歳を重ねると本を読んだり、映画を見たりすることが億劫になります。
私の性格が怠惰なだけですが。

特に新しいものには、食べず嫌い的に敬遠してしまうがちです。

ああ、でもそれは年とったからではないのかもしれません。もともと保守的で、既成概念から離れたフリして離れられない、しみったれた性質なんです。

そんな私が自分から手に取るわけのない軟弱な少女ファンタジーなカバーの「十二国記」シリーズを読むことになったのも、もちろん自分の意思ではなく人から薦められたからです。

今日、10月12日。その「十二国記」から18年ぶりに新作が出ました。 
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店員が売りたい、読んで欲しいという本なんでしょう、こんなチラシまで作った有楽町の三省堂では今日12日の朝8時から店頭発売するそうです。あいにくの台風…それもまた十二国記らしい話なのですが…。
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もう20年も前の話です。

結婚して子供が生まれて、自分の成長ではなく子供の成長を見守る第二の青春時代のような、そんな時期でした。

先輩からベビーカーやら子供服のお古をもらったり、学生時代の友人の結婚式に毎月のように出席してご祝儀と飲み会で安月給の生活が破綻寸前だったり…。

とにかく、慌ただしくて楽しい時代でした。

そんなとき、厄介な交渉をしなければならない仕事が舞い込んで来ました。

上司からは「非常にグレーな相手だから自分では最終判断するな」と助言された私は「非常にグレーって、それはグレーやのうて真っ黒でしょ?」と減らず口を叩きました。

いつもなら冗談に乗ってくる上司が真顔で「訂正する。真っ黒だ」と呟いたので、資料を受け取った私もそれ以上は聞きませんでした。

当時勤めていたのはカップヌードルから中東の巨大プラントまで、何でも扱う会社でしたが、土地取引はほとんど関わっていませんでした。

件の交渉相手は都心に大きな土地をいくつも持つ地主の代理人、といえば普通な感じですが、要は地面師でした。

誰も素顔を知らない、まあ地面師なんてそういうもので、結局は暴力団のフロント企業の代表だったりする「真っ黒」な輩です。

系列会社も絡む大事な取引先がこの地面師との不動産売買でトラブルになり、相手がどのレベルの反社なのか、要求が何なのかを最初に探りに行く仕事でした。

その相手が一筋縄ではいかない相手で系列会社の顧問弁護士まで手玉に取られたと聞いてましたから、ペーペーの私なんかが出向いてどうなるわけではありません。

要は時間稼ぎと、直接は誰も会えていない相手側のトップがどんな人物なのか、万一会えたら儲けものみたいな感じで私が選ばれたようです。

まだ、20代だった私は「お前みたいな下っ端に用はない」と言われたら、どう対応しようかいろいろ考えながら、普通の人は住まない赤坂紀尾井町にある大きなマンションに向かいました。

会社の人間から「昔、巨人のクロマティが住んでた」とホントか嘘かわからないことを聞いていましたが、マンションというよりもインテリジェントビルのような作りの建物でした。

会社と名前を告げるとオートロックが解除され、温厚そうな男性の声で「どうぞそのままエレベーターでお上がりください」と案内されましたが、もしかしたら後付けで勝手に思い込んでるだけかもしれませんが、シューーーッと上昇するエレベーターの中で抑えきれない嫌な予感が体の奥底から湧き上がってきました。

それは「相手の要求とはいえ、一人で来るべきじゃなかった」という類の嫌な予感ではありません。もし私から40分以内に連絡がなければ、駅で待機してくれてる他の社員が駆けつける算段でした。

しかし、私を拉致したり乱暴を働く相手ではないのは、わかっていました。

嫌な予感は会ってはならない相手がそこにいる、その予感でした。

その相手がそこにいるなんて絶対に想像すら出来ないはずなので、やはり後付けの予感だったのでしょう。

私を出迎えたのはインターホンで案内してくれた温厚な声の年配男性で、私を応接室に座らせると内線電話で「お若い男性がお一人で見えられました」と責任者、つまり〝一筋縄ではいかないお方〟に伝えました。

このままだとここで門前払いだなと、何とか食いつこうと思いましたが言葉が思い浮かびません。

すると、意外そうな表情で受話器を戻した男性が「どうぞ、こちらです」と奥へ促されました。

系列会社の顧問弁護士らでも直接の交渉出来なかった大物にこんなにあっけなく会えるのか、と私もあまりに意外な展開に「奥の部屋で待ってるのはお目当てのトップの人物ではないかもしれない」とも思いました。

私は、そこで「十二国記」を初めて目にするのです。



ーーーーー当時はバブル崩壊直前の時代。つまり、バブル絶頂期です。

なんだか信じられないようなこと、多くは品性下劣で思い出したくないようなことですが、よくよく考えると「楽してお金が儲かる」みたいな流れの世の中で、「二つの拳でしかカネは稼げない」ボクサーのあまりの潔さと純粋に私がボクシングにますます魅せられていったのは当然かもしれません。

それまで間歇的に購入していたリング誌を定期購読するようになったのも、この頃でした。浮き足立った世の中で、変わらぬ確かなものは毎月届くリング誌だけ…。

さて、ここからどうやってオブラートに包んでいくか、、、、。 





「十二国記」もまたスポーツです。

ファンタジー小説というよりも、山岳小説、登場人物はスポーツ選手のように純粋に人生の答えを探して行きます。

ファンタジー小説はすべからくスポーツではありませんが「十二国記」に限っては間違いなくスポーツ小説です。

あそこに描かれているのは、スポーツで最も大切なもの、その世界に他なりません。

つまり規律、Discipline の物語です。

ディシプリン。それが崩れたとき、国は傾き滅びる。それがもたらされたとき、破れた国は再び立ち上がる。




「十二国記」だけについて書くべきだったかもしれません。



よく考えながら、続きます。