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対戦相手の質や内容から様々な疑問符がつくとはいえ「10年無敗」のジェイミー・マクドネルを112秒で粉砕した井上尚弥。

あの試合を見た全ての人が、井上の圧倒的なパワーを認めたでしょう。

明らかな調整失敗から病人状態の英国人はただでさえ遅鈍なパンチが、さらに遅くなっていました。打ち込みの遅さはもちろん、引きは更に遅く中途半端とあっては惨敗は当然の帰結だったとはいえ。

しかし、井上のテクニックについてはどうでしょうか?やつれた重病人をタコ殴りしただけ、には見えませんでしたか?

もちろん、階級制の格闘技とは、そういうことです。そういう危険と常に隣り合わせです。階級制、計量のある格闘技は「いかにして健康状態を保ちながら減量するか」も勝負を決する大きな要素です。

それにしても前日計量から12キロ、23%近い増量はありえない数字です。前日計量時の、血圧が上で89というの危険すぎる脱水症状の証拠です。ふらつきや、膝の震え、おそらくひどいめまいに襲われていたはずです。そして、一人で上着をつかむことも着ることができないほど力が入らない…エディー・ハーンは「あんな減量に耐えられたのはマクドネルだからだ」と自慢しましたがそんな問題ではありません。

リング誌電子版の名物コーナー「DOUGIE’S FRIDAY MAILBAG 」からの拙訳です。

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【読者投稿】5フィート10インチの長身ボクサーが118ポンドまで減量できるものなのですか?

 
DOUGIE’S answer*とにかく慎重に、じっくり時間をかけてなら可能かもしれない。計量時のマクドネルの頬のこけ方、体のやつれ方は異常だった。

ただ、過酷で急激な減量はボクシングの世界では珍しいことではない。 IBFライト級王者時代のシェーン・モズリーが135ポンドのライト級である時間は、公開計量の前後わずか数時間だけだ。

モズリーは、普段の150ポンドから3週間で15ポンドを絞っていく。そして計量をクリアしたら147〜155ポンド、つまりミドル級の重さでリングに上がることもあった。

衰弱している時間をなるべく短くするのが、計量のポイントなのだ。


マクドネルがモズリーのように効果的にリバウンドできるかが注目だ。

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モズリーも井上同様に圧倒的なスピードとテクニックも評価されたPFPランカーでしたが、最高評価を受けたライト級時代の彼は明らかにパワーボクサーであり、テクニックもスピードも付随的なものでした。

これは、今の井上に酷似しています。井上のボクシングもまた、典型的なパワーボクシングで、ワシル・ロマチェンコやフロイド・メイウェザーから匂い立つようなテクニックの香りはほとんどありません。 

パワーボクシングを否定しているのではありません。どんなスポーツでもパワープレイヤーのパフォーマンスは絶対的な魅力を放ちます。

ただ、野球のパワーピッチャーらと違い、ボクシングの場合はそのパワーの源泉が現状の計量システムからもたらされているのだとしたら…?
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 ⬆︎最近の世界戦での「リバウンド結果」(読売新聞5月4日朝刊)です。

井上尚弥の名前はありませんが、減量に苦しんでいたジュニアバンタム級時代後半は今回の6キロを超える増量だったであろうことは想像に難くありません。

日本人王者で傑出した世界評価を得ていた井上(マクドネル戦11.3%)と井岡一翔(ノックノイ・シップラサート戦11.42%)が「効果的な増量幅といわれる12%前後」 にきっちり合わせてきているのは、あらためて流石です。

一方で、村田諒太の増加率6.34%というのは目を引く数字です。「健康的な減量」のお手本です。それでいながら、リングに上がればパワーボクシングを展開するのですから、 彼のスタイルは本物です。

話は飛躍しますが、マニー・パッキャオやフロイド・メイウェザーがキャッチウェイトを要求してきても、深刻な犠牲や負担をかけずに対応出来るのではないでしょうか。

理想はパッキャオやメイウェザーのように実質的な増量をも視野に入れた体重コントロールですが、それは世界のトップレベルからもさらに遊離した次元の技術を持っていた彼らだからこそ出来る離れ業です。

現状では「前日計量システムで生じるリバウンドのアドバンテージ」を利用しない手はありません。現在のボクサーの優劣を分けるのは「減量と増量(リバウンド)をいかに適切にこなしてリングに上がるか」が大きなポイントになっているのです。

あのロマチェンコですら階級の壁、体格差には苦戦を免れない事実を突きつけられた昨今。ベストウェイトから増量して世界のトップを荒らし回ったパッキャオとメイウェザー、彼らのような異次元からやって来た遊離体をまた見たいという欲求もムラムラと湧き上がってくる今日この頃です。