ボクシングに限らず、階級制のスポーツでは人気の格差、すなわち階級による貴賎が存在します。

また、陸上競技でもほぼ同じ距離を走る100mと110mハードルでは、その注目度は天地の差があります。

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体が小さく米国の人気階級で戦うのは難しいと自覚していた少年フェルナンド・モンティエルの夢の場所はラスベガスでビッグファイトの前座か「日本・東京のリング」でした。

もちろん、WOWOWのエキサイトマッチで「バンタム級は日本でこそ黄金とか言ってますが、世界的には層が薄く、欧米ではほとんど関心のない階級です」「アブネル・マレスやレオ・サンタクルスが踏み台にして去ってからは人気選手も皆無、上下を挟むジュニアフェザーやジュニアバンタムの方がまだマシです」なんて事実を口にできるはずがありません。

WOWOWでは17階級全てが「強豪ひしめくクラス」である事は仕方がないのです。

ただ、観る側までそれを真に受けてしまうのはどうなのか…。

軽量級が欧米で軽視されるのは仕方がありません。この後に及んで米国に軽量級を売り込むのは、草履を革靴よりも高い値段で売ろうとするのと同じです。

靴を知らない人々に、草履を売ろうとするのならわかります。

しかし、彼らはすでにヘビー級やウェルター級という履き慣れた靴を履いているのです。マーケットがジリ貧である米国では新しい需要は生まれません。ヘビーとウェルター、フライ&バンタムの3本柱などはありえません。

すでに、今年のアスリート長者番付でフォーブ誌は「米国市場でヘビー級と中量級は両立できない」と市場はパイの食い合いになっていることを指摘しています。

米国で歴史的・実績的・文化的にも、現在の関心度でも異様に低い軽量級がメガファイトに成長する土壌はありません。

長谷川穂積vsフェルナンド・モンティエルで、ジミー・レノンJr.に「世界的に最も注目されている二人のスーパースターが激突する。リングアナにとってこれ以上の名誉はない。私はオファーを受けたとき、ノーギャラで引き受けた」と言わせた帝拳。

あんな嘘丸出しのヤラセは要りません。

そして「西岡利晃のMGMメイン。パッキャオやタイソンが戦ったリングに日本人がメインで上がる」という、今では関係者の誰もが恥ずかしくて箝口令を敷くような馬鹿な真似は、これ以上繰り返してはならないのです。

いまの「井上尚弥のトップランク」からも、信者の反応からは全く同じ匂いが漂っています。
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リング誌では戦前予想もされなかった井上vsドネアでしたが、英国ボクシングニューズ誌は「食べず嫌いは損をする」と、軽量級に興味がなくても「ロマゴンや井上の試合を見てみろ」と啓蒙してくれました…効果はありませんでしたが。〜自宅横の栗の木からベランダに落ちたイガグリとともに〜

一番の被害者は、騙されっぱなしのファンではありません。過去から学習できない馬鹿は、本当の馬鹿です。

長谷川も西岡も井上も、必死で戦っているからこそ、その舞台はその情熱と才能にふさわしいリングであるべきです。

欺瞞は要りません。

井上vsエマヌエル・ロドリゲス、メインは地元のジョシュ・テイラーだったにもかかわらず、グラズゴーのアリーナは上階席は封鎖される寂しいものでした。

同じ規模の横浜アリーナでやってたらチケットは即売のフルハウスで地上波生中継されていたことは間違いありません。

トップランクのボブ・アラムの「井上の試合は埼玉に2万2000人を集めた。日本人は米国やラスベガスに憧れを抱いているから、その中のアッパー層10%2000人近くがベガスに押し寄せる。彼らはハイローラー(富裕層)。ホテルやカジノにとんでもないカネを落として楽しんでくれる」という目論見を「アホか?」と思うのは当然です。

しかし、アラムがプロモートする米国の試合をフジテレビやWOWOWが高額で買うとしたら、あながち見当はずれな期待ではありません。 「日本のビッグテレビが全く興味を示さなかった失敗例(ドネアvsモンティエル)とは事情が違う」のです。

ラスべカスやニューヨークのメガファイトでは絶対に主菜になれない、ストローからジュニアフェザーの欧米目線でいう〝超軽量級〟。

日本から見た重量級三役=スーパーミドル、ライトヘビー、クルーザーも同じですが、中量級のスーパースターが侵略したり、ヘビー級に近いことからも、日本でも三役階級は「エキサイティングな導火線」と見ています。

一方で、ライト級=軽量級の欧米からは、そこに進出してくるかもしれないフェザー級が興味の下限の精一杯です。「バンタムやフライはいくらなんでも小さすぎて無理」なのです。

しかし、欧米にとっての死角「ジュニアフェザー以下」 にこそ、ボクシングの面白さが凝縮されていることに多くの日本人ファンは気づいているでしょう。

というわけで、スピードとスタミナで中重量級を上回る軽量級の現時点の地勢図から、日本のボクサーがどこまで勢力を伸ばして、版図を拡大できるのかーーその可能性と、立ち塞がる恐るべきライバルの戦力を分析してゆきます。