男女差別。

アジアにおいては、より深刻な形で根を下ろしていた、この宿痾も政治や経済の世界では徐々にですが改善しているように見えます。

もちろん、欧米ではさらに進んでいます。

しかし、ことスポーツの世界に目を向けると、アジアは言うまでもなく、欧米ですら太古の恐竜の死体のように男女差別が根深く絶望的に横たわり続けているのが現実です。

女子ボクサーのスター選手、ヘザー・ハーディーは「男性と同じように報酬をよこせ」と主張しています。

これはファン・フランシスコ・エストラーダら軽量級選手が「同じ世界王者なのに中量級との格差が悲惨なまでに大き過ぎる」と不満をブチまけているのとは事情が違います。

エストラーダの場合は、現実のテレビ視聴者数に代表される人気指数が異常に低い軽量級だから仕方がありませんが、ハーディの場合は「ほとんど変わらないのになぜ?!」ということなのです。
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女子とスポーツの間には、あまりにも多くの障害が横たわっている。ハーディー、格好いいですね。

昨年10月27日のダニエル・ジェイコブスvsセルゲイ・デレビャンチェンコのIBFミドル級王者決定戦をメインにしたイベントのセミファイナルに登場したハーディーはWBO女子フェザー級王者決定戦に出場、シェリー・ビンセントを判定で下しました。

HBOが全米に生中継した視聴者数は、ジェイコブスvsデレビャンチェンコが55万3000人、ハーディーvsビンセントは52万7000人とその差は4.7ポイントしかありませんでした。前者を100とすると後者は95.3です。

にもかかわらず、HBOが割り当てた予算は300万ドルと10万ドル。100:3.33ととんでもない格差だというののがハーディの主張です。

もちろん、視聴者はメインイベントに向けてテレビを付けるので、ジェイコブスとハーディが別の興行でそれぞれメインを張ったとして100:95.3のスコアを叩けるわけがありません。

カネロ・アルバレスの前座に出たボクサーが「視聴者数の割合に応じて報酬を出せ」と言うのと同じことです。

視聴者数100:95.3に対して、予算が100:3.33は低過ぎるという主張も、カネロが報酬6000万ドル、前座ボクサーがその約3%、180万ドルと考えると「180万ドルももらい過ぎ。視聴者数が多いのはカネロの前座だからだろ」と思えるのは当然です。メイパックやカネロのケースは完全な例外と考えなければなりません。

けしてメジャーでも儲かるスポーツでもない米国プロボクシングが、なぜか「世界で最も稼げるスポーツ」と愚かな勘違いされているのは、この3人だけが原因です。米国では、この3人だけがメジャースポーツと比べても引けを取らない報酬を稼いでいるだけです。

その他の有象無象は100万ドル稼げば超トップ、軽量級では世界王者になっても10万ドルも稼げないのが当たり前の世界です。

それでも、ジェイコブスとハーディーの人気を比較した場合、100:3.33の比率ではないのは明らかです。

ハーディーの主張は正しいと思います。「女子の予算や報酬を男子と同じモノサシで測れ」ということです。

人気や視聴者数の他に「男女差別」というモノサシは使うな、ということです。