カネロ・アルバレスとは何者か?

前回は日本のボクシング史上最大の「メガファイト」を振り返りましたが、今回は「ビッグネーム」。

メガファイトの舞台に上がるのはビッグネーム、ビッグネームが絡むからメガファイト…多くのスポーツでは確かにそうですが、そうとも限らないのがボクシングの魑魅魍魎たる所以です。

例えば、ローマン・ゴンザレスは軽量級史上初のPFPキングに就き、その座を2年も守りましたがメガファイトとは無縁でした。

ノニト・ドネアやリカルド・ロペスもPFP3位まで登り、ドネアはBWAAのシュガー・レイ・ロビンソン杯(年間最高選手賞)まで獲得しましたが、やはりメガファイトのリングに上がることはできませんでした。

ロペスに至っては女子ボクサーの前座など、屈辱的な扱いも受け続けました。

そしてロマゴンもドネアもロペスもリング誌の表紙を単独で飾ることはありませんでした。

軽量級の悲哀です。
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リング誌は1年前までGBPの子会社だったとはいえ、カネロマガジンの様相です。リカロペやロマゴン、ドネアの悲哀を思うと、井上の単独カバーも素直に喜びにくいものがあります。

一方、ジュニアミドルからライトヘビー級を制したカネロ・アルバレスはリング誌を何度カバーしたか…もはや数え切れません。

リング誌カバー率でいえばフロイド・メイウェザーはもちろん、全盛期のマニー・パッキャオも上回る頻度でしょう。

メガファイト同様、ビッグネームにも明白な定義はありません。

あえて定義づけるなら「人気」「報酬」「実力」 がモノサシになるでしょうか。

「報酬」は「人気」に比例するのはプロスポーツである限り当然ーーーというのは間違いです。多くのスポーツで「報酬」に直結するのは「実力」です。

例えばプロ野球の世界で斎藤佑樹の知名度はトップクラスですが、報酬は全く追いついていません。サッカーでもテニスでも、強さと報酬は同義語です。

また、松坂大輔のような衰えた選手は、どんなに人気のある伝説であっても低報酬に甘んじるしかありません。

しかし、ボクシングにはフリオ・セサール・チャベスJr.や亀田興毅のような人気者は実力不相応の報酬を手に入れてしまいます。

マニー・パッキャオの報酬は、テレンス・クロフォードやエロール・スペンスの10倍では済みません。

村田諒太もジャーモル・チャーロやデメトリアス・アンドラーデと戦うとなると不利予想、つまり実力は彼らより下と見られています。しかし、報酬は彼らの何倍も得ています。

井上尚弥の世界的な人気が高まっているのも、WBSSで優勝したからでも、ドネアに勝ったからでもありません。そんなの全く関係ありません。

WBSS優勝で人気が出るわけがありません、そもそも米国で不人気の階級を軸に展開しているトーナメントなのです。ドネアに勝って人気が出るなら、誰も苦労はしません。

井上の商品価値が急騰したのは、さいたまスーパーアリーナに有料観戦者を2万人以上も集客した光景を世界が目撃したからです。

米国や英国で中途半端な興行の前座を戦っていたら、井上は普通の軽量級です。誰も井上とは戦いたがらないでしょう。

この「人気=報酬」というボクシングの闇を凝縮した存在がカネロです。

チャベスJr.や亀田のような「実力」を伴わない「人気」「報酬」は厳しい批判の矛先に晒されてきましたが、温室で育てられたはずのカネロは、いつのまにか「実力」まで習得しているから厄介です。

厄介だと思うのは、カネロが躓くのを期待している私たちひねくれたボクシングファンですが。

もちろん、赤毛の人気者が勝ったゲンナディ・ゴロフキンは2017年バージョン。セルゲイ・コバレフも敗北と私生活のトラブル、さらに当日軽量のリミットで牙を何本も抜かれた状態でした。

カネロの実力がどこまで本物なのかは、まだいくつも疑問が残ります。

超強豪に勝ってるように見えるカネロですが、GGGもクラッシャーも劣化版でした。

どうして2015年のGGGとは戦わなかったのか?

どうしてアルトゥール・ベテルビエフではなくコバレフだったのか?

偶然やたまたまではありません。 リスクは負わなかったのです。勇気がなかったのです。

あのコバレフを追いかけまわして殴り倒した… 確かに衝撃的でしたが、今のライトヘビー級の帝王はコバレフではありません。あのコバレフは、かつてのコバレフではありません。

コバレフが「5年前ならカネロをKOできた」と悔しがらずに、「ありがとう、カネロ、本当にありがとう」と何度も何度も不自然なまでに感謝していた姿は、私たちアンチを少しだけ慰めてくれました。肉体はもちろん精神までもクラッシャーではなくなっていたことがはっきり伝わったからです。

あのリングにいたのは、誇り高きクラッシャーではなく、カネを恵んでもらって感謝しきりの物乞いだったのです。

8ヶ月前、去年5月にダニエル・ジェイコブスとぐずぐずの12ラウンドを過ごした、あれがカネロの正体でしょう。

相手が劣化と金欠に悩むコバレフでなければ、ライトヘビー級には上げなかったでしょう。

ロイ・ジョーンズJr.を思い出します。やったことは、全く同じです。強い主人のいない、弱い留守番しかいない家に入った空き巣です。そして、主人が帰ってくる前にとっとと退散。

納得できませんが、ジョーンズと同じ運命、空き巣から戻ったクラスで、大番狂わせに沈めてやりましょう。