのは「偉大な挑戦」です。

しかし、ウェルター級やヘビー級という立派で歴史ある革靴をすでに履いている国で、革靴と同じ値段で草履や雪駄が売れると思い込んでる人がいるとしたら、彼らは正真正銘の馬鹿です。

マニー・パッキャオが米国進出したときに足にしていたのは草履でしたが、彼はあろうことか最高級の革靴を履きこなしてみせました。

とどのつまり、あのパッキャオですら、草履は売れなかったのです。

日本から渡米した金持ちに買ってもらうという、小さな会場を「MGMでメイン」「パッキャオやタイソンも戦った」と詭弁を弄し、だったら日本で売れよ…と突っ込みたくなる愚行をやっちゃったのが西岡利晃でした。

長谷川穂積はついに憧れのラスベガスのリングに上がることはできませんでしたが、フェルナンド・モンティエル戦ではジミー・レノンJr.に「世界中が注目する大試合。だから私は無償でリングアナを引き受けました」と最低の嘘までつかせました。

西岡の「MGMメイン」は今ではWOWOWでもタブーです。西岡がゲストでいるスタジオで京口紘人の「(井上のラスベガスメインは)日本人では初めてのことで凄い」というコメントは、完全にスルーされました。

「西岡さんの前でそれはダメですよ!」と言えないんです、もはやカラクリがバレちゃってるから。

長谷川の「自腹アナ」も多くの人が忘れつつあるでしょう。

そして、井上尚弥が同じ轍を今、踏もうとしているのです。



では、ラスベガスで草履を高級革靴並みの高額で売るのは絶対不可能なのでしょうか? 
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先週、カネロ・アルバレスはDAZNとゴールデンボーイ・プロモーションズを「契約不履行」で提訴、最低2億8000万ドルの損害賠償を求めました。
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カネロとDAZNの契約で、私たちのレベルでもわかっているのは「11試合3億6500万ドル」が最低ラインで、基本的には「1試合4000万ドルをDAZNが支払い、カネロが3500万ドル、GBPが500万ドルを手にする」というものでした。

米国ボクシング市場を牽引してきたHBOが「ボクシングは死にゆく産業」と、このスポーツから完全撤退した2018年、DAZNはかねてから〝カネのなる木〟と確信していたカネロと超大型契約を結びます。

DAZNは「メイウェザーvsパッキャオ」が、米国人とフィリピン人という現代では絶対的なカードではないにもかかわらずシンコデマヨ週間で、とんでもないメガファイトを成立させたこと、カネロがメキシカンですでにPPVスターとして100万件セールスを何度か記録していることから、超優良物件と考えたのでしょう。

4000万ドルを最低保証できるファイトは、プロモーターとブロードキャスターがざっくり半々で収益を分け合うPPVビジネスなら、単価80ドル*100万件=8000万ドルを売り上げる必要があります。

ここに、カジノで開催の場合は招致フィー、舞台がカジノでなければゲート収入が上乗せされ、それがアンダーカードの選手報酬と諸経費に当てられ、残りがプロモーターの取り分です。

PPVのメリットは「日銭商売」であることで、単純明快です。

しかし、DAZNのスタイルはPPVではなく、WOWOWのような受信料ビジネスが基本ですから、より複雑な収益計算・経営判断が求められます。

HBOと契約していたカネロの売り上げが100万セールスを超えたのは、ゲンナディ・ゴロフキン(第1戦:単価80ドル*130万件/第2戦:単価85ドル*110万件)とフリオ・セサール・チャベスJr.(単価70ドル*100万件)の3試合だけ。

▶︎フロイド・メイウェザー戦(75ドル*220万件)は、SHOWTimeと大型契約を結んでいたメイウェザーが完全主導権を握ったイベントなので、ここではカウントしません。

ミゲール・コット戦(70ドル*90万件)は「合格ライン」でしたが、エリスランディ・ララ戦(60ドル*30万件)、アミール・カーン戦(70ドル*60万件)、リーアム・スミス戦(65ドル*30万件)と、DAZNのビジネス・フレームはPPVの枠で考えると完全に崩壊しています。

もちろん、DAZNはPPVビジネスのスタイルではありませんが、単純計算でカネロ効果による新規加入者(月額9.99ドル)を80万件増やさなければならない計算です。

カネロが試合するたびに、DAZNは雪だるま式の赤字を抱え込んでいたのは間違いありません。


▶︎昨年3月に19.99ドルに大幅値上げ。

DAZNにとって、パンデミックは絶好の言い訳でしたが、コロナ抜きで考えても「カネロに対する11戦3億6500万ドル」「1試合の持ち出し4000万ドル」は土台回収できない無謀な契約だったことは火を見るよりも明らかです。
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昨日、SHOWTimeスポーツが発表した「チャーロ・ダブルヘッダー」興行のPPV販売価格は74.95ドル。今年初、チャーロ兄弟にとってもキャリア初のPPVイベントです。

パンデミック下でのファイトは、ほとんど報酬が明らかにされていませんが、ビジネスとして成立させるには15〜20万件が採算ラインとされています。

約75ドル*20万件なら1500万ドル、ざっくり750万ドルを兄弟で分け合う形でしょうか。

会場はコネティカット州アンキャスビルのモヒカン・サン・カジノですが、来場者を受け入れないなら招致フィーは存在しないかもしれません。

そうなると750万ドルを7試合にエントリーしている14人で分け合う形になります。

当然ながら、チャーロ兄弟がほとんんど獲っちゃうでしょうから…となると、カシメロの報酬は今回も10万ドルに届かない公算が濃厚です…。

それも20万件セールスが前提です。このラインを超えると、チャーロ兄弟にPPV歩合が発生する仕組みでしょうが、果たしてどれだけ売れますやら?

一方、井上尚弥のビジネスモデルは米国でもフジテレビとWOWOWの放映権料が主軸です。

無観客でESPNの中継という現状では「1興行で5万ドルの赤字が発生している」(ボブ・アラム)のが現状ですが、これを日本のテレビ局2社が補填して井上の報酬も一気に底上げする、これまでの海外2試合と全く同じ構図でしょう。

DAZNのボクシング参入失敗は「見通しが甘かった」のですが、井上の「ジャパンマネー頼み」のスタイルは、ビジネスとしてやる前から破綻しているのです。

契約には「日本開催の試合」がちゃっかり盛り込まれていますから「ラスベガス赤字」を日本で一気に回収する腹積もりでしょうが…。

「日本開催」が契約に入っている時点で、どんなバカ信者でも真実に気付くと思うのですが…。

もしかしたら、井上は西岡利晃と同等か、それ以下の恥ずかしい米国進出をやらかしたことで、後世に記憶されるかもしれません。

西岡は「小さな宴会場」「スペイン語放送」のリングで100万ドル、井上は「無観客」「ESPN+」で100万ドル?…。

もういい加減にやめましょう。 
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【中日スポーツ】プロボクシングWBA&IBF統一世界バンタム級王者の井上尚弥(27)が所属する大橋ジムの大橋秀行会長(55)が11日、取材に応じ10月31日(日本時間11月1日)に米国・ラスベガスで行われるWBA同級3位、IBF4位ジェーソン・モロニー(29)=オーストラリア=戦がこれまでにない高額ファイトマネーになることを明かした。渡米時に金額を公表するという。

「今回はお金がすごくいいんです。一発目でこの金額だから防衛回数で天文学的な額にいく」と大橋会長は提示額に驚きを隠さなかった。東洋の英雄で5階級制覇のマニー・パッキャオ(フィリピン)は昨年、1試合で1000万ドル(約11億円)を稼いだと言われる。井上はそのパッキャオに並ぶ怪物になり得ると言い切った。
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「プロモーターの仕事は過大広告を発信すること」。

ボブ・アラムの言葉です。

ただし、アラムは「ファイトマネーについては絶対に誇張してはいけない」とことあるごとに釘を刺してきました。

WBSSが「優勝賞金1000万ドル、賞金総額5000万ドル」を打ち上げたとき、アラムは「契約書を見せて欲しいが、彼らは絶対に見せないだろう」と笑いました。

ボクシングが、スポーツとして非常に難しいステージになっていることを匂わせながら「最後の事実はファイトマネー。そこで嘘をつくとボクシングには何の信用も無くなってしまう」と、ボクシングにとって〝カネが最後の砦〟と、嘘を重ねてきたプロモーター人生でもそこだけは譲らなかったと語っています。

もちろん、日米のプロモター事情は全く違います。
 
それでも、中日スポーツが報じた大橋会長の発言には眉をしかめざるをえません。

もちろん、このブログでも繰り返しているように、トップランク+ESPN 連合が納得する放映権料を日本側が支払うことで合意したことで、この試合が決定したのは間違いありません。

ESPN が「多くの米国ボクシングファンにとって井上は全く無名」と繰り返していたのは、パンデミックの中で不人気選手の試合をメインでオンエアするには「日本のテレビ局が相応の放映権料を出さないと無理」というサインでした。

欧米での井上の報道量の少なさに加えて、ギリギリまでオッズが発表されないのもいつものことです。

彼らはアジアのバンタム級は嫌い、ならまだいいのですが、そもそも興味がない、眼中にないのです。

「お金」を巡る話では、ちょうど「カネロvsDAZN」が展開中です。

カネロと井上では「象と蚊」かもしれませんが、無観客のモロニー戦では「一発目でこの金額だから防衛回数で天文学的な額にいく」などというわけがないことは、ど素人でもわかります。

もちろん、これまでのMGMメインの「西岡方式」や、スーパーフライの「井上方式」を拡大導入するなら別問題です。

では、現状のメガファイトの集金システムを「カネロ」と「DAZN」のボタンの掛け違いから見てゆきましょう…。
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昨年11月7日のWBSSバンタム級トーナメント決勝を勝ち抜いた井上尚弥。そのリング上で、少し気になったのがWBCから贈られるはずの「WBSSチャンピオンベルト」が見当たらなかったことでした。

おそらく法外な「承認料」が要求されたはずの WBSSチャンピオンベルトの購入を井上陣営が拒否したのなら痛快な話です。

リング誌などで年間最高試合賞に輝いたとはいえ、その試合内容はリング誌ではまともな記事にもされませんでした。昨年、2度も単独カバーしておきながら、この扱いには首を傾げざるをえません。

欧米を驚かせたのはバンタム級の試合を見るために、ラスベガスのどのハコよりも巨大なさいたまスーパーアリーナに2万2000人もの観客が詰めかけ、1億3000万人の人口を抱える富裕国で20%近い視聴率を弾き出した事実でした。

バンタム級シーンを見渡すと貧弱な名前しか見つけることはできません。

軽量級に造詣が深い日本のマニアにとって、ジョンリール・カシメロ戦は非常に興味深いマッチメイクでした。

しかし、キャリアハイの報酬が7万5000ドルでわかるように、カシメロの米国での存在感は限りなく軽いものです。

では、ジュニアフェザーなら? 
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どう考えても日本で岩佐亮佑らとの日本人対決の方がビッグファイトになりそうな、寂しい面々です。

では、井上が「(ラスベガスでメインを張るのに)最低でもフェザー」と口にした126ポンドの顔ぶれはどうでしょうか?

バンタムとジュニアフェザーにも明らかに溝がありますが、やはりフェザーになるとさらにカラフルになります。

ここに10月9日にシャクール・スティーブンソンが「ビッグファイト」を求めて転級、空位となったWBO王者決定戦に出場するエマヌエル・ナバレッテ(10月9日:ルーベン・ビラ戦)が割って入る見込みです。
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WBAセカンド王者シュー・ツァンとはスパーリングで〝対戦〟済みで、井上が戦うとなると五分か、やや不利と見られるかもしれません。

ゲイリー・ラッセルJr.とジョシュ・ウォリントン相手では、間違いなく不利予想のフラグが立つでしょう。


井上がドネア戦で上がった評価はPFPランキングだけでした。

カシメロ戦のオッズが示していたように、井上はバンタム級最強と目されてはいますが、ドネア戦前の絶対無敵とは考えられていません。

しかし、本気で「パッキャオが見た風景」に憧れるなら、アンダードッグでリングに上がり番狂わせを起こすのは最低必要条件です。

もちろん、フェザーで最も大きな名前のラッセルJr.ですら米国では「無名であることに苛立っている不遇の軽量級」の一人に過ぎないのですが…。 
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かつて、井上尚弥がローマン・ゴンザレスとの対決を熱望していた頃。

日本のモンスターは「別に海外にこだわらない。多くのお客さんが喜んでくれるなら日本でいい」と語っていました。

「無理やり米国で戦う必要はない」。その考えは、おそらく今も変わらないでしょう。

それでも、米国を目指した動機は、繰り返し口にしているように「パッキャオが見た風景を見てみたい」ということかもしれません。

「パッキャオが見た風景」。

唯物的にはMGMグランドガーデンアリーナやカウボーイズスタジアム(現AT&Tスタジアム)のようなプレミアム会場でメガファイトのメインを張ることです。

アジア人とバンタム級という重すぎる十字架を二つも背負っていては、到底上がれるリングではありません。

それでも、米国初参戦の「THE SUPERFLY」でジャパンマネー補填を受けて報酬が倍増したように、さらに巨大な日本からのバックアップが期待できるなら、米国人が購入するPPVイベントのメインは不可能にしても、それなりのビッグファイトの舞台は作れるかもしれません。

ナジーム・ハメドとイエメン王朝、アラブ諸国が5000万ドル以上といわれる高額な放映権料をHBOに支払ったことで大々的な前宣伝を展開してもらったような構図です。

ただ、それでもバンタム級では弱すぎます。ジョンリール・カシメロもジェイソン・マロニーもノルデーヌ・ウーバーリも米国でのネームバリューはビッグファイトのリングに上がる次元ではありません。

そして、それは当の井上も同じです。

INOUE is lauded in his native Japan but does not get as much attention as the other pound-for-pound stars. For me, only Lomachenko and Canelo Alvarez are better pound-for-pound, yet many fight fans have never heard of Inoue.〜ESPN~
 
日本では大きな評価を得ている井上だが、他のPFPファイターと比べても米国での関心は低い。PFPランキングだけならロマチェンコとカネロに次ぐような存在だが、多くのボクシングファンは井上の名前すらも聞いたことがない。それほどまでに無名なのだ。

井上がPFP上位に評価されていることを知っている日本のボクシングファンは多いでしょう。

しかし、ロマゴンが2年間もPFP1位の座に君臨していたことを知る人はどれだけいるでしょうか?

もちろん、これは報道量の差です。井上には〝PFP警察〟のようなメディアが、井上の小さな海外報道を針小棒大に取り上げていますが、ロマゴンのときは無視し続けました。

現状の井上についても「パッキャオのようになれるかもしれない」という飛躍しまくりの煽り記事はあっても「PFP1位になれば軽量級ではロマゴンに続いて史上二人目」という冷静な報道は少なくとも私は見たことがありません。
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コロナ下での興行はゲート収入が激減する片翼飛行。

井上vsマロニーは無観客、PPVイベントになるわけがありませんから、放映権収入だけが頼りです。

米国や英国のブックメーカーは11月に予定されている「エロール・スペンスJr.vsダニー・ガルシア」や「テレンス・クロフォードvsケル・ブルック」「アレキサンダー・ポベトキンvsディリアン・ホワイト2」などはもちろん12月のオッズも開帳していますが、10月31日の「井上vsマロニー」はどこにも見当たりません。

これはもちろん、早々に決まっていた「ウーバーリvsドネア」も同様です。重い十字架を二つ背負ったマッチアップは、米国では人気がないというよりも、全く関心が払われないと表現したほうが正確です。


そんな軽量級不毛の地で、まともにメガファイトなど実現できる道理がないのです。
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シュガー・レイ・レナードはわずか11試合で5階級制覇を達成しました。1階級あたりの所要試合数は、あろうことか、わずか2.2試合!でした。

井上が戦う4BELT−ERA 4団体時代は、1団体時代から単純に4倍希釈されただけではありません。オリジナル8から17階級にクラスが2倍以上に細分化されただけではありません。

一つの団体が複数の「世界王者」を擁立する狂乱と倒錯の時代です。

これが何を意味するか?

タイトルの価値が暴落しているのは当然です。もちろん、無名のボクサーにとってはアルファベットタイトル、特にメジャー4団体のベルトはスターへの「通行手形」です。

カネロ・アルバレスでもパッキャオでもメイウェザーでもアルファベットタイトルなくしてスーパースターへの道は拓かれませんでした。

ただし、スーパースターになれば「通行手形」は不要です。承認団体の方から「ダイアモンド」だ「フランチャイズ」だと勝手に擦り寄ってきて奉りますが、そのパワーバランスは悲しいほどの差が開いてしまっています。

1団体時代は世界王者のベルトは「通行手形」などではなく「議論する余地のない王者」の証でした。

2団体時代はWBAとWBCの確執が生々しく、ミドル級など人気階級でしか「議論する余地のない王者」が誕生しにくい土壌が出来上がっていました。

そして3BELT−ERAになると「議論する余地のない王者=完全統一王者」は確固たるステイタスであり続けますが、一方でレナードに代表される「スーパースター絶対主義」がまかり通り始めます。

さらに闇が深まる4BELT−ERAでは各団体が同一階級で複数の王者を擁立するのは当たり前、そのランキングも以前にも増して我田引水の操作がなされ、もはや強いボクサーの順番ではなくなっていきます。

そして、ボクシングファンはあってはいけない光景、真実を突きつけられることになります。

ハグラーやタイソンが躍動した3BELT−ERAでは確固たるステイタスであり商品価値があった「議論する余地のない王者」は、4BELT−ERAでは様相が全く違ってくるのです。

確かな指標を見失った混沌の4BELT−ERAで、自力による完全統一に成功して議論する余地のない王者の座に就いたのはバーナード・ホプキンス(ミドル級)とテレンス・クロフォード(ジュニアウェルター級)、オレクサンダー・ウシク(クルーザー級)の3人です。

彼らはハグラーやタイソンとは異なる動機で、全てのベルトを集めることに情熱を燃やしました。

人気が欲しい。莫大な報酬を手にしたい。メガファイトのリングに上がりたい。

つまりは、不人気選手が注目を集めようと躍起になった「通行手形」が「完全統一王者=議論する余地のない王者」でした。

そして、残念ながら、4BELT−ERAでは、その「通行手形」でメインストリートのゲートが開くことはありませんでした。

パッキャオやメイウェザーのメガファイトで「何のタイトルが懸かっているのか」は二の次、三の次で、パッキャオの出世試合にはメジャータイトルが一つも懸からないことも珍しくありませんでした。

オスカー・デラホーヤ、フロイド・メイウェザーJr.、マニー・パッキャオ、カネロ・アルバレス…4BELT−ERAを代表するスーパースターは一人も完全統一王者になっていません。

今の時代、ファンもスーパースターも完全統一への執着はほとんど無いと言い切って差し支えないでしょう。


さて、今日のテーマ「パッキャオが見た風景」とはそいうことなのです。

「通行手形」としては重宝したアルファベットタイトルも、スーパースターの座を手に入れるとその必要性は下がり、承認団体の方から変なベルトをこしらえて参拝してくるようになります。

「パッキャオが見た風景」のランドスケープは、完全統一王者には目もくれないで、いかに自分の商品価値を上げてメガファイトを繰り広げるか、でした。

一方で、現状の井上が目指しているのはクロフォードやウシクの道です。

意地悪な見方になりますが、バンタム級を完全統一した地点から見える風景は「パッキャオが見た」ものではありません。

それは「クロフォードやウシクらが見た」風景です。
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ゴールデンボーイ・プロモーションとギクシャクしていたのは今に始まったことではありませんが、このコロナ禍でDAZNとの関係も急速に悪化、確執の舞台はついに法廷に持ち込まれることになりました。

日本時間の今日、カネロ・アルバレスが、自身のプロモーターとブロードキャスターを訴えました。

訴状によると、カネロがカリフォルニア中央地区連邦地方裁判所に訴えたのは「11戦3億6500万ドルの契約が忠実に履行されていない」ということで「少なくとも2億8000万ドルの損害賠償」を求めている模様です。
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パンンデミックで延期になっているカネロの次戦、その対戦相手を巡ってもカネロと、DAZN&GBPの間が紛糾していました。

"I'm the pound for pound number one in the world. I'm not scared of any opponent in the ring, and I'm not going to let failures of my broadcaster or promoters keep me out of the ring," he said in a statement on Tuesday. "I filed the lawsuit so I can get back to boxing and give my fans the show they deserve."

カネロは「私にもPFPキングのプライドがある。私はリングの中では、誰が相手でも恐れない。しかし、リングの外でDAZNとGBPが私を貶めるような画策をめぐらせているのは許せない。これ以上いざこざを続けたくない。この訴訟で、ボクシングに集中出来る。ファンが期待するショウをお見せしたい」と声明を出しました。

GBPを代表してステファン・フリードマン(リング誌の実質オーナー)は「カネロはDAZNへの不満を爆発させただけ」と、GBPは関係ないと言わんばかりのコメント。

「GBPはしかるべき相手との対戦を提案しているのにDAZNは聞く耳を持たないばかりか、約束のカネも払わない」(フリードマン)。

DAZNはパンデミックからの収益悪化を理由に、契約ボクサーの報酬減を求めていますが、プロサッカーリーグとは大型契約を締結するなどそこまで財政が逼迫しているようには見えません。

もちろん、ボクシングビジネスは少なくとも現時点では失敗です。

日本時間の9日水曜日23時20分現在で、DAZNからのコメントはありません。
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new! フューリーvsワイルダーだけを見て体重差が全てと言い出すのは明らかな間違いです 
事実として、ワイルダーの対戦相手の中にはフューリーの体重を超えるボクサーも居た筈ですが、そういう重量級ボクサーもワイルダーは問題なくKOしています 

というか、現時点で既にクルーザー級が人気の無い隙間階級と化しているのに、更に間に階級を挟んでどうするのでしょう?グダグダになる未来しか見えません 

いや、そもそもヤードポンド法がウザったいですね・・・ 
クルーザー級を人間の境界、才能が無ければ越えられない壁と言われる100キロで区切れば良いんじゃないかと
 
2020-08-30 02:06:24 返信編集 暇つぶしの名無しさん 126.179.34.210

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このイラストで例えると、一番右側のヘビー級の巨大化がもはや許容範囲を超えているということ、それに反して超軽量級では意味のない階級細分化が進みすぎている。ーーそれが欧米の意見です。


「ヘビー級の大型化」は少なくとも1915年にジャック・ジョンソン(身長184㎝/リーチ188㎝/体重93.2㎏)がジェス・ウィラード(199㎝/211㎝/104.3㎏)に倒された頃から指摘されていました。

その後、ウィラードを粉砕したジャック・デンプシー(185㎝/189㎝/84.8㎏)や、50年代を席巻したロッキー・マルシアノ(179㎝/173㎝/83.5㎏)ら〝クルーザー級未満〟の世界王者が出現していますが、フロイド・パターソン(183㎝/180㎝/86.1㎏)がソニー・リストン(185㎝/213㎝/96.6㎏)にノックアウトされタイトルを奪われた1962年を最後に〝クルーザー級未満〟のまともな世界ヘビー級王者は、出現していません。

2003年のジョン・ルイス一点狙い1試合限定のロイ・ジョーンズJr.(87.5㎏)をまともな世界ヘビー級王者と考えるなら、2003年が最も最近となりますが…。

デオンティ・ワイルダー(201㎝/211㎝/99.3㎞)は2メートル超えの大巨人で、タイソン・フューリーとの再戦では104.8㎏で秤に乗りましたが、フューリー(273ポンド=123.8㎏)との差は甚大でした。

※スペックはいずれもタイトル奪取時。

「どんなに優れたライトヘビー級でもヘビー級王者にはなれない」。この有名なジンクスが破られるには、1985年にマイケル・スピンクスがラリー・ホームズを破るまで待たねばなりませんでした。

ヘビー級、すなわち無差別級は「17の階級で最も重い階級」ではなく「自分で自由に体重をデザインできる世界」という見方は確かにできます。
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アントニオ・マルガリート戦の前日計量で、秤に乗ったマニー・パッキャオ。151ポンドのキャッチウェイトでしたが、秤の針が示したのは144。154のジュニアミドル級から10ポンドも軽い目盛りでした。

ウェルター級のリミットも大きく下回る144ポンド=65.3㎏で、ジュニアミドル級154ポンド=65.9㎏のタイトルマッチで圧勝したマニー・パッキャオや、「140ポンドがベスト」と本人も自覚しながらウェルターやジュニアミドルでマネーを追求し続けたフロイド・メイウェザーは非ヘビー級でありながら「自分で自由に体重をデザインする」非凡なボクサーです。

しかし、彼らは変態で非常識な存在です。

階級制は、常識の枠組みの中から生まれたルールですから、当然常識的に考えるべきです。

190ポンド=86.2㎏で新設され、その後200ポンド=90.7㎏に引き上げられたクルーザー級は、ヘビー級の大型化に追いつけないサイズのボクサーが活躍する場所を創るという意味では、オリジナル8から水増しされた9つの「水増し階級」の中で最も納得出来るものでした。

そして、ヘビー級大型化の議論は今なお続き、WBCが「具体的に検討している」と公表した〝225〟ポンド級。

8月30日現在の競技人口を見てもクルーザー級は1211人、ヘビー級は1355人を数え、合計2566人。

105ポンドのストロー級(260人)からジュニアフライ(458人)、フライ(722人)、ジュニアバンタム(794人)、118ポンドのバンタム(1028人)の超軽量級は5階級にも細分化されているにもかかわらず3262人の競技人口にとどまっています。

「この5階級をフライとバンタムの2階級に集約すべき」「超軽量級でいたずらに3階級制覇や4階級制覇が続出している理由は明らか」という欧米ファンの意見に全面的に賛成は出来かねますが、その言い分は理解できます。

ワイルダーは世界王者になる前に352.5ポンド=159.9㎏のリチャード・グリーネJr.を、王者になってからも250ポンド=113.4㎏を超えるバーメイン・スティバーンやドミニク・ブルージールをKOしているから「ヘビー級とクルーザー級の間に体重問題は存在しない」というのは全く論点がずれた見方です。

また、競技人口こそクルーザー級はバンタム級の1.2倍に過ぎないとはいえ、選手報酬は5倍ではきかないでしょう。欧米での注目度という点でも比較になりません。

クルーザー級、200ポンド=90.7㎏は作れない「210=95.3㎏〜220ポンド=102㎏」で最高のパフォーマンスを発揮出来るボクサーの活躍の場を創る意味は、ボクサーの安全面を考えても十分にあります。

クルーザー級の誕生時と同様に「WBCの225ポンド構想」が、ESPNなど多くのメディアで肯定的な意見が多く見られることからも、他の水増し階級とは事情が違うことが窺えます。

「3ポンド=1.36㎏刻み(ジュニアフライ112〜フライ112は4ポンド差)の超軽量級で水増しクラスを廃級すべき」というのは、この5階級で偉大なボクサーが素晴らしいパフォーマンスを見せ続けていることを知らない欧米目線の意見とはいえ、日本のボクシングファンからしたら耳が痛い指摘です。

「17階級は多すぎる」というのは世界の共通意見でしょう。そして〝スーパークルーザー級〟の誕生で18階級に増殖することは、確かに「グダグダになる未来しか見えません 」

それなら、明らかに不条理に細分化された超軽量級5クラスを2階級に統合することで15階級に〝前進する〟という見方の方が、「スーパークルーザーなんて要らない」という拒否反応よりも理屈は揃っています。

承認団体が廃級を実施するわけがなく、WBCが〝スーパークルーザー級〟の新設を決定したなら、間違いなく他の団体も続き、18階級時代が幕を明けるでしょう。

当たり前ですが、現行17階級で唯一大型化するのがヘビー級ですから、ここを起点として「時代に合わせた新設階級を作るべき。問題は同級王座の乱立」という姿勢はWBCにしては真っ当です。

そして、遠くない将来、クルーザーとスーパークルーザー、ライトヘビーとクルーザーの間に横たわる全階級通じて最も大きな25ポンド=11.3㎏の溝を埋める「ジュニアスーパークルーザー級」や「スーパーライトヘビー級」の創設で、スライマン3世の時代にはめでたくキリの良い20階級時代を迎えているかもしれません。 

現在よりもさらにグダグダの未来がもうすぐやって来そうです。 
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