【サドンデス型】

アンダードッグがバンチャーズ・チャンスをモノにする【サドンデス型】が最も起こりうる番狂わせ…そう思われがちですが、現実に頻発するのは、後付けとはいえ、起こるべくして起きた【ファンマ型】です。

しかし、衝撃度においてサドンデス型が強烈であることは間違いありません。

ファンマ型が両者の実力を読み違えた「そういうことか!」という予想やオッズの〝ミス〟であったのに対して、評価は間違っていなかったにもかかわらず、その通りの結果が出なかったサドンデスの方が衝撃が大きいのは当たり前です。

レノックス・ルイスがオリバー・マッコールとハシム・ラクマンに食らった不覚の一撃、ウラジミール・クリチコが踏み外したコーリー・サンダースとラモン・ブリュースター。

誰もがパンチャーズ・チャンスの権利を持つヘビー級ならではの番狂わせでした。

一方で、たった一発のパンチでそれまでの負債を一気に精算するデオンティ・ワイルダーのケースは番狂わせとは別の構図です。ワイルダーはアンダードッグではありませんでした。

ワイルダー とルイス・オルティスのストーリーラインは多くのファンの想定内・期待通りだったのです。

予想していたのとは全く違う結末を突き付けられるのが番狂わせです。

その意味ではサドンデス型こそが、本当の番狂わせと言えるでしょう。

日本時間の明後日、フロリダのハードロック・スタジアムで21世紀最大の番狂わせが起きるとしたら…サドンデス型しか考えられません。
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ーーーーそして、予想とは全く違う結末にもかかわらず、それが番狂わせの衝撃だけでなく、より大きな感情の盛り上がりを巻き起こしてくれるケースもあります。
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【英雄誕生型】です。

最強にして最凶と恐れられたソニー・リストンを2度にわたって圧倒したばかりか、ジョージ・フォアマンをキンシャサに沈める呪術的な大番狂わせまで演じたモハメド・アリ。

アジアの軽量級という欧米の死角から、メキシコ時代の旗頭マルコ・アントニオ・バレラを突き刺し、ホンマもんの頂点、オスカー・デラホーヤを一方的に殴りまくったマニー・パッキャオ。

あのリングの熱狂は大番狂わせの興奮から噴出しただけではありません。新時代の幕開けを告げる勝鬨の歌だったのです。

この類型に当てはまるかどうかの判断が保留されているのが、テオフィモ・ロペスvsワシル・ロマチェンコでしょう。

リング誌がアップセット・オブ・ザ・イヤーに選んだとはいえ、あの試合に大番狂わせの衝撃、背徳の興奮を感じた人がどれほどいたでしょうか。

せめて、テオフィモが後半追い上げる展開ならまだしも、前半の貯金を後半取り崩す尻すぼみでは英雄誕生の絵面は見えませんでした。

英雄誕生には残酷な演出が必要なのです。

〝豪奢な王が生贄に供される儀式〟なのですから。



英雄誕生。その厳かな儀式が、超弩級の大番狂わせまで盛られる、そんな贅沢な瞬間を共有できるファンは幸運です。



ボクシングがまだメジャーだった時代、世界ヘビー級チャンピオンがスポーツの王様だった時代、カシアス・クレイがモハメド・アリに孵化した時間を共有できた先輩諸氏には、嫉妬しかありません。 

それでも、諸先輩方はモハメド・アリを〝地続き〟に見ることが出来なかったでしょう。

その意味だけでは、ざまあみろ、です。



〝地続き〟では無いかもしれませんが、私たちは日本人と体格の変わらないマニー・パッキャオを目撃する幸運に巡り会えました。

アンダードッグのアジア人が米国のスター選手を次々に撃ち落とす光景は「見たか!アジアの灼熱の拳を!!」(ボクシングマガジン)という言葉に集約される、戦慄と興奮と恍惚でした。

…ぜーんぶ、パッキャオが素晴らしいんであって、アジア人やましてや日本人や、ましてやましてや私がバレラやデラホーヤを叩きのめしたわけでもないのに「見たかーーッ!」と我が事のように嬉しかったです…。

しかも、私はどっちも「パッキャオが惨敗する」と予想してたくせに…。


そして、しかし。

フィリピンは地続きではありませんが、日本人がカネロ・アルバレスを倒すかもしれません。あるいは、欧米で無視され続けた軽量級で、日本人がナジーム・ハメドばりの花火を打ち上げるかもしれません。

そんな〝地続き〟が、もうすぐ先の未来で待っているかもしれません。いやいや、待ってます!必ず待ってます!!予約済みの未来です!!!絶対の約束、アポイントメントです!!!!!



と、ここまで書いて、当たり前なことに気づきました。

モハメド・アリを知りながらーーーーーーマニー・パッキャオも、そしてカネロを倒すあの人も、テオフィモを2回泣かすあの人も、アジアでパッキャオ以来二人目のPFPキングに輝くあの人も、オンタイムで見ることになる人もたくさんいますよね。

大変失礼致しました!先輩諸氏、ずーーっと長生きして下さい!