「井上尚弥は強い相手と戦っていない」。

確かに井上はその17戦のキャリアで、まだ一度も不利予想のリングに上がっていません。

それは「強い相手と戦っていない」というよりも「井上が強いと見られている」「軽量級には誰もが認める超強豪が少ない」という事情があります。

ここでは、独断と偏見で軽量級の範囲をストロー(105ポンド)からジュニアフェザー(122ポンド)までと定義します(欧米ではジュニアライト級以下が軽量級)。

「軽量級には誰もが認める超強豪が少なく、なおかつ高額の報酬を得るビッグネームがいない」のですから「井上は強い相手、ビッグネームと戦っていない」という穿った見方は、因縁に近いものがあります。

軽量級ではめったにいない超強豪。そして、そもそも存在しないビッグネーム。

彼らが本当に存在しないのか、時計の針を逆回しして行きます。

その前に「超強豪」の基準も独断で定義します。

最もわかりやすく、多くの人が納得出来る(そうでないケースもままありますが)基準は「殿堂」でしょう。

しかし、殿堂の間口はあまりに狭く、現役で「一発殿堂確実」なのはフロイド・メイウェザー(現役とカウントするかどうか微妙ですが)とマニー・パッキャオだけです。

「一発かどうかは引退年のライバル次第だが、殿堂確実」(※)でもローマン・ゴンザレス、ノニト・ドネア、ゲンナディ・ゴロフキン、ワシル・ロマチェンコまででしょうか。

オレクサンダー・ウシクやテレンス・クロフォードも有力ですが、現時点の実績では微妙です。

ということで、殿堂よりも受け皿の広いPFP10傑を軽量級の「誰もが認める超強豪」とみなします。

PFPは、ESPNかリング誌かで迷いましたが、公正な投票制で1980年からランキングが蓄積されているリング誌の「BEST FIGHTER POLL」(専門家による投票制:随時更新している瞬間的なPFPや、毎年1月号で発表される「BEST FIGHTER 100」とは違うランキング)を〝世界基準〟とします。

そして「ビッグネーム」、人気=高報酬の〝世界基準〟は「1試合で8フィギュア(1000万ドル)」が世界基準ですが、それでは軽量級では歴史上一人も存在しないので、ぐっとハードルを下げて100万ドルとします。

まず、最新2017年から振り返ると軽量級で BEST FIGHTER POLL に入ったのは井上尚弥(6位)とシーサケット・ソールンビサイ(10位)のいずれも初ランクの二人。
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井上は24歳(当時)は私たちのトップ10リストで最年少ファイターだ。〜2018年リング誌4月号〜

しかし、二人とも「超強豪」のハードルはクリアしたものの、その報酬は100万ドルには遠く及びません。

SUPER FLY3つのイベントでいずれもメインに登場したシーサケットはどんどん報酬を引き上げたとはいえ、今年2月のファン・フランシスコ・エストラーダ戦で受け取ったのは25万ドルです。

井上の報酬で明らかになっているのは、昨年9月のSUPER FLY2の18万2500ドル(日本のスポンサー、テレビ局からの〝補填〟で日本での防衛戦並みの4000万円まで上乗せされたと言われています。欧米の軽量級は日本と比べて非常に貧困なクラスだという証左です)。

「ビッグネーム(人気=報酬)」のハードルを100万ドルまで引き下げても、PFPファイター二人ですら軽量級では世界評価の4分の1以下というのが悲しい現実です。


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それでは、BEST FIGHTER POLL が産声をあげた1980年まで、約40年の時間を巻き戻して「軽量級の超強豪」「軽量級のビッグネーム」を探してゆきます。



※殿堂は「年三人」という無意味な上限があります。

この四人が同じ年に引退すると5年後の殿堂入りは一人落選です。

さらにパックメイのどちらかの引退年が同じなら5年後の殿堂セレモニーには四人のうちの二人が名誉のリングをはめることが出来ません。

さらに、さらにパックメイ二人が同じ年に引退となると、5年後の殿堂枠はあと1しかないことになります。