カシメロ話です。

Ring.tv.&リング誌5月号から。 「もう6月号が届いてるのに!?」なんていう人は読み飛ばしてください。
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ジョンリール・カシメロ

彼は貧弱な母国と欧米で無視される軽量級の悲哀を、これでもか!と味合わされながらキャリアを築いてきました。

井上尚弥が、はるかに巨大な興行となる日本ではなく、チンケなイベントにしかならないラスベガスを選択した理由が「日本でやるよりもカッコイイから」だと聞いて「そんなボクサーが世の中にいるのか?」と驚愕したカシメロ。

カネのために戦っているフィリピン人にとって、ボクシングにファッションを持ち込む日本人は理解できないでしょう。

井上とノニト・ドネアの試合を「ものすごく興味深かった。試合開始から最後まで全部観た」という31歳のフィリピン人が漏らした最初の感想は井上がキャリアで初めて見せたいくつもの綻びでも、37歳のロートルの大健闘でもありませんでした。

「こんな大きな会場をフルハウスにしてバンタム級がメインイベント?2万2000人?チケットの平均単価が80ドル?井上が俺を選んでくれたら、ここで試合ができるのか?」。

3階級制覇を成し遂げたと言え、軽量級ではその報酬は信じられないくらいの格安です。もちろん、それは日本人だけは例外です。亀田興毅や井上は平均的な軽量級世界王者の20倍以上のファイトマネーを手にします。

しかし抜群に面白い試合を見せる、つまりハラハラさせるにもかかわらずクアドロ・アラスは…平均以下の軽量級世界王者の座に甘んじてきました。

マニー・パッキャオについて驚くべきは、実はその実力ではありません。

パックマンの何が人智を超えているかといえば、それは運です。

①ミンダナオ島からマニラへ貨物船のコンテナに忍び込んで密航…しかし当時は反政府ゲリラ対策で密航は重罪、ど素人の10代の少年がどうして無事にマニラに入れたのか?

②ボクシングはメジャー競技の比国テレビ予算は当時過去最高で、4回戦でも勇気を振りまくパッキャオはたちまち人気者、すなわち高額の報酬を得ることになります。

③日本での成功を夢見ていたパッキャオは日本中のジムやジョー小泉に自分を売り込みますが、全く相手にされませんでした。そのときもし才能を見抜かれていたらアジアの奇蹟は日本で「マニー小泉」としてそれなりに強い世界王者として終わっていました。

④当時世界最高のスーパースター、オスカー・デラホーヤのメガファイト、そのセミファイナルでリーロ・レジャバの対戦相手が直前で1度ならずも2度も対戦相手がキャンセル、台湾で名護明彦らと合宿していたパッキャオに「来週土曜日にMGMグランドガーデンアリーナに来れるか?」と電報が入ります。

⑤大番狂わせを起こしたパッキャオに当時の世界2大プロモーターが契約書と現金!を持って現われます。違法のはずの二重契約を結んだにもかかわらず、アラムもデラホーヤも鬼神の活躍を見せるパッキャオを裁判によってリングから遠ざけることができず、不倶戴天のはずのTRとGBPによる共同興行で戦うというありえない待遇。

⑥将来一発殿堂入りするメキシコ時代を代表する3人が、パッキャオを噛ませ犬として待ってくれているという、注目度が低い軽量級では考えられない時代の巡り合わせ。

⑦デラホーヤの再戦要求にメイウェザーが拒否して引退、死に場所を探していたスーパースターの白羽の矢を掴み取る強運。

…神様は、パッキャオに与えたいくつもの幸運のたった一つもカシメロには恵んでくれませんでした。

それどころか、パッキャオのせいでフィリピンのボクシングファンは米国に目線を向け。国内イベントの予算は削減され、カシメロはロードウォリアー(敵地巡り)を余儀なくされます。

カシメロの世界戦はほとんどが敵地、つまり母国ではゴールデンタイムから外れた時間帯でした。

母国のアイドルから世界的なスーパースターになったパッキャオとは違い、カシメロは無名のまま出稼ぎに飛び出した流浪の狼。

Quadro Alas は「軽量級のフィリピン人」。どこで戦ってもBサイドです。劣悪な条件と報酬を飲んで戦うロードウォリアーは、たとえ相手の母国で戦っても完全絶対Aサイドの井上やカネロとは真逆の存在です。

この忌々しいパンデミックがなければ、4月27日にラスベガスで井上尚弥と3団体統一戦を賭けた激闘(そうなるとしか想像できません)のリングに上がるはずでした。

カシメロにとって米国は練習拠点も置くホームでもおかしくないはずですが、ボクシングビジネスにおいて日本の軽量級エースは絶対です。

またもやQuadro Alas はアウエーのリングに上がります。それも、何から何まで全てが日本人のために用意されたリングに。

報酬という意味では、希望した「さいたまスーパーアリーナ」よりも厳しいアウエーです。

「勝ったら埼玉で再戦したい」。ロードウォリアーらしいモチベーションです。

試合は無期限延期になったために、専門家予想は出ていません。それでも、延期直前のオッズは井上vsドネアよりも接近した1−3。

専門家予想もドネア戦よりも井上に冷たいものになるでしょう。

ドネア戦で井上はなぜかPFPだけは上がりましたが、本音の評価は間違いなく下落しています。そして、カシメロはゾラニ・テテ戦であらためてジャイアントキラーの資質を証明しました。

ただ、それらを踏まえても井上がオッズの通りに有利です。