やっと本題に入ります。

長谷川穂積と西岡利晃、そして井上尚弥。井上の場合は現在進行形ですが、キャリアを終えた二人との比較ということでここまでの19試合だけを切り取っての評価となります。

①3人の中で日本ボクシング界の命題「ファイティング原田超え」を果たしたボクサーはいるのか?

②そして、この3人のレガシーに順位をつけるとどうなるのか?
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まず「①ファイティング原田超え」は、もちろんリング内だけに限定します。日本列島を揺るがした人気の沸騰度で比較してしまうと、現代のボクサーは原田に指一本触れることさえできません。

ボクシングマガジンの独自調査(2020年7月号)によると、人気を測る主要な尺度の一つ、テレビ視聴率においてかつてのべ68人の世界王者が30%ラインを突破しました。

しかし、この3人は全くお呼びじゃありません。

対する原田はトップ10に5回も名前を刻んでいます。最高は63.7%(エデル・ジョフレ第2戦)。もはや、長谷川らと比較する対象ではありません。

価値観が単一的だった時代と現代を視聴率で比較するのは不公平という見方もありますが、現代でもサッカー日本代表の試合は50%ラインも突き破るケースがありますし、ボクシングでも亀田興毅が24位と26位にランキングされています。

長谷川と西岡、井上は「国民的関心事」のレベルには全く届きませんでした。

さらに、リング内での業績でも1団体10階級の時代に2階級制覇した原田の偉業は、現代のボクサーが超えるのはほぼ不可能です。

バンタム級史上最強はエデル・ジョフレで世界評価はほぼ一致していますが、防衛回数はわずか8。世界戦も13試合の経験しかなく星勘定は11勝2敗。

数字だけを眺めると長谷川の防衛回数10、世界戦15勝3敗も遜色ありません。リング誌は「60年代最強はモハメド・アリではなくジョフレ」と評価しましたが、だったら長谷川も「アリ以上」な気がしてきます。

さらに、井上に至っては3階級制覇で世界戦14と、数字の上ではすでに「ジョフレ超え」。内容も14戦全勝。もはや、ジョフレは眼中になくシュガー・レイ・ロビンソンと比較すべきかもしれません。

…もちろん、そんわけはありません。団体と階級の増殖に加え、それによる承認団体の我田引水ランキングが横行している現代と、原田の時代は同列に語れません。

ジョフレのバンタム級8連続防衛全KOは、4団体と17階級のフィルターを掛けると70連続防衛全KOにも匹敵しますが、穴王者と雑魚挑戦者を量産する我田引水ランキングを考慮すると、大橋秀行会長ではありませんがそれこそ70どころか「天文学的数字」になります。

そんな、ジョフレのキャリアにたった二つだけの黒星、それを刻み込んだ原田を超えるには、ジョフレ級の途轍もない強敵を倒すしかありません。それを考えると、そもそもそんな本物の怪物に井上が勝てるわけがありません…。

「国際ボクシング名誉の殿堂」でファイティング原田は長らく「アジア最高のボクサー」でしたが、マニー・パッキャオの進撃によって2007年に「アジア」は「日本」に格下げされてしまいました。

当時は、マルコ・アントニオ・バレラにエリック・モラレス、ファン・マヌエル・マルケスの一発殿堂&PFPファイターのメキシコ包囲網を突破していた頃です。階級ではフェザーからジュニアライト。

これをやらないと「原田超え」に届かないとしたら…現状の貧相極まる軽量級シーンでは絶対不可能です。
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ということで、「原田超え」からは退散して。

②この3人のレガシーに順位をつけるとどうなるのか?です。

現時点で、長谷川と西岡、井上に序列をつけるとしたらどうなるのか?

まずは、長谷川の41戦36勝(16KO)5敗のキャリアから振り返ってみます。

一発殿堂はおろか、殿堂選手との対戦経験もありません。現役のPFP選手との手合わせもゼロです。

現役の世界王者との対戦成績は2勝2敗。

勝利した最強の相手はウィラポン・ナコンルンプロモーション。バンタム級で第二次政権を樹立、14連続防衛中の安定王者でしたが、当時36歳の劣化バージョンでした。

安定していたとはいえ二次政権の内容は王座を奪った辰吉丈一郎と2試合、西岡と4試合と安易な日本人相手に6試合もあてたばかりか、強豪との手合わせはなく長谷川戦時の戦績(46勝1敗2分)に14連続防衛という数字の華々しさにもかかわらずPFPの俎上にもあがらない典型的な〝数字先行〟ボクサーでした。

長谷川は、アジアを代表するPFPファイターだったクリス・ジョンに引導を渡すことになるシンピウェ・ヴェチェカを判定でかわしていますが、やはり対戦相手の質は高いとはいえませんでした。

リング誌とESPNのPFP入りは果たせませんでした。それでも、リング誌のベストファイター100位で13位、ESPNでも得票するなど激しくドアをノックしました。そして、boxing scene.com では日本人初の海外メディアPFP入り。

しかし、世界王者になってからの3敗はいずれも中途半端な相手に凄惨なKO負け。

強い相手とはついに対戦がかなわず、中途半端な相手に粉砕された長谷川。

全盛期でもけして世界評価が高いと言えなかったウィラポンの劣化版から奪ったタイトルを、満場一致の階級最弱王者フェルナンド・モンティエルに奪われ、メキシコのファンも愛想をつかすジョニー・ゴンザレスと、英国のスター選手に狙い撃ちにされた典型的な穴王者キコ・マルチネスに圧倒された長谷川。

日本テレビは亀田一家へのアンチテーゼとして「THE REAL」と打ち出しましたが、長谷川は本物だったのでしょうか?少なくとも本物の強豪とはついに拳を交えることはありませんでした。

もちろん、軽量級で本物の強豪、それもビッグネームとなると「いない」というのがデフォルトです。世界の軽量級シーンで長谷川こそが最も大きな名前だったのです。

もちろん、日本のエースに危険な橋を渡らせたいと考える関係者はいません。それを最も嫌ったのは、山下会長が「恩義がある」とカメラの前で明言したWBCでしょう。

引退から4年経ちますが、殿堂入りとは無縁のまま、あの頃の「日本史上最高」の喧騒は何だったのでしょうか?