①ブローナーは完全に〝死んだ〟。

試合前からメディアやファンの〝十分に身に覚えのある〟誹謗中傷を浴び続け、試合後はより厳しい非難に晒されてしまったエイドリアン・ブローナー。

その矛先は3〜4つのラウンドを与えた3人のオフィシャルジャッジにも向けられています。

Total Punches By Round

FIGHTER

RD. 1

RD. 2

RD. 3

RD. 4

RD. 5

RD. 6

RD. 7

RD. 8

RD. 9

RD. 10

RD. 11

RD. 12

Pacquiao

6/49

7/48

14/66

7/39

10/55

12/49

19/69

6/36

11/52

6/35

9/38

5/32

Broner

2/22

4/24

4/23

8/31

5/27

6/23

3/18

3/24

4/23

7/27

3/31

1/22

-- Courtesy of CompuBox

トータルのパンチ統計も手数・ヒット数・ヒット率あらゆる側面から、王者が圧倒していましたが、ラウンドごとで見ても挑戦者がいかに無策で無能だったかが浮き彫りになっています。

パンチ統計は、試合を正確に映し出したものではないとはいえ、ここまで一方的だと、試合内容・展開が数字からでも想像できるでしょう。

「公式スコアカードは見ている人を馬鹿にしたものだった」(120−108と採点したESPN)。

「ブローナーは全てのラウンドで手数が劣悪なまでに少なく、第4ラウンドと第10ラウンドのみヒット数で上回ったがそれもたったの一発だけ。温情でこの二つの微妙なラウンドを与えても、窮地に立たされ何も出来なくなった第9ラウンドは10−8で118−109」(リング誌)。

ブローナーはダニエル・ポンセ・デレオンを番狂わせで破って脚光を浴びてからしばらくは「スターになる素質がある」と持て囃されましたが、技術的な未熟さと人間失格の日常が次々と露呈される中で評価は暴落してしまいます。

「防御に致命的な欠陥を抱えていることから世界水準の相手には攻勢をとれず防御一辺倒になる」「練習や試合中の態度が不誠実で、リングの外では犯罪者。彼は自分が軽蔑されることに我慢できないようだが、彼に対して向ける感情があるとしたら人間としてもボクサーとしても軽蔑しかない」。

WOWOWでは「メイウェザー2世と呼ばれていた」「今でもトップ選手」と持ち上げていましたが、それはWOWOW(浜田剛史さん)だけですね。

世界的には強豪にはたったの一度も勝っていない実力評価B級のファイターです。

そして「この試合は最後のチャンスだったが、彼の評価にとどめを刺す内容になった」(リング誌)ということです。

「ブローナーはまだ29歳、やり直す時間は十分にある。パッキャオ戦で健闘したら評価は逆転する。彼は今、人生最大のチャンスを迎えている」と応援していた五輪王者でプロでも世界王者の女子ボクサーのスター、クラレッサ・シールズも失望しています。

「どうして?私が彼の立場なら全てをかけてパッキャオを倒しに行く。パッキャオなんて存在は女子にはいないから、羨ましくて仕方が無い。勝つとか負けるとか問題じゃ無い、自分の全てを賭ける価値がある。採点が劣勢なのは本当はわかっていたはずなのに、なぜ事態を打開するために攻めなかったのか。どんなゲームプランを描いていたのか。とにかく彼には幻滅した」。


②パッキャオはまだトップリーグにいる。

ほぼ全ての専門家が「ブローナーに勝ち目は無い」と断定していたのは、ブローナーがB級ファイター(リング誌やESPNなどの階級別ランクでは10位にカスることすらない)だからです。

そして、パッキャオの評価は A-でした。

とはいえ、エロール・スペンスJr.、テレンス・クロフォード、キース・サーマンのトップ3に続く第二グループの一人と見られていました。

今回の試合もブローナー相手ですから、勝って当然とはいえ内容は圧勝です。「ブローナーをシャットアウト出来る可能性があるボクサーはトップ3とパッキャオだけだろう」(ESPN)と、第二集団から一つ抜けた格好です。

大きなイベントに慣れているはずのブローナーでも「いつもと雰囲気は少し違った。(パッキャオは)大きく見えた」と本音を漏らしているように、大舞台での経験と対戦相手を飲み込むオーラはトップ3選手でも遠く及びません。

トップ3選手にとっても40歳のサウスポーがあらゆる角度を使って攻め込む波状攻撃は、簡単には対応できないでしょう。

もしパッキャオと戦えば、スペンスとクロフォードでも序盤はポイントを失うはずです。

そして、2年ぶりに米国リングに帰ってきたパッキャオをファンもメディアも大歓迎しました。

この間、リング内ではジェフ・ホーンに地元判定とはいえ、まさかの敗北。リング外でも同性愛者を「動物以下」と発言して、ナイキなど多くの企業がスポンサーを降りました。

それでも、米国のボクシングメディアとファンは伝説の帰還を心待ちにしていたのです。

アスリートとしても、エンターテイナーとしてもパッキャオはまだトップリーグにいることが証明されました。


③大統領選への出馬は、間違いなくある。

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今回の試合もフィリピン中の公園や刑務所を含む公共施設でパブリックビューイングが提供され、自宅でTV観戦した人も合わせて、ほぼ全ての国民が英雄に声援を送りました。

現在の大統領は〝フィリピンのトランプ〟ロドリゴ・デュテルテ。

2016年選挙で大統領の椅子を勝ち取ったデュテルテの任期は2022年まで。

任期延長も取りざたされていますが、2022年に大統領選挙が行われる公算大です。

立候補の資格は「上院議員であること」「満40歳以上であること」などでが、現時点でパッキャオはいずれもクリアしています。

フィリピン史上最大のスポーツヒーローは、グロリア・アロヨ、ベニグノ・アキノ3世、ドュテルテと三代の大統領から節目節目でマラカニアン宮殿(大統領府)に招かれ「この15年間で最も多く大統領府を往来した人物」でもあります。

のちに撤回していますが、私財を投じて始めたホームレスや極貧層に住居を提供する「マニー・パッキャオ ハウジング・プロジェクトについて「(議会での法案通過を待たずに)大統領令が使えたらもっと大規模にスピーディに進めることができる」と発言しています。

1年のほとんどの時間を議員活動に費やしていること、米国のグリーンカード取得を再三薦められながらも固辞し続けていること…あらゆる状況証拠が彼の野心を物語っています。

「パッキャオの頭の中は99%政治家=大統領、1%がボクサー」と見る、ESPNのナイジェル・コリンズの興味深い記事もどこかでご紹介します。