クイーンズベリー・ルールが制定された1867年から今年で153年が経ちました。

この長い歴史上、プロボクシングは一度も世界的な統括団体を持つことが出来ていません。

その代わり、というとあまりにもお粗末なその代わりですが、アルファベット3文字を組み合わせた承認団体=sanctioning body がいくつも跋扈しています。

いわゆるアルファベット団体が好き勝手にランキングを作成し、世界王者を決めているのが現代ボクシングの仕組みです。

数え切れないほど存在するアルファベット団体のタイトルを全て統一することは不可能です。つまり、現代ボクシングにおいて完全統一王者=Undisputed Champion は幻想に過ぎません。

しかし、メディアやファンはこの混乱に少しでも秩序をもたらす為に、4つの承認団体を「主要(major)」とし、主要4団体(major sanctioning bodies)の世界王者だけを認めることで完全統一王者、本当の世界王者が産まれる可能性を残しました。

それでも、1988年にWBOがわいてから32年間で完全統一王者はわずか4人しか輩出できていません。

主要4団体の責任者たちは例外なく口では「タイトルは多すぎる」と認めていますが、現実には同一階級に不可解な世界王者をいくつも捏り、世界を混乱に陥れています。

プロボクシング界の闇に巣食うアルファベット団体は、一つ残らず腐敗しています。

そんな絶対腐敗団体の正体に迫る、英国ボクシングニューズ誌3月26日号からスタートしたシリーズの御紹介です。



◀︎◀︎◀︎WBA その成り立ち▶︎▶︎▶︎

どんな癌細胞も最初は一つであるように、アルファベット団体の始まりも一つの組織からでした。

それが、WBAの前身であるNBA(National Boxing Association)です。組織が立ち上がったのは1921年、ロードアイランド。

NBAが最初に認定したのは世界ヘビー級タイトルマッチ(1921年:ジャック・デンプシーvsジョルジュ・カルパンティエ)。有名な「史上初の100万ドルファイト(ゲート収入)」です。
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当初米国13州の代表委員から構成されたNBAが目指したのは、当時圧倒的な権威を持っていたニューヨーク州アスレティック・コミッション(NYSAC)への〝挑戦〟と〝打倒〟。

当然、ニューヨーク州はNBAに加盟していません。

しかし、両者は当然のように異なる世界チャンピオンを擁立、NBAがもたらしたのは秩序ではなく混乱でした。

二つの団体、というよりも同じボクシング界に二つの派閥があると考えたほうがわかりやすいでしょう。

派閥の軋轢が業界の発展につながることは絶対的にありえません。いたずらに惑わせ、業界の地位を貶め、ファンに愛想を尽かされる。

それでも、それが派閥である限り業界全体を見ることは出来ません。

彼らには何を言っても無駄なのです。

今も昔も彼らは同じことを繰り返すだけ。「王者が2人いるのはおかしい。1人にしなければならない。そのためには対立団体の息の根を止めるしかないんだよ」。

順序が逆です。2つとも息の根が止まってくれたら、世界王者は1人になるのに。

幸いなことに、ニューヨーク州は「ボクシングなんて瑣末なことに付き合ってられない」と認定ビジネスに消極的になりす。
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そして、1962年8月23日、NBAはWorld Boxing Association(世界ボクシング協会=WBA)と改称。

それまでの悪行三昧をさらに整備して効率的に執行する体制を整えます。

団体経営とランキング作成の不透明さにNYSACはもちろん、欧州で影響力が大きいEBU(ヨーロッパボクシング連合 )、BBB of C(英国ボクシング管理委員会 )はWBAの加盟要請を拒否。

しかし、これは正義の旗のもとで挙げられた造反ではありませんでした。

腐った細胞が増殖する速度は速い。各国・各地域・米国各州が対等に評議する機関として設立されたWorld Boxing Council(世界ボクシング評議会=WBC)がWBAからの離脱を見越した根回しでした。

彼らは「ボクシング界の発展のために」と同じことを唱えますが、ファンやメディアから見たらやってることは派閥争いです。

WBA内部はWBCだけでなく、反乱分子が巣食っていました。

1975年までにWBA総会は中南米の勢力に完全に掌握され、本部はパナマに移されます。

そして90年代から2000年代はじめにかけてはベネズエラ、2007年からは再びパナマと、WBAは米国を一掃、濃厚なラテンの色彩を放ち続けています。

しかし、権力の中枢は1982年からヒルベルト・メンドサが握り、2016年にこの独裁者が死亡するとその座は息子のヒルベルトJr.に世襲されます。

満場一致の拍手で総裁に選ばれたヒルベルトJr.の姿は、どこかの世襲独裁国家とそっくり。


◀︎◀︎◀︎WBA そのタイトル▶︎▶︎▶︎

「私たちが認定したのが本当の世界王者」。その理屈は、まだ理解できます。

その意味でNYSACとNBAにはまだ最低限の分別がありました。

しかし、2人も3人も、いいえ、もっと多くの世界王者を1つの団体が承認しているとしたら? 

例えば、現在のヘビー級シーン。アンソニー・ジョシュアは「スーパー」王者。マヌエル・チャーは「レギュラー」王者。トレバー・ブライアンは「暫定」王者。

WBAは3人のボクサーを世界王者と承認しているのです。

ミドル級でもカネロ・アルバレスがスーパー、村田諒太がレギュラー、クリス・ユーバンクJr.が暫定。

ヘビー級とミドル級で多くの王者を作ることに熱心な理由は明らかです。

この2つのクラスでは、フライ級やバンタム級とは承認料の桁が二つか三つ違うからです。

現在、17階級で14人のスーパー王者、15人のレギュラー王者、8人の暫定王者が存在します。 17階級で39人の世界王者を承認しているのです。

これはWBAだけの数字です。そして、レギュラーと同等といわれる承認料が請求されるWBAゴールド王者はカウントしていません。

WBAは「誰が一番強いのか?」について全く関心がありません。興味があるのは「一つの階級に何人世界王者を作れるか?」です。


◀︎◀︎◀︎WBA そのランキング▶︎▶︎▶︎

承認団体のランキングは「強い順番」ではありません。

UBOジュニアフライ級王者アリ・ライミのことを忘れてはなりません。

25戦全勝全KOの完璧記録を誇ったイエメン人は、21世紀で最もミステリアスなボクサーです。

。。。。。アリ・ライミ。


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時間つぶしに思いつくままに書き殴っていると、書きかけの記事が山のようになってしまって、「下書き」として溜まる一方で、その中にアリ・ライミの話もあったのですが、ここで出てくるのか、アリ・ライミ…。

続きます。