ボクサーの世界評価とは、具体的には何なのか?

よく使われるモノサシとしては、「勝った相手の肩書き」があります。

まずは、①世界王者、②元・前世界王者、③未来の世界王者、という「世界王者」に何人勝ったかという尺度です。もちろん、見苦しいまでに王者乱立した状況では現役世界王者にも、いつ陥落しても不思議ではない穴王者は存在しますし、経年劣化した時期の元名王者に勝ってもあまり意味はありません。

「未来の世界王者」にも同じことが言えるだけでなく、当時世界ランカーだったビクトル・ラバナレスは、ラファエル・マルケスを8ラウンドKOに屠りましたが、この勝利で「ラバナレス、すげぇ!」と言う人は誰一人もいません。マルケスはデビュー戦、まだグリーンボーイでした。

1966年にファイティング原田との再戦も落としてしまい、3年以上もブランクを作った末にカムバック、1973年に世界フェザー級王者となって2階級制覇したエデル・ジョフレは、原田との対戦時、「黄金のバンタム」であっただけでなく、「未来の世界フェザー級王者」でもあったのです。もし、ジョフレが原田に2連敗して引退していたら、間違いなく「黄金のバンタムが負けたのは劣化してたから」と言われたでしょう。もう、ジョフレ様々ですね。

そして、この「世界王者」に何人勝ったかという尺度の上には、「殿堂入り選手に何人勝ったか」という最上級の物差しがあります。マニー・パッキャオやフロイド・メイウェザーらスーパースターになると「世界王者に勝った数」なんて数えてられませんからね。

もちろん、この「殿堂入り選手」もキャリアの黄昏時に勝っても額面通りに評価されないのは当然です。例えば、亀海喜寛が8月26日に、一発殿堂間違いなしのミゲール・コットに勝った場合は、これに該当してしまいますね。でも、きっと、勝っちゃうから、そうなりますね!


【今年、「モダーン部門」でカナストータの国際殿堂に〝入神〟するのはイベンダー・ホリフィールドと、マルコ・アントニオ・バレラ、そして今は亡きジョニー・タピア。ホリフィールドとバレラは、文句無しの一発殿堂です。しかし、クルーザー級時代のホリフィールドは本当に強かった!ヘビー級では体格差を跳ね返す、尊敬するしかない勝負根性を見せてくれました。=写真はリング誌2017年7月号から=】

残念ながら、日本人ボクサーが、世界王者時代の殿堂入りボクサーに勝った例というのは本当に稀有で、原田と柴田国明(ビセンテ・サルディバル)、平仲明信(エドウィン・ロサリオ)、井岡弘樹(柳明佑)だけです。

また、ここでいう殿堂入りは「モダーン部門の殿堂」であり、やはり日本人は原田しかいません。具志堅用高と大場政夫が手にした「オールドタイマー」ではありません(原田よりも後輩の大場、具志堅がオールドタイマーというのも何だかなぁな話です)。

殿堂でも、やはり「あれ?」と思うボクサーも時々入っちゃってるんです。ダニエル・サラゴザや、アーツロ・ガッティの殿堂入りには、「メキシコ枠」「激闘枠」と揶揄されました。「メキシコ枠」はさておき、「激闘枠」があるなら5年後、八重樫東を忘れるなと言いたいですね。あ、まだ引退してないですよね。失礼しました。また炎の拳を見せて下さい。

今回のタピアも、まあ、壮絶な人生がドキュメンタリーなどで度々取り上げられ、米国では非常に感情移入されたボクサーというのが大きかったようにも思えてしまいます。タピアは確かに、恐ろしく魅力的なボクサーでしたが、実績的にはタピアがありならユーリ・アルバチャコフも殿堂入りにふさわしいと思うのですが…。

【ユーリはロシア人ですが、日本人にとって鬼門の敵地タイで、あのムアンチャイ・キティカセムを2度にわたって圧倒したシーンは忘れられません。「マイケル・カルバハルやウンベルト・ゴンザレス、リカルド・ロペス、マーク・ジョンソンら殿堂入り選手に勝っていたら」と言われるのは、腑に落ちないですね。彼は日本デビュー時の「ユーリ海老原」の名を素直に受け入れられず(いろんな事情がありましたが、当然だと思います)、実力で劣る日本人王者が好条件でプロテクトされた国内で世界戦ができる一方、待遇面での不満は相当あったようです。仕方がないこととはいえ、悲しくなります。】

ユーリの他にも、渡辺二郎や、ヒルベルト・ローマン(メキシカンですが日本人に馴染みがあるので)も殿堂から遠ざけられています。二郎とローマンの場合は「同時代で傑出していたカオサイ・ギャラクシー(一発殿堂)に勝っていれば」なんて言われていますが、おいおい、な話です。

殿堂のハードルは日本人には高い気がしますね。カオサイだけでなく、張正九、柳明佑が殿堂入りなら具志堅もモダーンの資格がある時に殿堂入りするはずだと思いました。原田クラスのことをやってのけないと、日本人は殿堂入りさせないのか!って感じですね。

しかし、「世界的な評価」を求めるのなら、国際殿堂に入るようなアプローチ、つまり数字ではなく、とにかく強い奴に勝つことでアピールするしかありません。