興行規模のお話、その続きです。

■IBF/WBC世界ジュニアフライ級タイトルマッチ■

王者マイケル・カルバハルvsウンベルト・ゴンザレス(第二戦)

◉開催日時/会場:1994年2月19日/ザ・グレート・ウェスタン・フォーラム(現ザ・フォーラム)

◉入場者数:1万5002人

◉カルバハルの報酬: 100万ドル(この試合限りです)


米国軽量級のビッグファイトを語るとき、避けては通れない試合です。

それはまた、ボブ・アラムのヒスパニック路線への加速を象徴する〝作られた〟ビッグファイトでもありました。

カルバハルは勇敢で優秀なボクサーでしたが、米国で全く注目されない軽量級を売り出すには厚化粧の脚色は不可欠でした。

この試合はアラムによって「128ポンド以下で史上初の100万ドルマッチ」と喧伝されましたが、それはあくまでも軽量級不毛の米国での話。

「カルバハル」の1994年が1ドル100円を大きく割り込んだ時期であることは考慮すべきですが、1ドル100円換算でも1億円。

「具志堅用高」の1980年は1ドル250円。防衛回数が後半の放映権料2億円、ファイトマネー5000〜8000万円は約15年後の1994年に換算すると、実質1億円オーバーは明らかです。

しかもカルバハルがアラムの必死の工作で作られた「1回こっきりの100万ドルファイター」だったのに対して、具志堅の報酬は安定していました。

それどころか、具志堅の報酬は明らかに少なく(ジムとテレビ局が儲けていた)、ボブ・アラムが工作した「その場限りカルバハル」の「背伸び興行の100万ドル」とは明らかに違いました。

何度も繰り返しますが、五輪ボクシングが全米地上波生中継されていた1988ソウル五輪の銀メダリストのカルバハルですら、米国軽量級はこの有様なのです。

米国にバンタム級やらフライ級の需要が全くないのは明らかです。ましてや富裕層を招くカジノ&リゾーツで開催されるラスベガスにおいては女子ボクサーの前座にまで甘んじ、ついに生涯一度もメインを張ることのなかったリカルド・ロペスを見るまでもなく、大会場での軽量級需要は前座にしかありません。
 
ファン・フランシスコ・エストラーダが憤慨しているように、軽量級は米国では悲惨なほど人気がないのです。

大きな既得権益を持っていたドン・キングもヒスパニックと中量級の時代になることは理解、フリオ・セサール・チャベスやフェリックス・トリニダードらをリングに送り込みましたが、ボブ・アラムと比べると演出力が欠落しているのは明らかでした。

アラムは不人気軽量級でも、ヒスパニックを素材に五輪メダリストのスパイスを使って一大イベントに調理して見せましたが、それは一夜限りでした。

カルバハルは勇敢で優秀なボクサーでしたが、米国で軽量級を売り出すには厚化粧の演出・脚色は不可欠だったのです。

厚化粧はすぐに剝げ、カルバハル人気は続かず、軽量級は再び終わることのない氷河期を迎えます。

カルバハルは永遠の氷河期に現れた、一瞬の異常気象に過ぎませんでした。そこが、米国と日本市場と決定的に違う点です。

具志堅には「沖縄返還」、亀田兄弟には「頭のおかしい一家」という付加価値が加味されていたとはいえ「カルバハルの1試合限りの100万ドル」に比べたらビジネスとして成立していました。

その亀田兄弟の看板、興毅のクライマックスは内藤大助戦です。

 
◉2009年11月29日/さいたまスーパーアリーナ

◉入場者数:2万1000人

◉亀田興毅=1億円超/内藤大助=7000万円


日本で視聴率43 %を超えた興行規模。これをカルバハルvsゴンザレスと比べたら、アラムが可哀想です。

カルゴンも米国で地上波生中継されましたが視聴者数は500万人レベルで、無理やり人口比視聴率で考えると約10%、実質は2%以下でした。

軽量級のメガファイトとして、いまだに伝説化されている「カルゴン」の興行規模は、明らかに具志堅や、ピーク時の亀田を下回るものでした。

多くの人は「米国ではジュニアフェザー以下がカス階級なだけで、フェザーまでいけばパッキャオやハメドが〝工作無しの100万ドルファイター〟になっていたはずだ」と思い至るかもしれません。

しかし、歴史的グレートのメキシカンとの対戦に恵まれ、鮮烈な形でその包囲網を撃破したパッキャオの幸運と、イエメン王朝の寵愛を一身に受けたハメドは軽量級の奇跡と考えて差し支えないでしょう。

…フェザーの話はまた別の機会に。



◉開催日時/会場:2019年11月7日/さいたまスーパーアリーナ

◉入場者数:?人 
井上が視聴率で亀田を超えるのは不可能ですが、入場者数は迫って欲しいですね…。行けない自分が歯がゆいですが。

◉井上尚弥=?

日本の「軽量級でもラスベガス」という素っ頓狂な一部の蒙昧メディアと信者の思考回路に、あいまいな態度でごまかし続けてきたボブ・アラムに対して、「軽量級は日本が大市場で、メガファイトが実現できるとしたら日本しかありえない」と真実を見抜いていたプロモーターもいます。
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興行規模では世界最高の「日本の軽量級」に、世界のプロモーターがガチで競札に乗り出したのが辰吉vs薬師寺戦でした。

嘘を意識的についてカルバハルやパッキャオらを作ってきたアラムと、アリやタイソンを素材のまま売り出したドン・キング。

「(軽量級は)チャベスでも売れない」と嘆いたキングが、工作無しで桁違いのカネが動く日本に惹きつけられたのは当然でした。

もちろん「惹きつけられたら負け。こっちが弱くても向こう(日本)が寄ってくるようにするのがビジネス」というアラムの方が一枚上手なのですが…。

「ベガスでメガファイト」「黄金のバンタム」と虚構を盲信する低脳な輩とそれを先導する一部メディアが永遠に事実に目覚めないことを一番祈っているのはアラムです。

軽量級には「ラスベガス」も「マジソン・スクエア」もありません。

しかし、だからといって高額ファイトマネーが不可能であるわけではありません。過去には原田が当時ではモハメド・アリと片手で足りる数人のヘビー級を除けばボクサーとして最高報酬を得ているのです。

具志堅や辰吉、亀田はジュニアフェザー以下の軽量級でも報酬面ではカルバハルなど羨む対象ではありえませんでした。

それなのに「軽量級もラスベガス」という妄想と幻覚が見える低脳な人々が後を絶たないのはなぜでしょうか。

野茂英雄や中田英寿、イチローらの登場も、低脳を刺激してしまったのでしょうが…。

英国ボクシングニューズ誌は「重量級ボクシングの覇権は英国に移っているのになぜ米国を目指すのか?」というジレンマを特集してますので、紹介していきます。

日本の軽量級とは違い、重量級は米国が本場でした。それでも米国にトップを送り出す動機は、日本の野球に似ているかもしれません。「米国が注目する舞台で英国人が大暴れする」のが快感なのです。

ところが軽量級は「米国で注目」されていません。そこに低い注目度と、劣悪な報酬で戦う意味は全くありません。

ソフトボール選手が「何がなんでもヤンキースタジアムでプレーしたい!」という幻想を現実にしてしまうと「西岡MGM」になります。後悔先に立たずですが、WOWOWも西岡もあとになって触れることのできない恥ずべき興行を打ってしまったことは事実です。

長谷川の「ラスベガス発言」や、西岡の「現実のMGM」。 井上陣営の冷静さ、かつて井上が「ロマゴン戦は(ファンが騒いでいるラスベガスでなくても)どこでもいい。一番喜んでもらえる場所が日本ならそれでいい」という発言は現実をよく理解しているのが伝わってきます。

絶対的事実は「ラスベガスで日本人軽量級ボクサーがスーパースターになる」のは妄想の域を出ないということ。日本人軽量級ボクサーがビッグマネーとビッグネームを獲得する場所は、日本に外にないということ。

そして、世界の軽量級ボクサーが日本を目指すようなプラットフォームになることは可能ということ、です。